公開日:2022/01/26
更新日:2022/08/31

プロスペクト理論とは|事例や概要、人材育成における活用法を紹介

プロスペクト理論とは|事例や概要、人材育成における活用法を紹介 | オンライン研修・人材育成 - Schoo(スクー)法人・企業向けサービス

人事担当者のなかには、「プロスペクト理論ってなに?」と感じている方も多いのではないでしょうか。マーケティング手法として用いられるプロスペクト理論ですが、人事領域にも十分に活用できる理論です。今回は、そんなプロスペクト理論をわかりやすく解説していきます。

 

01プロスペクト理論とは

まず、プロスペクト理論の具体的な活用方法の前に、基本的な概念から解説します。マーケティング用語として用いられることが多いプロスペクト理論ですが、経済学と心理学をミックスした行動経済学の土台を構成する考え方であるため、人事業務でも十分に活用できます。

プロスペクト理論の概要

プロスペクト理論とは、1979年に行動経済学者であるダニエル・カーネマン氏とエイモス・トベルスキー氏によって提唱された理論です。不確実な状況下で意思決定を行う際に、事実と異なる認識の歪みが作用するという意思決定モデルを表した理論です。認識の歪みの簡易的な例としては次のようなものがあります。

・「A:なにもしなくても5,000円がもらえる」、「B:50%の確率で10,000円がもらえるが、50%の確率で何ももらえない」という選択肢があった場合、多くの人はAを選ぶ


・「C:なにもしなくても5,000円を支払う」、「D:50%の確率で10,000円を支払うが、50%の確率で支払い免除」という選択肢があった場合、多くの人はDを選ぶ

上の例において、AとBの期待値は共に5,000円、CとDの期待値は共に-5,000円と対等であるにもかかわらず、人が魅力的に感じる選択肢には偏りが生まれています。これは、意思決定には客観的事実のみでなく置かれた状況も作用するため、ある種の感情などが「ゆがみ」をもたらし、合理的な意思決定がなされないことを表しています。プロスペクト理論では、人の意思決定時には「損失回避的な選択肢を過大評価する」傾向があると言われています。

プロスペクト理論とは、このような一見不合理な人間の意思決定を説明するための理論で、経済学と心理学によって成り立つ行動経済学の基礎となる考え方です。わかりやすく言い換えると、「最終決定に利用する価値は心理によってゆがむ」とする考え方です。実務面に落とし込むと、営業やマーケティングの分野では顧客にさまざまメリットを提示して顧客の意思決定を促進しますが、顧客が最終的な意思決定をおこなうタイミングでは、必ずしも与えられる期待値の大きさがそのまま意思決定の確率に比例するわけではないということになります。

コンコルド効果やフレーミング効果との違い

また、プロスペクト理論は、マーケティングで用いられるコンコルド効果やフレーミング効果とも区別されます。それぞれの効果の概要は次の通りです。

  • コンコルド効果:失敗予測ができているにも関わらず、投資した時間やお金の大きさに比例し、取り返すために投資を続けてしまう心理効果
  • フレーミング効果:同じことを説明していても、「手術の成功率は95%」「手術が失敗に終わる可能性が5%」といったようにフレームを変えることで、与えられる印象が変わる心理効果

プロスペクト理論が提唱する「損失を避けたいという思いが事実をゆがませる」という考え方と比較すると、コンコルド効果は利益を追及する点で、フレーミング効果は人間が行動する動機に触れていないという点で、それぞれ異なります。

 

02プロスペクト理論の2つの柱

ここからは、プロスペクト理論への理解を深めるために、軸となる2つの柱を解説していきます。プロスペクト理論は、損失を避けたいという心理は、さらに「確率加重関数」と「価値関数」の2つに分類されています。それぞれについて解説します。

確率加重関数

まず1つ目が「確率加重関数」と呼ばれるものです。確率加重関数は、人が、ある可能性そのものを認識するわけではなく、確率が低いときには大きく評価し、確率が高いときには評価を小さくすることを表した関数です。 具体的には、宝くじに当選する確率や手術に失敗する可能性が、確率加重関数によく表れています。宝くじに当選する確率は非常に小さいものですが、購入する方が後を絶たないのは、確率加重関数が関係しているためです。人間は実際の確率よりも主観性を優先して、宝くじの購入を決めているのです。

価値関数

プロスペクト理論を体系立てる2つ目の軸が、価値関数と呼ばれるものです。価値関数は価値の感じ方のゆがみを表したグラフであり、価値の大きさと心理作用を表しています。 5万円を儲けた場合と5万円を失った場合では、損失を被ったショックのほうが強く感じるとされています。価値の大きさによって感じ方は異なりますが、少額であれば損失感が優先されるということです。

 

03プロスペクト理論から生まれる3つの心理作用

ここからは、プロスペクト理論から生まれる3つの心理作用を紹介していきます。最終決定に利用する価値は心理によってゆがむというプロスペクト理論は、これから紹介する心理作用に繋がります。

損失回避性

プロスペクト理論から生まれる、1つ目の心理作用が損失回避性と呼ばれるものです。損失回避性とは、人がモノを選ぶ際の慣習を指し、利益を得ることより損を回避することを選ぶ傾向があることを意味しています。 この損失回避性を活用した提案は、株取引などの場でよく用いられます。「この株を購入することで年間〇万円の利益を得られる」というよりも、「損をしないための手堅い株である」と表現することが、損失回避性を上手に活用した提案といえるのです。

参照点依存性

プロスペクト理論から生まれる2つ目の心理作用が、参照点依存です。参照点依存とは、人がモノを選ぶ際に、絶対的な選択基準をもっているわけではないことを表しています。 100円の品物を選ぶ場合でも、定価が100円のものと120円から割り引かれて100円になったものでは、割り引かれた品物のほうが多く選ばれるのです。同じ価値がある品物でも、「お得」というバイアスがかかることで、選択するものを相対的に変化させることがわかります。

感応度逓減性

プロスペクト理論から生まれる、3つ目の心理作用が感応度逓減性と呼ばれるものです。感応度逓減性とは、同じ価値のある利益や損失でも、その母数が大きくなるほどに感度が鈍くなる心理作用です。 1000円の株を100株購入した購入したがその株が900円の価値になった場合と、10000円の株を100株購したがその株が9900円の価値になった場合を比較してみると、前者の損失のほうが痛手であると感じやすい傾向にあります。このような、損失の母数によって感じ方が異なることを、感応逓減性といいます。

 

04プロスペクト理論が使われている身近な事例

ここからは、プロスペクト理論をよりわかりやすく理解するために、身近にある例を紹介していきます。

期間限定

プロスペクト理論の身近な例としてまず挙げられるのが、期間限定キャンペーンです。オンラインショップやテレビCM、店内の広告で頻繁に目にしている方も多いのではないでしょうか。実はこの期間限定キャンペーンも、プロスペクト理論を用いたマーケティング手法の1つです。 「いつでも購入できる1万円のワイン」も、頭に「期間限定」というワードがつくだけで、人はワインの本当の価値が見えにくくなります。冷静に考えれば、よほど希少な原材料を使っていない限り、今しか買えないということはありませんが、期間限定という言葉がその事実をゆがめてしまうのです。

無料・割引キャンペーン

期間限定の派生ですが、無料・割引キャンペーンもプロスペクト理論を上手に活用した事例です。損失回避の心理が働き、「このタイミングを逃すと損をするかもしれない」と意思決定のきっかけに繋がりやすいことが分かっています。一方で、年中閉店セールをやっていたり、いつ見ても何かしらのキャンペーンを実施していると、このキャンペーンの効果が狙い通りに作用しない可能性があるので、実施するタイミングには注意が必要です。

コピーライティング

コピーライティングも、プロスペクト理論を上手に活用したマーケティング手法の1つです。テレビCMなどで顧客に強い恐怖を与えず、それとなく損失を提示するといった形で、プロスペクト理論がコピーライティングに活用されています。 ある清涼飲料水が暑い季節だけでなく、乾燥する冬のシーズンでも人気である理由もプロスペクト理論が上手に活用されているためです。「暖房によって空気が乾燥しているかどうか」という事実ではなく、乾燥するリスクがあることを提示し、顧客の心理作用を活用しているのです。

優遇情報

「〇〇を見たと言っていただいた方は半額」・「2個頼むと1個無料」といった優遇情報も、プロスペクト理論を活用した事例です。根底にある心理変化は全て同じなので、優遇情報も損失回避の心理に働きかけています。

ポイント付与

家電量販店や決済サービスなどで目にすることの多いポイント付与も、プロスペクト理論を活用した手法です。貯まっているポイントを使わないと損という思考を利用して、顧客の再来訪を促しています。これをさらに活用しているのが有効期限付きのポイントです。期限が切れる前にポイントを使わないと損という心理になり、その時に何か欲しいものが特になくても購買に至ってしまうことがあります。

返金保証・修理保証

家電量販店でよく見る返金保証や修理保証などもプロスペクト理論を活用しています。特に家電のような高額商品では、「すぐに壊れたらどうしよう」という不安がつきまとうので、修理補償という特典が効果的に作用するのです。また、コロナ禍で旅行代金のキャンセル代の負担なしなども、同様の効果を狙ったものと言えるでしょう。

 

05人材育成におけるプロスペクト理論の活用方法

最後に人材育成の領域での、プロスペクト理論の活用方法を紹介していきます。冒頭でも触れたように、プロスペクト理論は多くの場合でマーケティング手法として用いられます。しかし、心理学を有効活用すれば、人材育成の領域でも利用可能です。

失敗を恐れずに挑戦できる環境を整える

人材育成の領域でプロスペクト理論を活用する1つ目の方法が、失敗を恐れずに挑戦できる環境を整えるというものです。プロスペクト理論を参考にすると、人間はどうしても損失を回避する行動を選択します。そして、このロジックを仕事に当てはめてみると、失敗する可能性を認識するほどに、積極的な行動を避けるという結論に至ります。 そのため、人事は従業員のパフォーマンスを導き出すためにも、失敗を恐れずに挑戦できる環境や失敗が気にならない環境づくりをおこないましょう。損失回避性に目を向けさせないことで、チャレンジ精神のある組織構築をおこなえるでしょう。

目標値を定めて参照点とする

目標値を定めて参照点とすることも、人材育成にプロスペクト理論を活用できる手段の1つです。人材育成に評価を下す際には点数化するといった方法を用いることで、従業員の心理作用を上手に利用できるようになります。 非常に小さなことでも、「1つの目標をクリアすれば+1、2つの事柄に挑戦すれば+1」といった形で参照点をつくることをおすすめします。そうすることで、「1つの目標をクリアするのであれば、もう1つのことに挑戦していたほうがお得」と感じさせることができます。

公募施策に活用する

自律学習の推進が多くの企業で実施されており、その一環でオンライン学習サービスを公募で手を挙げた人のみに付与するといった施策を実施している企業も多くあります。しかし、なかなか手が挙がらない・IDを与えたのに全然学ばないといった課題を多く耳にします。そのような場合は、プロスペクト理論を活用して期間限定や人数制限を設けてみるのも1つの手です。「31日までに手を挙げた人のみ会社が全額負担」・「3ヶ月の期間限定でIDを付与(その期間に利用がなかった人は次の公募に手を挙げられない)」といったように、限定感を出すと損を回避しようとして、行動につながる可能性が高まります。


 

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06プロスペクト理論を学べるSchooの授業を紹介

Schooには8,000本以上の授業があり、プロスペクト理論を学ぶことのできるものもあります。この章ではSchooの授業から一部を抜粋して紹介します。人材育成・研修担当者限定で、Schooの全授業を10日間視聴できるデモアカウントも発行しているので、興味があるものがあれば問い合わせいただけますと幸いです。

行動経済学入門

行動経済学入門
 

この授業では、行動経済学という新しい経済学を学びます。『経済学』に『行動』とついているだけですが、実は、従来とは全く異なる発想(パラダイム)の経済学です。人間は合理的に意思決定して行動する、と考える従来の経済学に対して、行動経済学では、人間は感じたまま行動するから、必ずしも合理的ではないのです。

  • 関西学院大学 専門職大学院 経営戦略研究科 教授

    ワシントン大学大学院MBA、神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(経営学)。モルガン・スタンレーとUBS証券で資産運用担当者、ヘッジファンド運用会社の経営者などを歴任後、現在、データ・マイニングの専門家らと行動ファイナンスとアルゴリズム運用を組み合わせてポートフォリオ構築を行う投資顧問会社(株)Magne-Max Capital Management社を共同経営。

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最善を選択するための意思決定の技術

最善を選択するための意思決定の技術
 

この授業では、大きな意思決定の傾向を知るためのキーワード「選好」と「リスク」について川越先生に教えていただきます。自分が意思決定するときの傾向や判断基準のことを「選好」といいます。選好を知ることで自分の意思決定の的確な判断は何かを知り大きな意思決定の助けになります。また、リスクを取りすぎると危険なものであるとされていますが、モノによっては分散投資することによってリスクを軽減できるものがあります。

  • 公立はこだて未来大学システム情報科学部・教授

    1970年和歌山市生まれ。1993年福島大学経済学部卒業。1995年大阪市立大学大学院修了。博士(経済学)。埼玉大学経済学部助手等を経て、2013年より現職。専門分野はゲーム理論・実験経済学。著書に、『実験経済学』(東京大学出版会)、『行動ゲーム理論入門』(NTT出版)、『マーケット・デザイン』(講談社選書メチエ)、『はじめてのゲーム理論』『「意思決定」の科学』(ともに講談社ブルーバックス)など多数。

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07まとめ

マーケティング手法として知られるプロスペクト理論ですが、心理学に基づいているため、人事領域でも十分に活用可能です。プロスペクト理論は、「心理が事実をゆがませる」という考え方のことを指します。 宝くじの当選確率に関わらず、購入する方が後を絶たないのは、事実よりも期待値という心理が勝っているためです。そして、人材育成の領域でも、このような心理を活用することで、従業員のモチベーションやパフォーマンスアップにつなげることができます。「失敗を恐れずに挑戦できる環境を整える」、「目標値を定めて参照点とする」といった方法で、心理的な作用を促進することも、人材育成の手法といえます。

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