ジョブクラフティングとは|やり方やメリットについて解説
毎日の仕事に「やりがい」を感じ、活き活きと働けることは幸せなことです。しかし現実は上司の指示の下、与えられた仕事を黙々とこなしていくというように、「やりがい」を感じにくいことのほうが多いのではないでしょうか。ジョブクラフティングとは、仕事に向き合う心構えを変えることにより、単純な日常業務に「やりがい」を見い出していく手法です。当記事ではジョブクラフティングの概要と、従業員の「やりがい」が企業にもたらすメリットについて解説します。
01ジョブクラフティングとは
ジョブクラフティングとは、「社員が仕事に対する認識や行動を主体的に修正していくことで、仕事をやりがいのあるものに創り変えていく手法」のことです。
ジョブ・クラフティングには、業務自体のクラフティング・関係性のクラフティング・仕事の捉え方のクラフティングの3種類があるとされています。仕事のやり方や、仕事で関わる人との関係性に変化を加えたり、仕事の捉え方自体を見直したりすることで、仕事にやりがいを主体的に創るのです。
▶︎参考:東京都立大学教授 高尾義明|ジョブ・クラフティング研究の展開に向けて:概念の独自性の明確化と先行研究レビュー
業務自体のクラフティング
業務自体のクラフティングとは、仕事のやり方や段取りを変えたり、工夫を加えたりすることで、主体的に仕事にやりがいを創る方法です。例えば、日々の定型業務にかかっている時間をストップウォッチで計測し、自主的にタイムアタックを行うなかで小さな改善点をみつけていく事例があります。
関係性のクラフティング
関係性のクラフティングとは、仕事で関わる上司、同僚や部下、取引先などとの関係性を見直したり、工夫したりすることで、仕事にやりがいを見出す手法です。例えば、slackやTeamsで投稿されたチャットに対してコメントを送るようにしたり、自身の弱みを曝け出して助けを求めるようにしたりするなどが、関係性のクラフティングの主な例です。
仕事の捉え方のクラフティング
仕事の捉え方のクラフティングとは、業務や仕事の意味・目的の捉え方を変えることで、仕事にやりがいを見出す手法です。ジョブクラフティングの話をする際には、パーパス経営の潮流も相まって、この仕事の捉え方のクラフティングの話を中心に行われることが多いです。
仕事の捉え方のジョブクラフティングを説明する際に、ピーター・F・ドラッカーが著書で紹介している「3人の石工(レンガ職人)」という以下の話がよく使われます。
ヨーロッパを旅行中に出会った3人の石工に対して「何をしているのですか」と尋ねた。1人目の石工は「親方の指示でレンガを積んでいる」、2人目の石工は「レンガで塀を作っている」、3人目の石工は「お祈りするための大聖堂を造っている」と答えた。
これは、同じ作業をしていても捉え方により、その作業に意味を見い出せるかどうかを端的に説明しているエピソードです。3人目は仕事に対して、主体的に仕事に取り組んでいることが分かります。仕事の捉え方のジョブクラフティングは、この3人目の石工の意識を持つことを目指すことと言えます。
02ジョブクラフティングとジョブデザインとの違い
ジョブデザインとは、経営者が社員に対して、働きがいがある仕事を設計し、割り振ることを指します。ジョブデザインもジョブクラフティングも働きがい・モチベーションに関連する理論ですが、主語がどちらにあるのかという点が異なります。
ジョブデザイン | ジョブクラフティング | |
基本的アイデア | マネジャーが、従業員の内発的動機づけや職務満足が高まるように、従業員の職務を変更する | 従業員自らが能動的に仕事や人間関係を変更し、自分の仕事の経験を創り上げることができる |
変更する主体 | マネージャー(組織) | 従業員自身 |
従業員の捉え方 | 画一的/受動的存在 | 個別的/能動的存在 |
注目点 | 客観的側面に注目 | 主観的側面にも注目 |
ジョブデザインは、マネージャーが与える仕事の範囲を広げたり、仕事の任せ方を工夫したりすることで、社員の仕事にやりがいを与えます。一方で、ジョブクラフティングは社員が主体的に、目の前の仕事を自分なりの手触り感のある経験に作り変えることを意味しています。
03ジョブクラフティングが注目される背景
日本において、ジョブクラフティングが注目された背景は、働き方改革の影響があります。働き方改革によって、自由な働き方が選択できるようになりつつあると同時に、コミュニケーションの希薄化など新たな課題も出てきました。
ただし、以前のような出社必須のような働き方に完全に戻ることはないでしょう。供給が追いついていないエンジニアにおいては、会社が出社必須になったという理由で転職をしたという人も少なくありません。そのため、この働き方の自由を担保した上で、それぞれの社員が自律的な働き方をすることが求められているのです。
企業側としては、働き方の自由を担保しながら、社員のエンゲージメントも高めなければなりません。このような課題の解決策の1つとして、社員が主体的に、目の前の仕事を自分なりの手触り感のある経験に作り変える取り組みであるジョブクラフティングが注目されているのです。
04ジョブクラフティングの目的
ジョブクラフティングの目的は、従業員が仕事に対する満足度やモチベーションを向上させることです。これには、まず従業員が自身の興味やスキルに合ったタスクを増やし、仕事の充実感と生産性を高めることが含まれます。また、職場で支援的なネットワークを築き、良好な人間関係を促進することで、ストレスを軽減し、職場での幸福感を向上させます。さらに、仕事の意義や価値を再評価し、ポジティブな視点を持つことで、自身の役割を意義深いものと感じられるようにします。
これにより、従業員は自分の役割に対するコントロール感を持ち、強みを活かして働くことができるようになります。結果として、組織全体のエンゲージメントが高まり、離職率の低下や業績の向上といったポジティブな成果が期待されます。ジョブクラフティングは、従業員の自主性を尊重し、柔軟な働き方を推進することで、より良い職場環境を実現するための有力なアプローチです。
05ジョブクラフティングが企業にもたらすメリット
企業がジョブクラフティングに取り組むことにより、さまざまなメリットが期待できます。それまで受け身だった従業員が能動的に仕事をすることで生産性は向上し、事業活動に良い影響をもたらすのではないでしょうか。
従業員が能動的になる
従業員が日々の業務に意義を見い出し、能動的な姿勢に変わることによって業務の効率化や生産性の向上といった成果につながります。当事者意識が生まれ、責任感やプロ意識も向上するのではないでしょうか。何より、従業員が活き活きと働いている姿は、企業に勢いをもたらすものです。
アイデアが生まれる
ジョブクラフティングにより、これまで機械的に行っていた作業を新たな視点で捉え直すことで、意義がある業務として認識できるようになります。より深く自分の業務を捉え直すことで、創造的なアイデアや発想の転換が生まれやすくなるのです。具体的に業務の効率化や新製品のアイデアといった、好ましい成果につながっていくのではないでしょうか。
適材適所
従業員が主体的な考えをもつことで、業務を効率的に進めるために作業手順や役割分担を自主的に見直すようになります。従業員どうしで話し合い、さまざまな工夫を始めれば、それぞれの得意分野を生かした適材適所の人員配置が自然にできあがります。こうした過程において、リーダーシップを発揮する従業員が出てきて、組織は活性化するのではないでしょうか。
従業員満足につながる
日々の業務を主体的に取り組むことにより、「やりがい」を感じられるようになれば従業員満足度が高まります。目標意識や達成への執着といった事業の参加意識も高まり、実際に目標を達成することにより、大きな達成感を覚えるようになります。自分の仕事の価値を理解し活き活きと働けるようになるのです。
生産性の向上
ジョブクラフティングは従業員が自身の仕事をより意義深く感じられるように促します。従業員が自分の興味や強みに基づいてタスクを再設計することで、仕事に対するモチベーションが高まり、取り組む意欲が増します。例えば、得意な業務に集中できるようになると、業務の質が向上し、効率も上がります。また、自発的に新しいアイデアを導入したり、業務の改善策を見つけ出したりするため、イノベーションが促進されます。このような環境は、全体的な生産性を大きく向上させます。
離職率の低下
ジョブクラフティングにより従業員は自分の仕事に対してより大きな満足感と達成感を感じるようになります。自分の役割に対するコントロール感が増し、仕事の意義を見出すことで、職場に対する愛着や忠誠心が高まります。また、職場での人間関係が良好になり、支援的なネットワークが形成されることで、ストレスが軽減され、働きやすい環境が整います。これにより、従業員の離職意向が低下し、長期的な雇用関係が維持されやすくなります。
06ジョブクラフティングの進め方
ジョブクラフティングの進め方を5つのステップで紹介します。個人でジョブクラフティングを進めたい方は参考にしてみてください。
1:現状のタスクを見直す
まず、自らのタスクを把握しましょう。どのような仕事をしていて、それにはどのようなスキルを用いているのか、どれくらいの時間を割いているのか、それは全体の何%を占めているのかを紙やエクセルなどにまとめてみてください。
2:情熱・強み・価値を明確にする
次に、「情熱・強み・価値」をめいかくにしましょう。これらはジョブクラフティングをする上で、重要な基準になります。
- ・情熱:強い興味・関心があること(仕事に限らない)
- ・強み: 自分が成果を出す上で役立っているスキル
- ・価値: 人生の中で重要としている指針、仕事を通して最終的に得たいこと
3:タスク・クラフティング
1で洗い出したタスクと、2で書き出した情熱・強み・価値を繋げ、現状のタスクが2に沿っているかどうかを確認しましょう。例えば、1で新規事業を生み出すことが全体の6割を占めており、2で自分の情熱に新規事業を作ることがあるのであれば、それはジョブクラフティングの観点から十分な状態にあると言えるでしょう。
4:自ら改善できる箇所を探す
自ら言語化した情熱・強み・価値と現状タスクをどう接合させていくのか、具体的に改善できる箇所を探しましょう。まずは出来ることから自分なりに創意工夫してみるということが重要です。
5:他者との関わりを見直す
ジョブクラフティングを自身で完結させないためには、他者との関わりを見直すことも大切です。同僚や先輩、上司などにフィードバックをもらい、改善点があれば見直し、改善サイクルを回しましょう。
07ジョブクラフティングの注意点
従業員が主体性を取り戻し、能動的に業務に取り組むことは企業にとって好ましいことです。しかしジョブクラフティングはメリットばかりではなく、注意しておかないと大きな問題に発展する危険性もあります。
やりがい搾取の問題
ジョブクラフティングは、従業員が自分の意思で仕事に「やりがい」を見い出すことで効果が上がるものです。企業の側が仕事を「やりがい」として押し付けるのであればジョブクラフティングは「やりがい搾取」につながる可能性があります。 「やりがい」は、あくまで従業員が自分の意思で見い出してこそ意義があるのです。
仕事の属人化
仕事内容や進め方の創意工夫を従業員の裁量に任せることにより、仕事が「属人化」する危険性があります。ある仕事が特定の人しか対応できないという状態は、大変危険です。病気による長期休暇や、退職があった場合に、その業務が回らなくなるという状況に陥ります。 業務に個人の創意工夫が加わり改善されることは歓迎すべきことです。しかし、こうした属人化には常に注意しておくべきです。
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09まとめ
ジョブクラフティングにより、従業員が能動的に仕事に取り組むようになることで、企業にはさまざまなメリットがあるようです。多くの従業員が「やらされ感」ではなく、当事者意識をもって仕事に取り組めば企業には勢いが生まれ、目覚ましく発展するのではないでしょうか。従業員の主体性を引き出し、モチベーションを上げる取り組みについてぜひ考えてみてください。