パーパス経営とは?メリットや成功事例、失敗しない策定方法も解説
近年、パーパス経営と呼ばれる経営が注目されているのをご存知でしょうか。当記事では、そもそもパーパスとは何か、そしてそれを経営に取り入れるとはどういうことか、失敗しないために必要なことは何か、などについて解説していきます。
- 01.パーパス経営とは
- 02.パーパス経営が注目される背景
- 03.パーパス経営のメリット
- 04.パーパス経営の手順
- 05.パーパス経営導入時の注意点
- 06.パーパス導入の成功事例
- 07.まとめ
01パーパス経営とは
パーパス経営とは、企業が自社の存在意義を明確にし、社会に対してどのような貢献をするかを掲げ、その目的を軸として経営を行うことです。
パーパスとは、企業の社会的な存在意義や志を示すことを意味しています。パーパス経営に取り組む企業は、従業員のエンゲージメント向上やステークホルダーからの支持の拡大などのメリットがあります。消費者心理としても、社会的に価値の高い企業を支持する消費者が増えており、パーパス経営は企業のイメージアップにもつながります。
また、パーパス経営は大規模な設備投資が不要であるため、中小企業でも取り組みやすいという利点もあります。パーパス経営は、企業が社会的責任を果たすための有力な手段であり、今後ますます重要性が高まっていくことが予想されます。
ビジョン・ミッション・バリューとの違い
パーパスと似たような概念として、ビジョン・ミッション・バリューという言葉があります。
まず、パーパスとミッションの違いについて説明します。ミッションが社会における会社の使命や責務を表し、社内向けの強いメッセージを持ち、戦略的な視点を加える点であるのに対し、パーパスは社会やコミュニティの中で存在したい理由を表し、第三者的な視点を持ち、企業の原点を表すことが多い点が異ります。つまり、パーパスはWhyを、ミッションはHowを表すということです。
次に、パーパスとビジョンの違いは、ビジョンは自社がなりたい姿であり、主に社内向けのメッセージであるのに対し、パーパスは社会やコミュニティの中でこうありたいという第三者的な視点が加えられており、社会に対する責務や使命が含まれる点が異なります。ビジョンは未来に向けた方向性を示すのに対して、パーパスは原点を表すことが多く、なぜ会社が存在するのかという根本的な理由を示します。
最後にパーパスとバリューの違いを紹介します。パーパスは、企業や組織が社会やコミュニティにおいて果たすべき役割や存在意義を表します。一方、バリューとは、企業の価値観や行動指針・姿勢を表し、具体的な企業活動に反映されます。パーパスは「Why」すなわちなぜ存在するかを表すのに対し、バリューは「How」すなわちどのように行動するかを表すという点で異なるのです。
02パーパス経営が注目される背景
パーパス経営が注目されているのには主に以下の背景が挙げられます。
- ・価値観の多様化
- ・SDGsへの社会的注目
- ・パーパス経営はESG投資に関連している
さらに以下では上記の背景について詳しく解説していきます。
価値観の多様化
パーパス経営が注目されている背景の1つとして、価値観の多様化があります。従来、日本企業は同じような組織構造を持っており、国内市場をターゲットにし、新卒一括採用、年功序列、終身雇用などの人事制度を採用し、日本人だけを採用するという共通の特徴がありました。
しかし、昨今では国際化や多様性への理解が進み、海外市場でビジネスを展開する企業や外国人の雇用を受け入れる企業も増えています。また、ハイブリッドワークやフリーランスの増加など、働き方も多様化しています。こうした背景から、様々なバックグラウンドを持つ人々が多様な働き方をしていると、組織内で価値観や方向性を共有することが困難であり、組織内で溝が生じることがあります。このため、パーパスを設定し、実践することで、多様性を尊重しながらも組織の目的を明確にすることができるという観点で注目が集まっているのです。
SDGsへの社会的注目
2015年の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)は、持続可能な社会を実現するための世界的な目標です。このSDGsには、環境、社会、経済の観点から17の目標が定義されており、企業が主導して取り組むべき課題も含まれています。
このような背景から、企業活動においてサステナビリティ経営が注目されるようになりました。これは、利益だけでなく環境や社会にも目を向け、長期的な視点で持続可能な事業を行うことが重要視される経営スタイルです。このようなサステナビリティ経営を実現するためには、自社の存在意義や価値観を明確にし、どのような方向性で事業を進めるのかを再検討する必要があります。そのため、自社の存在意義である「パーパス」の策定が求められるようになったのです。
パーパス経営はESG投資に関連している
パーパス経営が注目される背景として、ESG投資の活発化も挙げられます。ESG投資とは、環境、社会、ガバナンスの観点から企業の持続可能性や社会的責任を考慮した投資の手法であり、投資家の間で注目度が高まっています。
そのため、パーパス経営を実践している企業は、ESG投資家から選ばれやすくなっているのです。また、ESG投資家に対して、企業が環境や社会への貢献をどのように実践しているかを明確に示すことが求められます。このように、ESG投資の普及は、企業にとってパーパス経営を実践する意義を高め、社会的責任の達成に向けた取り組みを促す役割を果たしています。
▶︎参考:大和証券「ESG投資とは?」
03パーパス経営のメリット
ここまでは、そもそもパーパスがどういったものなのか、そしてなぜ経営に取り入れられてきたのかを確認してきました。 パーパス経営は、そもそもが時代の要請であり、パーパスと経営を結びつけることは必須となってきています。しかし、実はパーパス経営には大きなメリットが存在するのです。この項では、代表的な3つのメリットについて確認していきましょう。
- ・1.消費者意識の変革に合わせられる
- ・2.従業員に活力をもたらし自社への信頼感を醸成する
- ・3.時代の変化をパーパスドリブンで乗り越える
1.消費者意識の変革に合わせられる
Z世代の価値観の変化だけでなく、世界的な盛り上がりを見せるESG投資など、企業が長期的な視野をもった経営をしていくことは、もはや必要不可欠になってきています。 例えば、フェアトレードであるという保証がある商品しか購入しない、といった消費者の行動変化が実際に起こってきているのです。 パーパス経営を行うことで、そういった世界的な意識の変化に対応することができます。
パーパスブランディングが利益をもたらすことも
パーパス経営を行うためには、自社内はもちろんのこと、対外的にも広く自社のパーパスを知らしめる必要があります。 その社会への認知の過程で、自社ブランディングにもつながるという副次的なメリットもあります。「あの会社は、〇〇といったパーパスをもっている」と知ってもらうことで、確固たる地位を築くことが可能となります。
2.従業員に活力をもたらし自社への信頼感を醸成する
パーパスは、企業が掲げるビジョンやミッションの上位に位置する概念だとお伝えしました。パーパス経営を行い、その過程で全社にパーパスを浸透させることは、ビジョンやミッションを浸透させることにもつながります。
パーパスは、ビジョンやミッション、あるいはバリューやクレドを経由して、従業員の個々人が行う業務に落とし込まれます。パーパスが浸透していくことで、従業員は自分たちの仕事が何を意味するか、どんな意義があり社会にどんな良い影響を与えるのかを感じやすくなるのです。
前述した価値観の変化は従業員にも起こっており、所属企業が健全であるか、社会的な価値があるかを重視する人は増えています。パーパスを軸に社内的なブランディングを行うことで、従業員は働く意義を自ら見出せるようになり、より熱心に高い士気で業務に取り組めるようになり、会社への信頼感も増すでしょう。
3.時代の変化をパーパスドリブンで乗り越える
パーパスドリブンとは、自社内における様々な判断が、パーパスを起点として語られ、パーパスを軸にして決定される状態のことです。
会社として新しい事業を始める、部署員が目指すべきロールモデルを策定する、既存の業務フローを改善するなど、変化が求められることやそれに伴って判断を下さなければならない場面があります。変化が激しい現代において、現状を鑑みて何か判断を下したとしても、また状況が変わってしまえばその判断が適切であったか、確信がもてなくなるのはよくあることです。状況が変わるたびに判断を変えていては、振り回されるのは従業員や消費者です。それでは、「軸がブレている」と感じられてしまうでしょう。
その点、パーパスドリブンでは判断基準は明確です。なぜこう判断したのか、なぜこれはOKでこれはNGなのか、という立ち返るべき軸としてパーパスを用いるからです。 パーパスを軸にして判断を行うことで、「軸がブレてしまう」という状況を防ぐことが可能となります。
04パーパス経営の手順
パーパスを導入し、経営に関連させるには、具体的には以下の4つの手順に分かれています。それぞれ簡単に説明していきましょう。
- ・1.自社の価値観や歴史・提供価値の棚卸
- ・2.パーパスの言語化
- ・3.経営・事業方針への落とし込み
- ・4.社員への浸透
1.自社の価値観や歴史・提供価値の棚卸
パーパス経営を導入するにあたり、自社の価値観や歴史、提供価値の棚卸しは重要なプロセスとなります。まず、経営理念を明確に定義することが必要であり、創業者の言葉や成長の過程から、経営理念がどのように実践されてきたかを振り返り、その歴史を紐解くことで、経営判断の基となった考え方や価値観を明文化します。
また、自社の提供価値に対して責任を持つ経営陣が自らの言葉でパーパスを語り、体現することで、社員やステークホルダーに伝播させることが必要です。自社の存在価値を再定義することで、従業員にとっても納得力が醸成され、パーパスを浸透させるためにも、自社のエピソードを併せて伝えることが効果的です。以上のように、自社の価値観や歴史、提供価値の棚卸しは、パーパス経営を導入するための重要な一歩となります。
2.パーパスの言語化
パーパス経営を行うためには、なによりも内外へのパーパスの浸透が重要です。 そのために必要な手順が、言語化です。 これまでの調査で分かった自社の存在意義を、しっかりと言語化しなければならないのです。 経営陣やボードメンバーで議論するほか、全社的に募集するといった手法も効果的です。特に、パーパスの策定が他人事だと感じる社員が多いと、パーパス経営は失敗します。 ここでしっかり、全社員を自分事として巻き込んでおくのは意義があることです。
3.経営・事業方針への落とし込み
パーパスが言語化できたら、次はそれをだんだんと具体化していきます。 ビジョン、ミッション、必要があればバリューやコアバリュー、クレドなどへ、少しづつ具体性をもたせながら展開していきます。 最終的な具体化の目標は、個々人が実際に行う業務への落とし込みです。 すべての従業員のすべての仕事が、最終的にはパーパスへつながっている、という状態にすることが重要です。
4.社員への浸透
パーパスは、導入して終わりではありません。むしろ、策定してからの浸透が勝負であるともいえます。 パーパス経営は全社的な従業員の協力が不可欠です。 浸透度や従業員に十分腹落ちしているかの調査は常に行いましょう。1on1などでの意識の確認も効果的です。
05パーパス経営導入時の注意点
パーパス経営を導入する際は、いくつか注意点があるのでここで解説します。
パーパス・ウォッシュ
パーパス・ウォッシュとは、見栄えのいいパーパスを掲げながら、実際はそれを体現する行動を伴わず、まるで表面だけをパーパスで洗って取り繕ったように見える状態のことを指します。パーパスは、消費者・従業員・投資家から注目されているとお伝えしました。注目されているからこそ、中途半端に掲げると「パーパス・ウォッシュ」であると指摘される場合もあるのです。 前述した手順において、ステークホルダーの調査と自社の立ち位置の確認を厚く行い、また従業員へ継続的に浸透させることでしっかり行動に移し、掲げるパーパスが表面的になってしまうことを防ぎましょう。
トップから積極的に推進する
パーパス経営の導入において、トップダウンのリーダーシップは極めて重要です。経営層がパーパスの重要性を理解し、率先してその価値を推進することで、組織全体に一貫した方向性を示すことができます。リーダーが明確なビジョンと目標を示し、それを具体的な行動計画に落とし込むことで、社員は自分の役割とパーパスとの関連性を理解しやすくなります。 しかし、トップダウンのリーダーシップには注意が必要です。一方的な指示や命令に頼ると、社員の意欲や創造性が低下するリスクがあります。効果的なトップダウンのリーダーシップを実現するためには、経営層が社員の意見やフィードバックを積極的に取り入れ、共感を持ってリーダーシップを発揮することが求められます。
06パーパス導入の成功事例
パーパスを導入し、成功している企業はいくつも存在しています。ここでは、代表的な成功事例を2つ紹介します。 ぜひ、自社に導入する際に失敗しないための参考としてみてください。
ソニーグループ
ソニーグループは、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを掲げています。 これは、当時就任した新CEOであった吉田氏が、グループのミッション、ビジョン、バリューを作り直そうと見直したことがきっかけでした。 吉田CEOは、全世界の全社員に向けて呼びかけ、広くパーパス案を募集したとのことです。こうやって、全社員が関わりながら策定されたパーパスであるため、「ソニーらしさ」が取り入れられたものとなっています。
味の素株式会社
味の素では、経営陣が話し合いながらパーパスの策定が行われました。 そして、「食と健康の課題解決」というパーパスに決まります。 これらは、現在(2022年8月)の同社HPにも“味の素グループは、アミノ酸のはたらきで「食と健康の課題解決企業」を目指します”として記載されています。
そのパーパスをもとにして、「アミノ酸のはたらきで食習慣や高齢化に伴う食と健康の課題を解決し、人びとのウェルネスを共創します」というビジョンが策定されました。 外部の有識者や社外取締役などが選定員を務める、パーパスに合った活動のベストプラクティスを表彰するアワードも設けられているとのことです。
「研修をしてもその場限り」「社員が受け身で学ばない」を解決!
研修と自己啓発で学び続ける組織を作るスクーの資料をダウンロードする
■資料内容抜粋
・大人たちが学び続ける「Schoo for Business」とは?
・研修への活用方法
・自己啓発への活用方法 など
07まとめ
パーパスは、消費者・従業員・投資家という企業にとって重要度が高いステークホルダーのすべてが注目する、もはやなくてはならないものです。 そしてパーパスを設定して経営に関連させることは、これからの時代、多くのメリットを生みます。 ぜひこれを機に、自社のパーパスがなんであるか、パーパス経営ができているかを考えてみてください。
▼【無料】“働きがい”の追求で実現する人的資本経営|ウェビナー見逃し配信中
従業員エンゲージメントを高める組織作りついてのウェビナーアーカイブです。なぜ、自律的な組織を作る上で働きがいのある環境が必要なのか。どういうプロセスを経れば働きがいのある会社を作れるのか。人的資本時代のスタンダードとなり得る働きがいのある会社と組織づくりの方法を深掘りします。
-
登壇者:荒川 陽子 様Great Place to Work® Institute Japan 代表
2003年HRR株式会社(現 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業職として中小~大手企業までを幅広く担当。顧客企業が抱える人・組織課題に対するソリューション提案を担う。2012年から管理職として営業組織をマネジメントしつつ、2015年には同社の組織行動研究所を兼務し、女性活躍推進テーマの研究を行う。2020年より現職。