健康経営とは?その仕組みや企業の取り組みについて解説する
昨今、企業の評価指標として健康経営という言葉が使われています。本記事では、健康経営に関する仕組みや企業の取り組み方について解説しています。健康経営とは、どういった指標であるかを確認し、今後の企業経営に活かしていきましょう。
- 01.健康経営とは
- 02.経済産業省が進める健康経営とは
- 03.健康経営のメリット
- 04.健康経営導入にあたって考慮するべきこと3選
- 05.健康経営に取り組むべき企業の特徴とは
- 06.健康経営に取り組む際のポイント
- 07.健康経営の注意点
- 08.健康経営の導入事例
- 09.まとめ
01健康経営とは
健康経営とは、「従業員等の健康管理や健康増進の取り組みを投資と考え、経営的な視点で戦略的に実行する」新たな経営手法を指します。従来であれば従業員の健康管理は自己責任であるとされ、企業にとってリスクとして考えられてきました。しかし、今後も続くとされている「人手不足問題」などを背景に、従業員の健康を企業として守る視点をもった経営者が増えているのです。従業員の健康づくりを「投資」と考える以上、相応の「リターン」が期待されます。その他に安全衛生の視点での「法令遵守」「リスクマネジメント」の手法としても注目されています。
02経済産業省が進める健康経営とは
健康経営については、経済産業省が推進を行っています。現在では、経済産業省から推進に関する概要書が公開されており、健康経営を導入する際のバイブルとして活用されています。次に経済産業省が公開している「健康経営の推進の概要について」からトピックスを抜粋してご紹介していきます。
健康経営に関心が集まる背景
健康経営に関心が高まっている背景としては以下の点が上げられています。
- (1)生産年齢人口の減少と従業員の高齢化
- (2)深刻な人手不足
- (3)国民医療費の増加
- (4)ワークライフバランスの推進
上記のような日本国内の課題を背景に、人材の確保、長く働いてもらえる環境づくりが企業運営には不可欠となり、健康経営への関心が高まっています。ここではそれぞれについて、具体的に解説していきます。
(1)生産年齢人口の減少と従業員の高齢化
近年、多くの先進国で生産年齢人口(労働力人口)が減少しており、これに伴い労働市場が競争激化しています。同時に、高齢者の従業員が増加しており、これらの人々が健康な状態で長く働けるようにする必要があります。健康経営は、従業員の健康状態を維持し、生産性を確保するために重要です。
(2)深刻な人手不足
多くの業界で人手不足が深刻化しており、企業は優秀な人材を確保・維持することが難しくなっています。健康経営は、従業員が働きやすい環境を提供し、その結果として人材の定着率を高める一助となることがあります。
(3)国民医療費の増加
健康問題が増加すると、国民医療費も増大します。企業側としても、従業員の健康状態を保持し、予防医療に力を入れることで、将来的な医療費の増加を抑制することができます。従業員の健康への投資は、長期的なコスト削減につながる可能性があります。
(4)ワークライフバランスの推進
労働者が健康的なワークライフバランスを持つことは、ストレスや過労を軽減し、心身の健康を維持する上で重要です。企業が従業員のワークライフバランスを尊重し、働きやすい環境を提供することは、従業員の満足度や生産性向上に繋がります。
健康経営は国の施策である
健康経営は国の施策として推進されています。政府は国の成長戦略である「日本再興戦略」の中で、国民の健康増進を図る国策の一つとして「健康経営」の普及・推進を取り上げているのです。東京商工会議所では、健康経営の普及・推進を担う人材を育成するため、2015年に経済産業省から健康経営の考え方を体型的に学べる研修プログラムの開発を受託し「健康経営アドバイザー制度」を作っており、広く健康経営を知る人材、実践できる人材の育成も進めています。
健康経営銘柄とは
健康経営が上手くできている企業を登録し公開している制度もあります。その1つが「健康経営銘柄」です。これは日本再興戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの一つで、東証一部上場企業の中から原則1業種1社、「健康経営」に優れた企業が選定され公表されます。健康経営銘柄に選定されるためには毎年8月〜10月ごろに行われる健康経営度調査への回答を行い、関連期間での検討の末、受章社が決まります。
健康経営優良企業認定制度とは
企業が、従業員の健康管理を積極的に行っていることを認定する「健康経営優良法人認定制度」もあります。健康経営銘柄制度は、上場企業を対象としたものですが、未上場企業や、中小企業等を対象とする健康経営を対象としているのが「健康経営優良法人認定制度」です。認定は、企業規模毎に大企業を対象とした「大規模法人部門」と中小規模の法人を対象とした「中小規模法人部門」の2部門に分かれています。この認定には、「ホワイト500」と「ブライト500」という特別な称号があり、より健康づくりに貢献している企業として認定されます。
健康経営優良企業認定制度|ホワイト500
ホワイト500とは、大規模法人部門認定法人の中で、健康経営度調査結果の上位500法人を「ホワイト500」として認定するものです。特に優秀な活動をしているとされる賞であり、企業が従業員を大切にしている証として評価されます。また、ホワイト500に選ばれることで人材確保にも有利になるなど、人材確保などにおける課題解決にも大きなメリットを生みます。
健康経営優良企業認定制度|ブライト500
ブライト500とは、健康経営優良法人2021から新たに創設された賞です。中小規模法人部門のなかで優良な上位500法人に対して、「健康経営優良法人の中でも優れた企業」かつ「地域において、健康経営の発信を行っている企業」として優良な上位500法人が「ブライト500」として認定されます。ホワイト500と同じように、ブライト500に選定されることで、企業が人材の健康づくりに意欲的に取り組んでいる証明となり、人材確保にも有利になる賞です。
03健康経営のメリット
健康経営を行うことで起きるメリットについて解説します。健康経営を行う事で、具体的にはどのようなメリットが生まれるのでしょうか。企業におけるメリットだけではなく、働く従業員にも起きるメリットも含めて解説していきます。
生産性の向上
従業員が健康で働けることは、従業員にとって大きなメリットになります。企業においても、意欲的に働く社員がいることは、生産性の向上につながり企業成長を促進する要素といえるでしょう。従業員が体調を崩し長期的に休みを取ることや、心身の疲労によりパフォーマンスを発揮できないことは企業リスクとなりますが、健康経営を取り入れることで企業経営の安定化、従業員の満足度向上から生産性の向上までを期待できます。
離職率の低下
従業員が健康でモチベーション高く働けることは、企業への満足度を向上させ、結果的に離職率の低下にも貢献します。従業員の離職率低下は、業務ノウハウ、技術を社内に蓄積することにつながり、企業成長に大きなメリットを生みます。また、従業員にとっても安心して業務遂行に専念できる環境はメリットとなるでしょう。慢性的な人材不足の時代において離職率の低下は、経営課題を解決する大きな意味を持ち、メリットの代表的存在として考えられます。
企業ブランド力の向上
離職率の低下だけではなく、企業が従業員の健康づくりを応援する仕組みは企業ブランド力をあげる要素となります。従業員を大事にする企業としての評価は、取引先や顧客から見た安心感につながります。結果として、安心できる企業と取引したいと考えることで売上の増加や新規顧客の開拓などにつながるでしょう。
医療費の削減
健康であることから、従業員が負担する医療費の削減につながります。また、国内での課題である医療費問題に対して費用の抑制にも繋がり、将来の日本経済を助ける役割も担っています。少子高齢化となり、医療費の負担割合増の論議が繰り返されている中、健康経営を通して医療費の削減を図ることは国の施策としても推進される大きなテーマです。
04健康経営導入にあたって考慮するべきこと3選
健康経営は、社員の生産性向上や離職率の低下といったメリットが存在しますが、健康経営導入にあたっては、いくつか考慮するべき点も存在します。主に次の3つが挙げられます。
- (1)データの管理コストが発生する
- (2)従業員の協力を得られない可能性がある
- (3)効果が分かりづらい
ここでは、上記のそれぞれについて解説していきます。
(1)データの管理コストが発生する
健康経営を実施するためには、従業員の健康データやプログラムの実施状況などのデータを収集・管理する必要があります。しかし、データの収集や分析にはコストと労力がかかります。適切なシステムやプラットフォームを導入し、データの保護やプライバシーへの配慮も必要です。データ管理にかかるコストやリソースは、企業にとって負担となる可能性があります。
(2)従業員の協力を得られない可能性がある
健康経営が効果的に機能するためには、従業員の協力が不可欠です。しかし、従業員がプログラムに参加したり、健康情報を提供したりすることに対して、抵抗感や懸念がある場合があります。また、従業員が過度にプライバシーを侵害されると感じることもあります。従業員の協力を得るためには、コミュニケーションやプライバシー保護に関する配慮が必要です。
(3)効果が分かりづらい
健康経営の効果は、直接的な結果が得られるまでに時間がかかることがあります。また、健康経営が他の要因と絡んで影響するため、その成果を単純に評価することが難しい場合もあります。従業員の健康状態や生産性向上といった効果は、他の環境要因や経済的な変動によっても影響を受けるため、因果関係を特定することが複雑です。
05健康経営に取り組むべき企業の特徴とは
次に、どのような企業が健康経営に取り組むばきかについて解説していきます。どのような特徴がある企業に健康経営が向いているかを理解し、自社が該当しているかどうかチェックしていきましょう。複数に該当する場合には、健康経営の取り組みについて検討し、早期に導入をしていきましょう。
ストレスチェックのスコアが悪化している
企業により年1回、年2回と実施しているストレスチェックのスコアが悪化している場合には、早期に対応を検討する必要があります。高ストレス者が多い場合には、体調不良による長期休暇の課題、早期退職、離職率の増加などの問題も起きてきます。このような大きな問題が起きないためには、原因の追求と早期対応を行いつつ健康経営の導入による根本原因の解決や再発防止の対策を実施していきましょう。
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【関連記事】ストレスマネジメントとは?求められる理由や具体的な施策・ポイントを解説
長期休業者が多い
長期休業者が多い場合にも健康経営の導入は有効です。長期休業者を増やさないための施策立案やケアの方法などを整備し、復職後のサポート力を強化していきましょう。長期休業者が増えてくると、それをカバーする人材の負荷が大きくなり残業過多、休日出勤など悪いスパイラルが起きてしまいます。こうした悪循環を断ち切るためには、健康経営の概念を設け企業が従業員の健康づくり、健康を守る概念を持ち対応していく必要があります。
慢性的な残業時間の課題がある
慢性的な残業問題が続いていると従業員の心身に問題をきたす場合があります。心身に問題がおきると長期休業、離職率の増加、メンタル不調の問題などが起きてきます。こうした問題が起きてしまうと、悪循環を発生させ、より状況が悪化する可能性が高くなってしまいます。健康経営を導入することで、こうした悪循環を止め、根本的な残業時間削減の取り組みを実施していきましょう。
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また、メンタルヘルスケアでは不調者の早期発見とその対策がとても重要です。
そこで、この授業では職場の上司が部下の心の健康づくりのためにケアをしていく「ラインケア」を学び、心身ともに健全なチームづくりの実践ができるようになることを授業のゴールとしています。
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「メンタルヘルスマネジメント〜メンタルダウンを未然に防ぐラインケアの基礎〜」
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株式会社カイラボ 代表取締役
大学卒業後、(株)日本能率協会コンサルティングにて企業の業務効率化などに従事。ストレスが原因で入社2年で退職。 2011年に社会人教育のベンチャー企業でマネージャーを務める。 2012年株式会社カイラボを設立。新卒入社後3年以内で辞めた若者100人インタビューをおこない、その内容をまとめた「早期離職白書」を発行。 現在は多くの企業の若手社員定着率向上支援を行うほか、 講演、管理職・OJT担当者向け研修、採用コンサルティングなどを行っている。
06健康経営に取り組む際のポイント
実際に健康経営に取り組む際には、経営層の強い想いが必要です。経営者自らが健康経営に取り組み従業員の健康づくりを行うことを発信し実践していくことで社内への浸透や定着化を行うことができます。ここでは、健康経営に取り組む際の具体的なポイントについて解説していきます。
経営理念・方針の位置づけを明確にする
健康経営は、自社における経営理念や方針と異なる内容ではなく、それらにそった考え方をする必要があります。経営理念や方針とは異なる宣言を行っても浸透や定着は難しくなります。企業が推進していく上では、経営理念や方針とベクトルを合わせた内容で健康経営を実践していくことが必要であるため、意識した方針作りを行いましょう。
推進体制の構築を行う
健康経営の導入から計画書の立案、実施には労力も期間も必要です。そのため、健康経営を推進する体制を構築し、その部隊を中心に推進を行っていきます。健康経営を推進するには、現状の残業時間をはじめとする調査や分析も必要となるため、推進部隊はできるだけ集中して対応が行える組織を作ることが良いでしょう。
従業員の健康状態の把握
健康経営における目標や目標値を定めるためには、現状の把握が必要です。その中でも従業員の健康状態を把握することは、個人情報を扱う意味でも注意が必要になります。健康状態の把握以外にも残業時間、出退勤や欠勤などの状況など、健康にまつわる情報は多くあります。それらを収集、分析して課題の把握、解決のために指標や方針作りを行う必要があります。
07健康経営の注意点
健康経営はメリットが多く存在しますが、導入する上で、押さえておくべき注意点が存在します。注意点をしっかりと押さえておかないと、実施しても参加者が少なかったり、社員の健康を改善していくという根本的な解決にはつながりません。したがって、注意点をしっかりと押さえて、実施していきましょう。
誰もが参加できるような状態を作る
健康経営は、うまく浸透させていかないと見せかけだけのものになってしまいます。したがって、全社に告知して終わるのではなく、役職者など影響力の高い人に参加の呼びかけをおこなってもらうようにしましょう。また、参加してほしい層に対して刺さるようなコンテンツや取り組みを実施していく必要があります。そのため、ただのセミナーなどではなく、体験型のコンテンツを導入したり、短い時間でも参加できるものなど、ターゲットが参加できるハードルを下げたコンテンツを用意していきましょう。
経営層の理解を得る
実際にセミナーやコンテンツを実施する場合はその時間の業務がストップしてしまう可能性があります。したがって、健康経営の導入には、経営層の理解が必要不可欠です。また、トップが健康経営に賛同することで会社全体の取り組みとして、全社員に認知され、協力してもらいやすくなるといったメリットがあります。一方で、経営層の理解を得られないとそもそもの取り組みが頓挫してしまう可能性があるため、トップの理解をしっかりと得て推進していきましょう。
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08健康経営の導入事例
ここまで健康経営の導入メリットやポイント、注意点について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。健康経営は生産性の向上や離職率の低下だけではなく、対外的に取り組みを発信できるなどメリットがさまざまです。では、具体的にどのように導入しているのでしょうか。ここではいくつか事例を紹介していくので、ぜひ参考にしてみてください。
株式会社パソナグループ
人材派遣会社のパソナなどを傘下に持つパソナグループでは、社員の健康が経営に大きな影響をもたらすと考え、仕事の合間にできるエクササイズをオンライン形式で実施したり、社内の産業医や管理栄養士主導で健康情報の発信やセミナーなどを実施しています。また、肉体的な健康のみならず、メンタルヘルスケアなども実施。結果として、毎年実施する健康経営に関するアンケートでは、従業員のパフォーマンスが改善するなど、成果も現れています。
ネッツトヨタ山陽株式会社
岡山県を中心に、新車や中古車の販売、中古車の買取、整備などを行うネッツトヨタ山陽株式会社では、従業員の満足度を高めるために、社長主導で健康経営を導入しています。具体的には、社員に電子万歩計を携行してもらい、歩いた歩数を集計し、個人別・部署別実績を毎月、ニュース形式で発表してもらったり、社員食堂でヘルシーなメニューの提供などを実施しています。これらを対外的に発信していくことで、県内で表彰されたり、採用面で良い影響があるなどしています。
株式会社日立システムズ
日立グループの情報通信分野の中核を担うSIer大手の株式会社日立システムズでは、従業員の健康支援として、健康意識向上を目指した講演会やセミナー、メールマガジンの配信を実施しています。また、従業員とその家族に対して、がんに特化したオプション検査費用を会社が補助したり、がん予防に向けたセミナーなどを実施。このような取り組みの結果、「健康経営優良法人2022」の大規模法人部門の上位500社である「大規模法人部門(ホワイト500)」として、認定されています。
味の素株式会社
創業時より「おいしく食べて健康づくり」という志を共有し、調味料をはじめとする食品など、世界各国で様々な事業を展開して、を展開する味の素株式会社。味の素グループでは、「味の素グループ健康白書」を制定し、社員の健康維持・増進を支援しています。具体的には、健康アドバイスアプリの提供や禁煙対策、メンタルヘルス回復プログラムなどを実施。また、自身の健康状態を可視化できる「MyHealth」というサイトを作成し、従業員のセルフケア促進に取り組んでいます。
住友林業株式会社
林業・木材建材・住宅事業・不動産事業などを展開する住友林業株式会社では、健康経営の一環として、従業員のメンタルヘルスケアやラインヘルスケア、セルフケアなどの研修を実施したり、長時間労働対策を実施しています。結果として、4年連続健康診断受診率が100%となり、残業時間が8%減少。肉体的な疾患での退職率は0%となりました。
「研修をしてもその場限り」「社員が受け身で学ばない」を解決!
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09まとめ
本記事では、健康経営をテーマにメリットや取り組む際のポイントについて解説しています。健康経営は、企業メリットよりも従業員メリットが大きいとも言われており、従業員が業務で最大限のパフォーマンスを発揮する上でも重要な施策です。本記事を参考に、ぜひ健康経営について検討し導入を行ってください。