トランジションとは?企業が取り組むべき環境整備方法を紹介
近年、流動性の激しいビジネス環境下において、各企業でも組織改編や人事異動などが多く発生しています。その中で、主に人事分野など人材を扱う領域で注目されているのが、「トランジション」です。本記事では、トランジションの意味やメカニズム、トランジションのデザインによる効果やデザインする際のポイントなどを、解説します。
- 01.トランジションとは
- 02.トランジションにおける3つの段階
- 03.トランジションで企業に期待できる効果
- 04.企業で取り組むべきトランジション
- 05.変化対応力のある組織作りならSchooのオンライン研修
- 06.まとめ
01トランジションとは
トランジション(transition)とは「転機」「転換点」「変化」「移行」などを意味し、あるステージから次のステージへと移行する時期のことです。ビジネスの中でも、特に人事分野では従業員のキャリアステップにおける配置転換やキャリア転換に伴い、新たなステージへの適応、成長する過程を表します。 このトランジションについて、アメリカの心理学者ウィリアム・ブリッジスは、過去30年以上に渡り「変化」への対応するための「トランジション理論」を提唱しています。発達心理学をベースとしたキャリアカウンセリング理論として、人々が人生で直面する課題は、各ステージにおいて共通していて、直面した課題を乗り越えることで、次のステップに進めるとしています。
トランジションが注目される背景
現在は、「VUCA」時代と呼ばれるビジネス環境が目まぐるしく変化し、将来の予測が非常に困難な時代です。そのため、十分な準備期間もなく組織再編や人事転換、キャリアアップが行われることも多いです。その際、マネージャーやリーダーなどの責任あるポジションや、これまでの分野とは全く異なる組織への異動も発生します。その変化に対応できず、組織が期待するような役割に応えられない人が増加しています。 そのため、従業員のキャリアステップをともに描き、役割に応じた成長ができるように、トランジションのデザインが人事に求められるようになってきているといえるでしょう。
02トランジションにおける3つの段階
まずは、ウィリアム・ブリッジスのトランジション理論から、トランジションのメカニズムについて見ていきましょう。トランジション理論では、トランジションのプロセスを以下の3つの段階に分けられると考えました。
- ・終わり
- ・ニュートラルゾーン
- ・始まり
それでは、それぞれの段階について、解説していきます。
1.終わり
はじめの段階となるのが、何かが終了する時期である「終わり」です。進学、就職、異動、失業などのライフイベントに伴って、これまで慣れ親しんできた環境や人間関係、役割から離れ、混乱や空虚感を覚える段階です。このように何かが終わるきっかけとしては、自分の意志で終わらせることもあれば、外部環境によって終了させられる場合もあります。 いずれにしても、これまで慣れ親しんだ環境や関係を手放すことは、心理的なダメージを伴います。これまでの何かが終わったことを受け止めることが重要です。
2.ニュートラルゾーン
次の段階となるのが、中立の時期である「ニュートラルゾーン」です。転機をどのように受け入れていくのかを考える時期であり、終わりから始まりへ移行する大切な段階です。「変化を受け入れて進みたい感情」と「現状を維持したい感情」という両極の感情が発生して、進むべき方向に迷い、立ち止まっているような感覚に陥る場合もあります。まずは、これまでの自分の人生や体験、考え方を整理し、自分と向き合うことが大切です。そうすることで進むべき道が定まって、次の段階へ前進できるでしょう。
3.始まり
最後の段階となるのが、何かが始まる時期の「始まり」です。この段階では、これまでの安心できる環境から離れて、新しい環境に入るため、内的な抵抗感や恐怖感が生じることもあります。また、自分は納得して進んでいる場合でも、周囲の反対などの外的な抵抗が発生することもあります。このように、「始まり」の段階では、内的、外的両面での抵抗が起きることを理解しておくと良いでしょう。
03トランジションで企業に期待できる効果
次に、トランジションのデザインによって企業に期待できる効果について、紹介していきます。トランジションのデザインで企業に期待できる、主な効果は以下の5つです。
- ・1.人材の早期育成
- ・2.組織の活性化
- ・3.適切な人材配置
- ・4.モチベーションの向上
- ・5.人材の定着
それぞれの効果について、詳しく解説していきます。
1.人材の早期育成
VUCA時代において、ビジネス環境の激しい変化に対応できる人材の確保や育成は、必要不可欠です。企業が計画的にトランジションを行うことで、役割の転換した人材がストレスなく、速やかに適応できるので、早期に人材の育成が可能となります。また、トランジションの中で、転勤経験やさまざまな業務経験を経ることによって、業務遂行能力や順応力の向上も期待できます。
2.組織の活性化
企業は組織の活性化のために、人材を戦略的に配置し、機能させる必要があります。トランジションをデザインすることで、新たなスキルを身に付けるなどの人材育成や成長へつながるでしょう。例えば、技術職から営業職への異動を考えると、知識や考え方など広範囲の新たな能力開発が可能です。また、異動先の部署にとっても、新たな経験や目線での検討ができるようになります。それらの異なる目線や経験、知識を持ったメンバー同士で推進することで、組織全体の活性化を期待できます。
3.適切な人材配置
社員一人一人における仕事の適性を見極めることや発見することも、トランジションで期待できます。トランジションによって、あらゆる業務経験やスキル取得が可能です。その上で、社員の能力を最大限に引き出すためには、社員と仕事をマッチングさせて、最適な人材配置の取り組みが必要です。トランジションのデザインによって、最適な人材配置を行うことで、企業の成長にもつながるでしょう。
4.モチベーションの向上
トランジションのデザインによって、本人のスキルや目標が会社の方針や成長戦略を進める上で、どのように関わるのかを認識できます。その結果、社員は目的や目標を見失わずに仕事に取り組めて、モチベーションの向上につながります。また、長期的に同じ分野や部署で働いていると、同じ業務の繰り返しとなり、モチベーションが低下していきます。トランジションを上手く活用することで、新しい環境や仲間の中で新たな発見があるため、モチベーションの低下を防ぐことが可能です。
5.人材の定着
トランジションをデザインできないと、マネジメント職などへ昇格したとき、パフォーマンスを発揮できなかったり、馴染めなかったりと離職につながる可能性があります。もちろん、昇格以外の現場や分野の異なる組織への異動においても、同様のリスクがあります。入念な計画を立ててトランジションをデザインし、社員がストレスなく早期に活躍できるようにしましょう。そうすることで、人材の早期の育成の実現や離職リスクも抑えられて、人材の定着化につながります。
04企業で取り組むべきトランジション
最後に、企業がどのようにトランジションに取り組むべきかを見ていきましょう。今回は、トランジションに取り組むときの4つのポイントを解説します。
- ・1.新入社員の教育
- ・2.マネジメント職・プロフェッショナル職の配置
- ・3.無駄を徹底的に省く
- ・4.短期間でトランジションを実施できる体制づくり
社員が転換後の役割において、早期に順応し成果を挙げられるように、取り組んでいきましょう。
1.新入社員の教育
社会人への転換のトランジションとして、新入社員が一日でも早く組織内で適応、活躍できるようになるため、新入社員への教育が必要です。新入社員の研修として、社会人としての仕事に取り組む姿勢や進め方、必要なスキル、今後のキャリアプランなどを教育します。その際、新入社員が自ら考えて取り組み、課題を解決していくことを促すことが大切です。そのためにも、今後のキャリアステップの選択肢や各ステージにおける役割や行動、必要なスキルなどを明確にして、共有してあげましょう。
2.マネジメント職・プロフェッショナル職の配置
社内の配置転換や人事異動のトランジションにおいて、マネジメント職・プロフェッショナル職の配置も必要です。キャリアアップをする中で、プレイヤーからマネジメント職へ移行する時期があります。一方で、マネジメント職のポストの数にも限りがあり、マネジメント職からプロフェッショナル職へ配置転換することもあります。それぞれの移行において、必要なスキルや今後のキャリアの道筋、当該キャリアでの活躍イメージなどを、社員と共有することが大切です。また、周囲のフォロー体制も構築しておくと良いでしょう。
3.無駄を徹底的に省く
トランジションで取り組むべきことは、変化に伴い不要となった過去のビジネスプロセスやノウハウなどの無駄を徹底的に省くことです。トランジションが発生するとき、必要なリソースは増加します。無駄を省き、不要なリソースを開放することで、新たなステージの役割で必要な意識や行動をスムーズに取り入れ、対応できます。まずは、これまで本人が経験を経て蓄積してきたスキルや行動、意識の中で「何をやるべきか、やらないべきか」の棚卸をしてみましょう。
4.短期間でトランジションを実施できる体制づくり
社員の人員配置の変更やキャリアアップなどのトランジションにおいて、短期間でスピーディーに実施することが重要です。本来、トランジションは企業の成長や組織の活性化を目的として実施します。しかし、トランジション自体に時間が掛かるのはもちろん、社員が成長するのに時間が掛かったり、不適合を起こしたりしては、成長の妨げとなります。企業は、人材育成のノウハウの蓄積、活用や本人の周囲への積極的なサポートの呼びかけなどを行うといった、短期間でスムーズにトランジションを実施できる体制づくりを心掛けましょう。
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東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、英国ランカスター大学大学院・博士課程修了(Ph.D.)。専攻は組織社会学、経営学習論。 組織論、社会論、コミュニケーション論、学習論の視点から、多様なステークホールダーが織りなす関係の諸相を読み解き、創造的な活動としての「学習」を再構成していく研究活動に取り組んでいる。現在、アンラーニング、サードプレイス、ワークショップ、エスノグラフィーといった概念を手掛かりとして、「創造的なコラボレーション」の新たな意味と可能性を探るプロジェクトを展開中。 共著に『企業内人材育成入門』『ダイアローグ 対話する組織』『越境する対話と学び』などがある。 法政大学 2020年度「学生が選ぶベストティーチャー賞」 コンピュータ利用教育学会 2020 PCカンファレンス「最優秀論文賞」 法政大学経営学部 創設60周年事業・実践知フォーラム「総長大賞」 日本シミュレーション&ゲーミング学会 2009年「論文賞」
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06まとめ
キャリアアップやキャリア転換など、新たなステージへ進む際に重要となるのがトランジション。これらはどの企業でも必ず発生する重要な課題です。本記事では、トランジションの意味やメカニズム、トランジションをデザインする際のポイントなどを、解説しました。本記事を参考に、トランジションについて正しく理解し、デザインできるようになりましょう。