統合報告書とは?求められる背景や作成のポイントを企業事例とともに解説
近年、統合報告書を発行する企業が増えています。グローバル企業を中心に、非上場企業から大学まで広がりをみせているなか、統合報告書の作成を検討する企業も多いでしょう。 本記事では、統合報告書の概要と同一視されやすいアニュアルレポートの違いのほか、作成が求められる背景や作成のポイントを解説します。さらに、統合報告書を発行している企業事例も紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
- 01.統合報告書とは
- 02.統合報告書の作成が求められる背景
- 03.統合報告書の主な項目
- 04.統合報告書を作成するポイント
- 05.統合報告書の企業事例
- 06.まとめ
01統合報告書とは
統合報告書とは、財務情報と非財務情報を統合し、自社の全体像を株主や投資家だけでなく、取引先、金融機関、従業員など全てのステークホルダーに対して説明するレポートです。 財務情報とは、損益計算書や貸借対照表、キャッシュフロー計算書といった財務諸表を指し、これまでの財務状況や今現在の財務状況を分かるように資料化しています。 それ以外の情報をまとめて非財務情報といい、具体的には、環境報告書やCSR報告書、有価証券報告書など企業が定期的に開示する各種文書が該当します。 ステークホルダーにできるだけ自社の全体像を理解してもらうためには、過去・現在の業績のみならず、将来の持続的な成長への取り組み、戦略、ガバナンス、中長期的な価値創造など、多くの情報を開示しなければなりません。これらを網羅した内容となっているのが統合報告書です。 また、上場企業における統合報告書は、各企業のホームページで閲覧可能となっています。
アニュアルレポートとの違い
アニュアルレポートとは年次報告書を指し、上場企業が株主や投資家に向けて財務情報開示のために、年度末の発行が義務付けられている冊子です。 投資判断のための有力な情報源として、ステークホルダーへの提供を目的としています。 主な内容は、財務情報や今後の経営戦略など、総合的な情報が掲載されています。 近年、アニュアルレポートは、非財務情報を重視する傾向にあり、財務情報と合わせた形式が用いられており、統合報告書と混同する方も多いでしょう。 アニュアルレポートが単年度の報告を主とするのに対し、統合報告書ではより長期的な視点で、企業が今後目指すべき姿やその実現に向けた経営戦略、価値創造を示さなければなりません。
02統合報告書の作成が求められる背景
統合報告書の作成が求められる背景として、以下の2つが挙げられます。
- ・人的資本情報の開示が義務化
- ・ESG投資やESG経営の普及
それぞれ解説します。
人的資本情報の開示が義務化された
統合報告書の作成が求められる背景のひとつが、人的資本情報開示の義務化です。 上場企業における人的資本情報の開示は、2023年3月期決算を行う企業から適用されます。 開示にあたり、すでに義務化されている有価証券報告書における対応が考えられます。それに対して、統合報告書は有価証券報告書を含む多くの情報をまとめているため、人的資本情報の開示・発信も同報告書を通じて行うのが効率的なのです。
ESG投資やESG経営が普及している
ESG投資やESG経営の普及も、統合報告書の作成が求められる背景です。 現在、企業の持続的価値を図る観点として、財務情報だけではなく、ESG(環境・社会・企業統治)が重視され、欧米を中心に世界のESG投資が増加しています。 金融庁公表の「サステナブルファイナンス推進の取り組み」によると、世界と日本のESG投資資金は2020年に約35兆ドルに達しています。 そのうち、日本は8%と世界における存在感はそれほど大きくありません。しかし、増加ペースは早く、2016年から2020年にかけて5.8倍に急増しています。こうした中で、企業も積極的にESGに関する情報の開示を進めるようになり、統合報告書の作成が求められるようになっているのです。 日本における統合報告書発行企業数の推移は、2022年には884社が公表しており、今後も増加していく可能性が高いでしょう。
▶︎参照:企業価値レポーティング・ラボが 国内自己表明型統合レポート発行企業等リスト2022版|企業価値レポーティング・ラボ
03統合報告書の主な項目
統合報告書に記載する項目は、経済産業省の「価値協創ガイダンス」のフレームワークを参考にするのがおすすめです。企業の価値観、ビジネスモデルなどステークホルダーに伝えるべき内容を体系的・統合的に整理しています。 ここでは、統合報告書への記載が推奨されている6つの項目を「価値協創ガイダンス」のフレームワークに沿って解説します。
- 1.価値観
- 2.ビジネスモデル
- 3.持続可能性・成長性
- 4.戦略
- 5.成果と重要な成果指標(KPI)
- 6.ガバナンス
これらの項目は、互いに関連しているため、各項目間の結合性をもって報告するようにしましょう。
▶︎参照:価値協創のための統合的開示・ 対話ガイダンス|経済産業省
1.価値観
価値観とは、企業の理念、ビジョン、⽂化を指します。企業の⽅向性や戦略を決定するうえで、固有の判断軸となる要素です。 そのため、自社固有の価値観を示すとともに、経営課題や事業機会に社会課題を関連付けて、長期的かつ持続的な価値創造の中で、どのように解決していくのかを説明する必要があります。ステークホルダーに対して、他社にない存在意義を鮮明にしましょう。
2.ビジネスモデル
ビジネスモデルとは、顧客や社会に価値を提供し、それを持続的な企業価値向上につなげていく仕組みを指します。 ビジネスモデルの理解、その実現可能性の評価のために必要な要素で、市場において自社がどれくらい差別化できているか、その優位性を示さなければなりません。さらに、様々な脅威やリスクに対して、いかに対処できるかも説明する必要があるでしょう。
3.持続可能性・成長性
持続可能性・成⻑性とは、明確なビジネスモデルに加え、⻑期的な視点のもとで持続的な価値創造と成⻑を⽀える要素です。 複雑化する事業環境下で持続可能性や成⻑性に影響するリスクや不確実性に対し、ESGの要素がどのように関連して、影響を与えるのかを把握する必要があります。次の項目である戦略とも関連付けて持続的な価値創造にどのようにつながっていくのかを明確にしましょう。
4.戦略
戦略とは、持続的なビジネスモデルを実現する⽅策です。 企業は、戦略目標の達成に向けた経営資源の確保・強化を説明するだけでなく、それらがビジネスモデルや成果と重要な成果指標といった他の要素との関連性を踏まえなくてはなりません。また、この項目で用いられる経営資源は、財務資本に限らず、幅広い資本を活用し最適化することが求められます。
5.成果と重要な成果指標(KPI)
成果と重要な成果指標(KPI)とは、企業の価値観を踏まえた戦略の実行により、どれだけ経済的価値を創出してきたか、経営者による分析・評価する際の指標です。 戦略の進捗状況と業績を説明すると同時に、資本コストの増減、ステークホルダーの期待値に対応しているかといった点も示す必要があります。これまでの戦略や投資から⽣み出されたキャッシュフローや利益の振り返りは、将来的な戦略の実効性を⾼め、ステークホルダーからの信任を得るためにも重要になるでしょう。
6.ガバナンス
ガバナンスとは、持続的に企業価値を⾼める⽅向に企業を規律付ける仕組み、もしくは機能を指します。ステークホルダーはガバナンスが適切に機能しているかを重視するため、情報開示や対話を通じて、その実効性を示さなければなりません。 具体的には、社長、経営陣のスキルおよび多様性、ガバナンスに責任を負う人材のスキル、意思決定のプロセスなどが挙げられます。プロセスの詳細を説明するにとどまらず、戦略の進捗過程において、ガバナンスがいかに適切に機能しているかを説明しましょう。
04統合報告書を作成するポイント
統合報告書の作成にあたり、どのような情報を開示するか悩む担当者も多いでしょう。統合報告書の作成には、いくつかのポイントがあります。 ここでは、以下の2点を解説します。これらを意識すると、自社の企業価値の向上につながる統合報告書を作成できるでしょう。
- ・自社ならではの価値創造ストーリーを展開する
- ・DXの取組みを反映する
自社ならではの価値創造ストーリーを展開する
統合報告書の作成において、価値創造は重要なポイントの1つです。価値創造は、ビジネスモデルや戦略など互いに関連するいくつかの構成要素が循環するプロセスです。 自社の主要なステークホルダーとの対話により、明確なメッセージを引き出し、独自の価値創造ストーリーを展開するようにしましょう。 しかし自社独自といっても、詳細になりすぎると共感の得られない統合報告書になってしまいます。競合他社との差別化を誰もが理解できる視点が、価値創造ストーリーには必要です。 そのためには、経営ビジョン、主力商品・サービスについて他社との違いを明確に示し、その仕組みを分かりやすく提示しましょう。さらに、将来の事業環境の変化に対する、持続可能性・成長性について、深く理解させるエビデンスをセットにすると良いでしょう。
DXの取組みを反映する
DXの取組み(デジタル変革)を反映するのも、統合報告書の作成において重要なポイントです。経済産業省のDXレポートでは、企業としての優位性という観点から、DXの重要性を解説しています。 新たなテクノロジーの創出により、多くの企業が優位性を保つためのDXの取組みを行っています。長期的な成長や企業の競争力強化に向けて、最新のデジタル技術を活用したビジネスモデルが求められているからです。 統合報告書では、DXの取組みを非財務情報として財務情報と結びつけ、企業の戦略をより立体的に提示しましょう。
▶︎参照:DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~|経済産業省
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・研修への活用方法
・自己啓発への活用方法 など
05統合報告書の企業事例
国内外で、積極的に情報開示を行う企業を表彰する統合報告書アワードが開催されています。 ここでは、以下の2社を取り上げて紹介します。
- ・「2022 ARC Awards」Photography/Video部門 最優秀部門賞 資生堂
- ・「IR優良企業賞2022」 IR優良企業大賞 アサヒグループホールディングス
資生堂
2022年12月期発行の「統合レポート2022」では、中長期の価値創造に向けた経営方針・戦略を重視し、財務情報、サステナビリティ戦略や環境、社会の重点活動テーマの詳細を掲載しています。 「人財」や「イノベーション」の取組みに加え、新たに2030年のビジョンを揚げ、実現に向けた中期経営戦略「SHIFT2025andBeyond」において、目指す姿や戦略策定の背景、DX推進の継続強化などを特集しました。 また、CEO/COOをはじめ、各エグゼクティブオフィサーや社外取締役のメッセージを掲載しています。 統合レポートの作成にあたっては、デジタル化推進の一環としてオンライン版とし、デザイン表現やユーザビリティの向上に注力している点が特徴です。
アサヒグループホールディングス
2023年5月発行の「統合報告書2023」では、中長期経営方針の進捗説明を軸に、「Asahi Group Philosophy(グループ理念)」の実践から変革力と持続可能性を可視化し、独自の企業価値創造を発信しています。 企業価値のほか、中長期戦略、コーポレート・ガバナンス、2022年の経営成績の解説と分析など8項目・114ページにわたって、戦略ストーリーを体系的にまとめました。 また、過去のIR活動がライブラリーにまとめられており、統合報告書/アニュアルレポートおよびサステナビリティに関する報告書をチェックできます。
06まとめ
本記事では、統合報告書の概要や作成が求められる背景、作成のポイントを解説しました。 人的資本情報の開示が義務化やESG投資やESG経営の普及により、統合報告書は持続可能な企業戦略の実現に欠かせないと言っても過言ではありません。 統合報告書の作成にあたっては、経済産業省の「価値協創ガイダンス」などのフレックスタイムを参照しつつ、自社ならではの価値創造ストーリーを展開し、環境問題のほかにも社会問題であるDXへの取組みも反映するよう検討しましょう。