学習する組織とは?メリットや企業事例を紹介

ラーニングオーガニゼーションとは、一人ひとりの潜在的な能力を引き出し、組織・チームが力を発揮し、成長をし続けるアプローチ方法です。本記事では、ラーニングオーガニゼーションのメリットや企業事例を紹介します。
- 01.学習する組織とは?
- 02.学習する組織の3つの柱
- 03.学習する組織の5つの理論と手法
- 04.学習する組織で得られるメリット
- 05.学習する組織を阻害する7つの要因
- 06.学習する組織を導入している組織の事例
- 07.まとめ
01学習する組織とは?
学習する組織は、1970年代にハーバード大学名誉教授のクリス・アージリス氏が提唱した概念です。 1990年に、マサチューセッツ工科大学の教授、ピーター・M・センゲ氏の著書「The Fifth Discipline」(邦題「最強組織の法則」)により広まりました。この理論は、変化に対して柔軟に適応し、進化し続ける組織をつくるアプローチ方法です。
▶︎参考最強組織の法則
学習する組織が注目される背景とは
学習する組織が注目されるようになった背景には、企業を取り巻くスピードが速くなり、常に変化への適応力・成長力が求められるようになったことが挙げられます。 特に、1980年代から90年代にかけ、技術や知識が塗り替えられるスピードが高まり、上司から部下へ仕事のノウハウを伝えたり、知識をマニュアルで伝承したりすることが困難になりました。 さらに、社会環境の急激な変化やグローバル化により、企業の資源はものや金から知識へと移行しました。その結果、社員みずからが学習をし、知識を身につけ行動することが重要視されるようになったのです。
02学習する組織の3つの柱
学習する組織の3つの柱とは、志を育成する力、共創的に対話する力、複雑性を理解する力です。これら3つの柱をバランスよく伸ばしていくことが重要なポイントです。それぞれの内容を詳しく見ていきます。
志を育成する力
1つ目の柱である「志を育成する力」とは、自律的に仕事を進めるための力のことです。 「自己マスタリー」と「共有ビジョン」が志の育成に当てはまります。自己マスタリーとは、組織を構成する個々人が、自己研鑽をし続け、学習を深めていくことを意味します。一方、共有ビジョンとは、チームとしての志を意味します。
共創的に対話する力
2つ目の柱である「共創的に対話する力」とは、個人、チーム、組織に根強く存在する無意識の前提を振り返り、内省しながら、ともに創造的に考え、話し合う能力です。先入観や固定概念にとらわれたままでは、自身の行動を制限してしまいがちです。先入観を振り払うための「メンタルモデル」と、オープンな対話で理解を深める「チーム学習」が必要です。
複雑性を理解する力
3つ目の柱である「複雑性を理解する力」とは、現在起こっている問題に対して、その背景に潜んでいる原因を探り、根本的な対処法を考え抜くことです。表面化している問題に対する解決策だけでは、真の意味での解決とは言えません。問題の本質を見極めることが重要なのです。
03学習する組織の5つの理論と手法
学習する組織の3つの柱は、「システム思考」「自己マスタリー」「メンタルモデル」「ビジョンの共有」「チーム学習」の5つの手法で成り立っています。これらの手法は、学習する組織を実践するために必要不可欠なものです。具体的な内容を解説します。
システム思考
システム思考とは、複雑な要素が絡み合った社会や環境において、さまざまな事象の相互関連性を考える概念です。一般的に、問題解決の際にはその原因となるものを探り、解決していく論理的思考を行うことに慣れています。しかし、複雑化した環境では、断片的ではなく全体像を捉えることが重要です。
自己マスタリー
自己マスタリーとは、継続的に個人のビジョンを明確にし、それを実現するためにエネルギーを集中させ、忍耐力をつけ、現実を客観的に見ることです。誰もが個人のスキル・強みを活かすことの重要性を認識していますが、さらに一歩踏み込み、個人の心の成長こそ重要なポイントです。
メンタル・モデル
メンタル・モデルとは、先入観や固定観念といった、自分のなかにある凝り固まった考え方のことです。このようなメンタル・モデルは、思考や行動に影響を与え、行動に制限がかかってしまうおそれがあります。無意識のうちに持っているメンタル・モデルに気づくためには、さまざまな視点や価値観を受け入れることが求められます。
ビジョンの共有
ビジョンの共有とは、企業が掲げるビジョンではなく、組織のメンバーが互いの目的や目指すべき将来の理想像を共有することです。そのビジョンを共有し、何を作り出し、どのように有りたいのかといったことを共有することが重要です。
チーム学習
チーム学習とは、ビジョンを共有したメンバー同士が、対話を通して組織のパフォーマンスを最大限発揮できるよう、学び合う学習法です。複雑化する環境の中で成長し続けていくためには、個人の成長のみならず、チームでの成長が必要不可欠です。チームで学習し合う過程は、学習する組織そのものといえます。
04学習する組織で得られるメリット
学習する組織の理論や手法について解説してきました。3つの柱と5つの理論を理解したところで、実際に学習する組織で得られるメリットについて考えていきます。ぜひ自社に導入する際の参考にしてください。
変化に柔軟に適応できるようになる
組織は、外的環境変化の影響などにより、短期間のうちに姿かたちを変えていくものです。このような変化は組織において、なくてはならないものでもあり、避けることができない事象です。学習する組織を構築できると、環境の変化を敏感に察知し、適応力が身につきます。その結果、大きな変化が起きたとしてもそれを受け入れ、柔軟に適応できるようになるのです。 どのような変化に対してもプラスの方向へと導いて行ける組織こそ、学習する組織といえます。組織改革は強い力で推し進めようとしてもうまくいきません。みずから変わっていこうとする姿勢を持ってもらうことが組織として必要なのです。
指示命令による変化ではなく自律的に改革を行う
変化が激しく、知識やノウハウの更新スピードの速い時代にあって、自ら学び進化し続ける組織を作り上げることができるのはメリットとなります。学習する組織の構築により、上司からの指示命令にだけでなく、社員みずから学習をし、自律的に改革を行う組織作りを期待できます。
組織の持続可能な成長を実現できる
学習する組織は、ビジネスサイクルのスピードが速い時代に、社会のニーズに応え、価値を創造し続けるための重要なモデルです。学習する組織の3つの柱をバランスよく伸ばし、個々人が学習する人となることで、学習する組織を作り上げ、持続的な成長を実現できます。
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05学習する組織を阻害する7つの要因
ピーター・M・センゲは、学習する組織を阻害する7つの要因があると述べています。具体的には以下の7つです。
- 1:役割への固執
- 2:責任転嫁
- 3:事象に対する執着
- 4:早い対処が最善という思い込み
- 5:従来のやり方にこだわる
- 6:成功体験への執着
- 7:まとめて管理するマネジメント
1:役割への固執
仕事上の役割に固執してしまうと、物事を俯瞰して見る力や責任感が失われます。自分に与えられた仕事や役割だけをこなしていると、自分が取り組んだ仕事の結果が様々な部署や人に影響を与えていることに気づくことができません。また、その反対に他の人の仕事が自分の仕事の結果に影響を与えていることに気づかず、成果を出しても自分のおかげという考えに至ってしまいます。
2:責任転嫁
先述した役割への固執は、責任転嫁にも繋がります。例えば、営業職が「商品開発部が作成するプロダクトが悪いから製品が売れない」と言い、商品開発部は「商品が売れないのは営業が悪い」と主張するといったことは、どのような企業でも起こり得ます。しかし、このような責任の押し付け合いをしていては、本当に解決すべき課題に対してのアクションに繋がりません。
3:事象に対する執着
特定の事象に対して執着するのも学習する組織になるのを阻害します。事象の背景には様々な要因があり、それらが積み重なっています。そのため、事象が起きた要因を広い視野で分析し、事象に執着しないようにする必要があります。
4:早い対処が最善という思い込み
何事も早く対処するのが最善という考えの人もいるでしょう。早く対処すること自体は良いことなのですが、根本的な課題・要因の解決に至っていない場合は、その限りではありません。要因を見極め、本質的な課題に対して対処することが何よりも重要なのです。そこにスピードという観点もあって然りですが、まずは課題の本質を見極めるようにしましょう。
5:従来のやり方にこだわる
現代の市場変化は著しく、従来のやり方にこだわっていると気づいた時には対処できない状態になっている可能性があります。特に強い成功体験があると、この従来のやり方に捕われる傾向があるので注意しましょう。これは個人にも起こり得ます。よく「ゆでガエルになる」という表現をしますが、水の温度を徐々に上げていくとカエルは気づかずそのまま茹で上がってしまうというたとえ話です。アップスキリングをせず、過去の知識や経験で仕事をしていると、気づかない間に茹でガエルになっており、いつの間にか市場価値が激減しているという事態になりかねないのです。
6:成功体験への執着
先述した従来のやり方への固執は、成功体験への執着から生まれやすい傾向にあります。成功体験を横展開することは、ビジネスの現場では頻繁に行われますが、その成功体験に囚われてしまうと、環境の変化に対応できないことにも繋がります。例えば、マネジメント層が「自分はこうやっていたから、このように仕事をすると上手くいく」といったように、自身の成功体験を部下に押し付けることは珍しくありません。また、この成功体験の押し付けで部下が成長しなかったときに、自分の間違いに気づかず、部下が悪いと責任転嫁になってしまう負のループに突入してしまう危険性もあります。
7:まとめて管理するマネジメント
従業員をチームでまとめて管理するマネジメントを実施する企業・管理職は珍しくありません。しかし、このようなやり方では「学習する組織」は生まれにくいとセンゲは述べています。セクショナリズムを避けるために、部署を跨ってチームを編成し、チームワークの強化で問題解決を図ろうとするのは一見正しい手段に思えます。ただし、チームワークを重んじるばかりに反対意見が出ず、実は意見がまとまったように見えているだけで根源的には意思の統率が取れていないという可能性に留意する必要があるでしょう。
06学習する組織を導入している組織の事例
ここでは、学習する組織を導入している企業を4社紹介します。センゲ氏の著書「The Fifth Discipline」が上梓された1990年代のフォード社やユナイテッド・テクノロジー社の事例をみてみましょう。また、投入できる資源が少ないうえに、具体的な取り組みがほとんどない中小企業、RSコンポーネンツ株式会社の事例も取り上げます。
フォード社
自動車業界大手のフォード社は、大手企業として初めて本格的に学習する組織を導入しました。1990年当時、同社は開発部門において問題を抱えていました。そこで、まず経営陣が「学習する組織」の5つの規律についての講義を受け、その理論を日常業務において実際に活用し、実践するための訓練を開始しました。 日常的に数時間の「振り返り」時間を設けたことで、チームが本音で話し合い、共有の目標を達成しようとした結果、次々と新しいマネジメント施策や開発プロセスのイノベーションが起こったのです。
ユナイテッド・テクノロジー社(現:、レイセオン・テクノロジーズ社)
航空機のエンジンなどを作るメーカーのユナイテッド・テクノロジー社は、1990年当時、経営危機に陥っていました。見積作成に50日間もの日数を要していたため、顧客から大口の顧客を一気に失うかもしれない状態だったのです。 そこで、フォード社で「学習する組織」を導入したマネージャーに依頼し、関係部署の担当者やマネージャーたちを一堂に集め、話し合いを始めます。現状を把握し、その根底にあるメンタル・モデルを突き詰めていきました。 その結果、真の問題に気がついたチームは、新しいビジョンと目標を設定し、10日間で見積を作成することに成功します。内発的な動機付けとチームのコミュニケーション、そしてそれを可能にする組織構造がいかに重要であるかを示す事例といえます。
RSコンポーネンツ株式会社
RSコンポーネンツ株式会社は、英国で創業80年のElectrocomponents UK Limited100%出資の日本法人として、1999年に事業を開始した商社です。社員の自律的学習を促すユニークな形態のコーポレートユニバーシティ(CU)を立ち上げ、費用対効果の高い方法で、「学習する企業文化」に成功しています。 当時の社長が、みずからが学ぶ環境、学ぶ企業文化を社内に根付かせることが必要と考え、2000年代半ばにRSユニバーシティを立ち上げました。学習意欲を向上させるため、独自の社内通貨やビンゴカードを活用するなどさまざまな工夫がなされています。
サステナブル・フードラボ
サスティナブル・フード・ラボは、企業と市民が一緒になってサステナブルな食糧システムを作るプロジェクトで、2003年に設立されました。過去や偏見にとらわれず、本当に必要な変化を生み出す技術「U理論」を、このプロジェクトを通じて実践に移していきます。 たとえば、全体会議や定例会の前におこなう会議「ラーニング・ジャーニー」は、企業や団体のリーダーが生産地を訪れ、見たり聞いたりしたことをすぐに振り返り、対話していくものです。荒野の中で一人48時間を過ごし、再びメンバーと一緒になりダイアログを行う「ソロ」というプログラムもあります。このようなプロセスを経て、多くのメンバーが自分の思い込みや固定観念を手放し、何をすべきかが明確になります。
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■資料内容抜粋
・大人たちが学び続ける「Schoo for Business」とは?
・研修への活用方法
・自己啓発への活用方法 など

07まとめ
学習する組織とは、自分の未来を創造する能力を絶えず充実させている人々の集団であるともいえます。企業を取り巻く変化に柔軟に適応し、ダメージからの回復力を高めるためには早急に「学習する組織」を構築する必要があります。学習する組織の概念を参考にしつつ、人材育成のあり方を見直してみてはいかがでしょうか。
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働き方に関する制度改善を多数行ってこられた株式会社クロスリバー 代表取締役 越川慎司氏をお招きし、「残業削減ではない方法で働き方改革を行い、社員の自発性と意欲を著しく向上させ、離職率を低下させるための自律学習の制度設計」について語っていただいたウェビナーのアーカイブです。同社の調査・分析内容と自律学習の制度設計を深堀りします。
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登壇者:越川 慎司様株式会社クロスリバー 代表取締役
ITベンチャーの起業などを経て2005年に米マイクロソフト本社に入社。業務執行役員としてパワポなどの責任者を経て独立。全メンバーが週休3日・リモートワーク・複業の株式会社クロスリバーを2017年に創業し、815社17万人の働き方と成果を調査・分析。各社の人事評価上位5%の行動をまとめた書籍『トップ5%社員の習慣』は国内外で出版されベストセラーに。