ジェンダーハラスメントとは?具体例や企業が負うリスク、対策を解説
ジェンダーハラスメントは、社員の就業意欲や心身の健康に影響を及ぼしかねない問題をはらんでいます。ハラスメントを行う側に嫌がらせや差別の認識がないケースも多く、そういった点が対策を難しくさせているのです。 この記事では、ジェンダーハラスメントの概要や企業で起こりやすい具体例、企業のリスクとその対策を解説します。
- 01.ジェンダーハラスメントとは
- 02.ジェンダーハラスメントの具体例
- 03.企業におけるジェンダーハラスメントのリスク
- 04.ジェンダーハラスメントへの対策
- 05.まとめ
01ジェンダーハラスメントとは
ジェンダーハラスメントとは、性別を理由とした嫌がらせや差別のことです。。個人の経験や固定観念から性別に紐づく発言が生まれ、それにより相手に不快感を与えてしまいます。 英語で「gender harassment」という通り、「社会的・文化的な役割としての男女の性・性差」の意味をもつジェンダー(gender)ハラスメント (harassment)「嫌がらせ・差別」からなる言葉です。 性別に対する無意識の偏ったイメージがあると考えられています。また、ジェンダーハラスメントを受けるのは女性と限らず、男性も被害者になる可能性があります。 また、相手を傷つける意識のない場合もあるため、ジェンダーハラスメントを行っている人は問題意識がなく、理解されにくいのが実情です。
女性だけでなく男性も被害者になり得る
上記の通り、ジェンダーハラスメントは性別を理由とした嫌がらせや差別であり、被害に遭うのは女性だけではありません。 総合転職エージェントが実施した「職場のジェンダーハラスメント」では、以下のような回答が得られました。
男性/女性の“らしさ”を押し付けられた経験が「あり」と回答した人が約30%
女性へのジェンダーハラスメントを目撃した人は約30%、男性に対しても約20%
企業におけるジェンダーハラスメントは、女性に限らず男性に対しても行われている実態が明らかとなっています。
▶︎参照:「職場のジェンダーハラスメント」について調査|株式会社ワークポート
セクシャルハラスメントとの違い
セクシャルハラスメントは「性的な嫌がらせ」を指し、性的な冗談やからかいのほか、不必要な身体への接触が典型例です。 また、セクシャルハラスメントにより労働者の不利益を受ける、または就業環境が害されることに対して、企業に防止措置が義務付けられています(男女雇用機会均等法第11条)。 したがって、ジェンダーハラスメントとセクシュアルハラスメントの違いは、経験や固定観念に基づく嫌がらせなのか、あるいは性的なものであるかによって区別されるのです。
02ジェンダーハラスメントの具体例
ジェンダーハラスメントは、職場のあらゆるシーンでみられます。対策を検討する上で、どのような言動がジェンダーハラスメントに該当するのかを確認しておきましょう。 ここでは、企業におけるジェンダーハラスメントの具体例を下記の内容で紹介します。
- ・男女別役割の違いを強要される
- ・発言に明らかな性差別がある
- ・キャリアや昇進に関する性差別がある
- ・プライベートな事柄に干渉される
男女別役割の違いを強要される
男女別役割の違いを強要される具体例を挙げます。
- ・女性はお茶汲みや電話対応、掃除が仕事だ
- ・男性は主要な業務、女性は補助的業務
- ・男性なら重労働、残業をすべき
- ・男性は仕事優先(家族との時間確保を阻害)
飲み会に参加を強制し、上司側に座らせる、お酌を強要する場合に、セクシャルハラスメントにつながりやすいでしょう。
発言に明らかな性差別がある
明らかな男女差別がある発言の具体例を挙げます。
- ・男性は苗字で呼ばれるのに対し、女性は「〇〇ちゃん」と異なる呼び方がされる
- ・「男/女のくせに」「男/女らしく」「男/女なら」などの言葉を用いる
- ・「容姿、化粧、髪型」など性別を強調する
ただし、一定の服装を強いる場合はパワハラに該当するケースがあると指摘されています。
キャリアや昇進に関する性差別がある
性別によってキャリアや昇進を差別する具体例を挙げます。
- ・女性は出産や育児があるから昇進できない
- ・女性には管理職なんて無理
- ・同じ趣旨の意見でも男性の方が通りやすい
- ・同じ勤務年数や学歴でも給与額が男女で差がある
男女間における管理職登用や昇進のチャンスに対するギャップも、性別役割分業意識に強く結びついています。
プライベートな事柄への干渉
プライベートな事柄への干渉について具体例を挙げます。
- ・結婚はまだなの
- ・子どもはできないの
- ・女は家事(育児)が大変だから、無理に仕事をしなくても良い
気遣いのつもりであっても、家庭状況や本人の気持ちを考えて発言しないと、ジェンダーハラスメントにつながる可能性があるのです。
LGBTの問題
ジェンダーハラスメントは、男女に関する嫌がらせだけではありません。 LGBTの人に向けられる差別的な嫌がらせも、ジェンダーハラスメントに該当します。
LGBTとは、以下の頭文字をとった言葉です。
- ・L=レズビアン(同性を好きになる女性)
- ・G=ゲイ(同性を好きになる男性)
- ・B=バイセクシュアル(両性を好きになる人)
- ・T=トランスジェンダー(生物学的・身体的な性と性自認が一致しない人)
LGBTの人へのハラスメントの具体例を挙げます。
- ・男らしさや女らしさを要求する
- ・容姿や外見に言及する
- ・同性愛やドランジェスターをネタにした冗談を言う
- ・恋人の有無や結婚・出産の予定を聞く
LBGの人は異性愛者として、Tの人は自認する性別と異なる性別で、それぞれ振舞わなければならないといった様々な問題を抱えています。そのため、一般的とされている性別の物差しから発言してしまうと、大きな苦痛を与えてしまうのです。
03企業におけるジェンダーハラスメントのリスク
ここまで、ジェンダーハラスメントに関する具体例を紹介しましたが、企業において容認すべきポイントが全くないと理解できたのではないでしょうか。ここでは、ジェンダーハラスメントの発生により企業にどのような影響があるのか解説します。 ジェンダーハラスメントが企業に与えるリスクには、以下の通りです。
- ・法的な責任を負う可能性がある
- ・企業イメージが低下する
- ・社員の離職による人材不足につながる
法的な責任を負う可能性がある
ジェンダーハラスメントが深刻になると、社員間の問題にとどまらず、法的な責任が問われる事態に発展しかねません。 都道府県労働局への相談内容で、「いじめ・嫌がらせ」が年々上昇し、個別労働紛争の相談件数も増加傾向にあります。 企業には、「使用者が従業員の安全に配慮する義務」(労働契約法第5条)があり、ジェンダーハラスメントへの対応を怠ると、安全配慮義務に違反となり、被害者から損害賠償を請求される可能性が高まるでしょう。
▶︎参照:「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公開します|厚生労働省
企業イメージが低下する
ジェンダーハラスメントの被害者から損害賠償請求により民事責任を問われると、社会的信用に悪影響を与え、企業イメージの低下につながります。 また、近年はSNSを通じてハラスメントが発信され、拡散するケースは珍しくありません。そのため、一度悪評が広まると、事業活動や人材採用においてもマイナス要因となります。
社員の離職による人材不足につながる
ジェンダーハラスメントによる体調不良で、当事者が退職するリスクがあります。他の社員も働きやすい環境を求めて、連鎖的に退職する可能性は否定できません。 社員の離職は、さらなる企業イメージの低下につながり、優秀な人材の確保が難しくなるため、人材不足は深刻さを増すでしょう。
04ジェンダーハラスメントへの対策
企業にとって、ジェンダーハラスメントへの対策は、早急に取り組むべき課題です。事前に対策のポイントを理解しておけば、仮にジェンダーハラスメントが発生したとしても、その被害を最小限に抑えられるでしょう。
ジェンダーハラスメントへの対策は、以下の通りです。
- ・ジェンダーハラスメントに関する方針を明確化
- ・社内に相談窓口の設置
- ・ジェンダーハラスメントへの適切な対応
- ・ハラスメントに関する研修の実施
ジェンダーハラスメントに関する方針を明確化
企業は、ジェンダーハラスメントに関する方針を明確にしましょう。 どのような言動が該当するのかを明示し、いかなるケースも一切容認しないといった姿勢が重要です。企業方針を社内報やホームページに記載するなどして、全社員に周知を行い、ジェンダーハラスメントの理解を深めるよう努めます。それらにより、ジェンダーハラスメントを抑制する効果に期待できるでしょう。
社内に相談窓口の設置
社内に相談窓口を設置するのも有効な対策です。 被害者は、「相談しても解決には至らないかもしれない」と不安を抱いています。そのため、ハラスメントをはじめとした人権問題への知識があり、守秘義務を厳守できる人材を担当に選ぶようにしましょう。人選にあたり、男性・女性を揃えるのが望ましいです。また、弁護士などの専門家を招くのも1つの方法です。 すでに、セクシャルハラスメントの相談窓口があるのであれば一元化を検討してはいかがでしょうか。相談窓口を周知し、誰もが安心して相談できる仕組みづくりも重要です。
ジェンダーハラスメントへの適切な対応
ジェンダーハラスメント発生時には、速やかな事実確認、被害者へのフォローと行為者の処分といった措置を行います。 事案を検証し、新たな再発防止を検討した上で、プライバシーに配慮しつつ情報共有しましょう。改めてジェンダーハラスメントに関する方針を周知・啓発するのも再発防止には有効ですが、プライバシーの観点から難しい場合もあります。そういった場合は、管理職への注意喚起だけでも効果が見込まれます。
ハラスメントに関する研修の実施
ジェンダーハラスメントに限定せず、ハラスメント全般に関する研修を実施するのも重要な対策となります。ハラスメントの正しい知識を身につけ、行為者となるリスク、被害者の気持ちを共有するのが目的です。 ハラスメント研修は目的によって、実施する内容や対象社員が異なります。
社員1人ひとりがハラスメントを行わない、その予兆に気づけるような組織づくりを目指しましょう。
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■資料内容抜粋
・大人たちが学び続ける「Schoo for Business」とは?
・研修への活用方法
・自己啓発への活用方法 など
- ・ハラスメント防止研修:全社員・管理職向け
- ・ハラスメント再発防止研修:行為者向け
05まとめ
ジェンダーハラスメントとは、性別を理由とした嫌がらせや差別を指し、女性だけでなく男性も被害者になり得るハラスメントです。 企業におけるジェンダーハラスメントの具体例には、男女別役割における違いの強要や明らかに男女差別がある発言、キャリアや昇進に関する差別、プライベートな事柄への干渉があります。 ジェンダーハラスメントは、企業イメージの低下など重大なリスクを負いかねません。そのため、防止対策にはジェンダーハラスメントに関する方針を明確化し、社内に相談窓口の設置や適切な対応を講じる必要があります。加えて、ハラスメント研修を実施するなど幅広い取り組みが求められるのです。