カスタマーハラスメント(カスハラ)研修とは?目的・内容・実施のポイントを解説

理不尽な顧客からの要求、カスタマーハラスメント(カスハラ)は、従業員のメンタルヘルスを蝕み、企業の生産性をも低下させる深刻な問題です。2026年には法的義務化が迫り、組織的な対策が急務となっています。本記事では、カスハラから従業員を守り、企業の持続的な成長を支えるために行われる「カスタマーハラスメント研修」について解説します。具体的な内容から成功のポイントなどを紹介します。
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01カスタマーハラスメント研修(カスハラ研修)とは?
カスタマーハラスメント研修(カスハラ研修)とは、カスハラについての知識を深め、個人・組織としての対応力を向上させることを目的にした研修のことです。法律や条例で企業側にカスハラ対策の取り組み義務が発生したことによって、注目が高まっています。
そもそもカスタマーハラスメントとは
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客から企業やその従業員に対して行われる、理不尽なクレームや嫌がらせ、過度な要求を指します。これは、顧客の立場を利用した一種のパワーハラスメントと見なされることもあり、従業員の精神的な負担や休職、離職につながる可能性があるため、企業による対策が重要視されています。
カスハラ対策は近年、法的義務化の動きが加速しています。直近では、2025年6月4日に改正労働施策総合推進法が参議院本会議で可決・成立しました。この法律により、カスハラの定義(※)が明確に示され、労働者が1人でもいる全企業にカスハラ対策が「雇用管理上の措置義務」として義務付けられることとなりました。
また、この法律に先行して、2025年4月1日より「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が施行されています。これにより、多くの企業が既にこの条例を参考にカスハラ対策を始めています。
(※カスハラの定義)職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業環境を害すること
▶︎関連記事:カスタマーハラスメント(カスハラ)とは? 従業員を守る企業の対策について解説
▶︎参考リンク:厚生労働省|労働施策総合推進法の一部改正について
▶︎参考リンク:東京都カスタマー・ハラスメント防止条例
カスタマーハラスメント研修とは?
カスタマーハラスメント研修(カスハラ研修)とは、カスハラについての知識を深め、個人・組織としての対応力を向上させることを目的にした研修のことです。具体的には、カスハラの基礎知識や関連する法律知識・判例、個人・組織としての対処法などを学ぶ研修のことを指します。
早ければ2026年にカスハラ対策が義務化されるため、多くの企業でカスタマーハラスメント研修に対しての注目が高まっています。
02カスタマーハラスメント研修の目的
カスタマーハラスメント研修の目的は、(1)従業員のメンタルヘルスを守り、(2)カスハラへの適切な対応力を高めることで、(3)企業のリスク軽減と生産性を守るために行われます。
従業員のメンタルヘルスを守るため
カスタマーハラスメント研修の主な目的は、顧客からの理不尽な言動による従業員の精神的負担を軽減し、メンタルヘルスを守ることです。
カスハラは従業員に深刻な精神的苦痛を与え、休職や離職につながる可能性もあります。そのため、研修を通じて具体的な対応方法、関連する法律や判例などの知識を深めて、身を守る手段を身につける必要があるのです。
カスハラへの対応力を高めるため
従業員・組織として、カスハラへの対応力を高めることもカスタマーハラスメント研修の目的の1つです。特に重要なのは、正当なクレームとカスハラを正しく見極める力を養うことです。
研修では、具体的な事例や裁判例、ロールプレイやシミュレーション、ケーススタディを通じて、法的側面を含む知識と現場で即実践できる対応方法を習得します。これにより、従業員の精神的負担を軽減し、組織全体として安心して働ける職場環境を守ることを目指します。
企業のリスク軽減・生産性向上のため
カスハラによる従業員のメンタル不調によって、休職・離職が増加すると生産性低下に直結します。また、組織としての対応が定まっていないと、悪質なクレーマーによる長時間拘束などで業務が滞り、全体の生産性を低下させる恐れもあります。
研修を通じ、カスハラへの適切な対応力を高め、従業員を守り、安心して働ける環境を構築することで、結果的に企業全体の健全な運営と効率化を促進できるようになるのです。
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03カスタマーハラスメント研修の実施方法と選び方
カスタマーハラスメント研修の実施方法には、主に以下の4つがあります。
- 1:講師派遣型研修
- 2:eラーニング
- 3:公開型研修
- 4:社内研修
この章では、それぞれの手法の特徴、どのような企業におすすめかを紹介します。
1:講師派遣型研修
講師派遣型研修とは、外部の専門講師の派遣を受けて自社で開催する研修です。他社との合同受講ではないため自社に適した研修内容にできるという点が最大のメリットです。
また講師に来訪してもらうので、受講者は研修会場への移動の手間が省けることも利点と言えます。一方で他の研修方法と比べて費用がかかるため、予算面ではデメリットがあります。
2:eラーニング
予め制作された動画講座やオンライン教材を使用するeラーニング形式も、一般的な研修方法の1つです。受講時間や受講場所に制限がないので、大人数に研修受講を促したい企業、多忙な管理職に研修を行う企業、多拠点展開やリモートワークを導入している企業に適しています。
一方、外部の教材を利用する事が多いため、内容のカスタマイズ性に欠ける点はデメリットです。
3:公開型研修
公開型研修とは、研修会社が所定の会場で実施する研修に応募・参加するタイプの研修です。講師派遣型よりも費用を抑えられたり、他社の人と知り合う機会になったりというメリットがあります。
一方でeラーニングと同様に研修内容は個社ごとに変えることはできないため、研修内容を確認して、自社に適した研修会社を探す必要があります。
4:社内研修
社内研修は、自社で社内講師を立てて行う研修のことを指します。発生する費用は人件費のみなので、最もコストを抑えられる研修方法です。
その反面、講師を担える人材がいるかどうか、講師としての準備に充てる時間はあるかなど、クリアすべきハードルが高い点に注意が必要です。
04カスタマーハラスメント研修の主な内容
カスタマーハラスメント研修の主な内容には、以下があります。
- 1:正当なクレームとの見分け方
- 2:カスハラに該当する行為の例
- 3:カスハラの対応方法
- 4:対応時の注意点
- 5:組織としての対応方針の策定
- 6:マネジメント層の役割
- 7:従業員への周知・啓発方法
- 8:部下から相談を受けた際の対応方法
- 9:従業員のメンタルサポート
多数のテーマがありますが、1~4はカスハラに直接対応する従業員向けの内容で、5~9は管理者向けの研修内容となっています。この章では、それぞれの研修内容に対して詳しく紹介します。
1:正当なクレームとの見分け方
カスタマーハラスメント研修で重要なのが、クレームとカスタマーハラスメント(カスハラ)の違いを理解し、見分けられるようになることです。顧客からの苦情の中には、真摯に受け止めなければならないものもあります。
真っ当な指摘なのか、カスハラなのかを見極めるためには、徹底して顧客の話に耳を傾けることが肝心です。
カスタマーハラスメントかどうかの判断基準は主に、以下の二点です。
- 1:顧客の要求内容に妥当性があるか(企業の過失に基づく正当なクレーム、または根拠のある要求になっているか。あるいは理不尽な言いがかりに過ぎないか)
- 2:要求を実現するための手段や態様が社会通念に照らして相当か(大声での恫喝、暴力、長時間の拘束、土下座要求などは社会通念上許容される範囲を超える)
研修を通じて、従業員が対応すべき事案とカスハラとして報告すべき事案を見極める力を養う必要があります。
2:カスハラに該当する行為の例
カスタマーハラスメントを見極めるためには、どのような行動や言動がカスタマーハラスメントに該当するのかの具体例を知っておく必要があります。そのため、カスハラ研修では法律で定められた定義に基づき、社会通念上許容される範囲を超える顧客の言動の具体例を学びます。
例えば、カスタマーハラスメントには以下のような行為が含まれます。
- 1:暴言(「ブス、バカ」など)、大声での恫喝
- 2:暴力(物を投げつける、唾を吐く、殴る、蹴る)
- 3:正当な理由のない深夜呼び出しや土下座要求、長時間の拘束(店舗への居座り、長電話など)
- 4:理不尽な返金要求、従業員個人へのつきまとい(ストーカーに発展する可能性も)
- 5:セクシュアルハラスメント
これらの行為が、脅迫罪、強要罪、不退去罪など、刑法や軽犯罪法に触れる可能性があることも学ぶと効果的です。
3:カスハラの対応方法
カスハラに適切に対応するためには、トラブルの未然防止や適切な対応方法も学ぶ必要があります。例えば対応の基本として、「1人で対応せず複数名で臨むこと」、「電話の録音や監視カメラの映像など、記録を確実に残すこと」などを学びます。
また、暴言型、暴力型、時間拘束型といったパターン別の具体的な対応例をケーススタディで習得し、度を越した行為に対しては、警察への通報や弁護士への相談を検討する基準を明確に設定します。
緊急時の報告・連絡・相談のフローを明確にすることも重要な内容です。
4:対応時の注意点
カスハラの対応をする際には、相手の勢いに負けて安易に会社全体としての責任を認めてはいけません。謝罪する際は「不快な思いをさせたこと」など、対象を明確に限定する必要があります。
また、状況を冷静に正確に把握し、顧客の名前や主張などの情報を現場責任者や相談窓口へ速やかに共有・連携すること、会社としての統一的な判断基準に従う点も重要です。
同時に最初からカスハラと決めつけず、まずは通常のクレーム対応の基本手順を踏むことなどを、事態の悪化を防ぐ上での注意点として学びます。
5:組織としての対応方針の策定
カスタマーハラスメントに対して、企業は対応マニュアルの作成と対応手順の策定などを行い、全従業員が同じように対応できる状態を作る必要があります。そのため管理職を対象にしたカスハラ研修では、法改正によるカスハラ対策義務化の背景や、事業主の「雇用管理上の措置義務」、そしてそれを基にした「企業としての対策の基本」を学びます。
6:マネジメント層の役割
管理職はカスハラから従業員を守り、組織の安全を維持する役割を担わなければなりません。研修では、カスハラ対応をめぐって管理職が担う役割を理解し、適切に行動できるように支援します。具体的な管理職の役割としては以下の通りです。
- 1:カスハラ対策の法的義務と組織方針の理解(会社としての基本方針を策定・明文化し、従業員に周知する役割)
- 2:対応体制の構築と実践(相談窓口設置や対応手順の整備、迅速な事実確認、再発防止策の実施を主導する役割)
- 3:部下のサポートと連携(現場担当者の二次対応、情報共有、メンタルヘルスケア体制の確立を行う役割)
- 4:組織文化の醸成(カスハラを許さない文化を浸透させ、防止意識を強調する役割)
05カスタマーハラスメント研修を成功させるためのポイント
カスタマーハラスメント研修を成功させるには、実際にカスタマーハラスメントが発生しうる状況をリアルに想定し、従業員に実践形式でスキルを身に付けさせることが不可欠です。
ここでは、それら研修実施のポイントについて解説します。
あらかじめ組織としての対応方針を明確にする
特に現場でカスタマーハラスメントの一次対応を行うことが想定される層に向けての研修を実施する際は、あらかじめ組織としての対応方針を明確にして、それをベースに研修を行うことが不可欠です。
対応方針やエスカレーションのルールが定まっていないと、例え研修で体系的な知識や対応スキルを身につけたとしても、いざ現場で対応する際に行動にばらつきが発生してしまいます。
前提となる知識と自社の対応マニュアルの双方を理解することで、研修の実効性が高まり、適切にハラスメントに対応することができるようになるのです。
現場に即した具体的な事例を扱う
企業や組織によって、発生しやすいカスタマーハラスメントの傾向は異なります。そのため現場に即した具体的な事例を扱うことも、研修効果を高める上で重要な要素です。
例えば社内で実際に発生報告があったカスハラのパターンをケーススタディで学ぶことで、従業員が「自分事」として捉えやすくなります。
これにより、研修のための研修ではなく、現場で即実践できる対応力を養い、研修の実効性と効果を飛躍的に高めることができます。
対応力を実践形式で身に付けさせる
カスタマーハラスメント研修を成功させるには、対応力を実践形式で身に付けさせることが極めて重要です。具体的には、現場に即した実例をもとにロールプレイやシミュレーションを行うことなどが挙げられます。
カスタマーハラスメントの現場は、相手が感情的、または攻撃的なコミュニケーションをとってくることが想定され、対応者は動揺や精神的な負担を感じる可能性が高いです。
研修で具体的なイメージを膨らませておくことで、実際に事態に直面した際に、冷静かつ適切な行動がとれるようになるのです。
06Schooのカスタマーハラスメント研修の講座をご紹介

オンライン研修/学習サービスのSchoo for Businessでは約9,000本の講座を用意しており、様々な種類の研修に対応しています。カスハラ研修はもちろんのこと、その他の階層別研修からコンプライアンス研修まで幅広いコンテンツで全てを支援できるのが強みです。
カスハラ研修のカリキュラム例
カスハラ研修のカリキュラム例は、以下のとおりです。
授業名 | カスハラから自分の心を守る |
時間 | 60分×1コマ |
研修内容 |
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授業名 | 接遇・クレーム対応の心得入門 |
時間 | 165分×3コマ |
研修内容 |
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受講者の声
受講者1 | カスハラ対応における心理的負担は、組織的に対応ができているかどうかでかなり変わりそうだと感じます。特に対応難易度の高いケースは切り分けて、組織対応することが大切だと思いました。 |
受講者2 | 正当なクレーム、不当なクレーム、嫌がらせなどの区分けを理解し対応できると、精神的負担が減らせそうです。また職場において発生しがちな傾向をまとめることも重要な術である感じました。 |
受講者3 | 当たり前のことを当たり前にできるように対応したいと思った。クレームの取次ぎ時に使える小技や,トラブル時の対応方法がとてもためになり、もっと早くに学びたい内容だった。 |
07まとめ
カスタマーハラスメント研修は、2026年に義務化されるカスハラ対策に対応し、従業員の安全とメンタルヘルスを守るための必須の取り組みです。
正当なクレームとの見分け方や具体的な対応方法に加え、管理職が組織方針を策定し、部下を支援する役割を習得します。
実践的な研修を通じ、心理的に安全な職場環境を構築し、企業のリスク軽減と生産性向上を目指します。