コンピテンシーとは?意味から人事教育・評価に活用する方法まで詳しく解説

近年、人事評価や採用、人材育成に少しずつ取り入れられてきているコンピテンシーですが、従来の職能資格制度との違いや、特徴などをしっかりと理解している人はまだそれほど多くありません。この記事では、コンピテンシーの意味から企業での適切な活用方法まで詳しく解説します。
- 01.コンピテンシーとは?
- 02.コンピテンシーの関連語・類語
- 03.コンピテンシーの活用方法
- 04.コンピテンシーを活用するメリット
- 05.コンピテンシーを活用するデメリット
- 06.コンピテンシーを導入する手順
- 07.まとめ
01コンピテンシーとは?
コンピテンシー(competency)とは、ハイパフォーマーに共通して見られる、高い成果につながる行動特性のことです。 英語で、環境に適応した能力や技術を指す「competence」から来ており、1973年にアメリカのハーバード大学で、心理学を研究していたマクレランド教授がMcBer社と共に提唱しました。 コンピテンシーでは、具体的な行動ではなく、それにつながる「性格」「動機」「価値観」といった要素を重視します。そのため、職能資格制度で評価してきた可視化しやすい「知識」「行動」「技能」といった職務遂行能力と比較すると、可視化しにくいという特徴があるのです。 また企業においては、従業員に期待する成果が担っている役割や業務によって異なるため、コンピテンシーは、職種・役割ごとに設定されるのが一般的と言えるでしょう。

コンピテンシーが注目された背景
それでは、コンピテンシーが注目された背景には、どのようなことがあるのでしょうか。 2つご紹介します。
成果主義を導入する企業が増加したため
日本の人事制度は、年功序列型の評価制度から職能資格制度へと評価制度が変化し、少しずつ成果主義が導入されてきつつあります。しかし、職能資格制度で高い能力があると判断された場合でも、それを成果につなげられない人もいるのです。 コンピテンシーでは、成果を上げるための能力と行動の両方を評価基準として活かせるため、成果主義がより成熟してくる中、職能資格制度よりも時代の流れに即した評価基準として、採用する企業が増加してきたと言えるでしょう。
企業としての生産性を高める必要があるため
現在のビジネス環境では、新しいテクノロジーの発展が後押しし、市場の動くスピードが速くなってきているため、企業全体が生産性をそれに合わせて高めなければなりません。 そのためには、高い成果を上げる社員を増やす必要があることから、コンピテンシーが注目されているのです。
コンピテンシーを企業に導入する目的
コンピテンシーを企業に導入する目的は次の3つです。
- ・企業の業績を向上させるため
- ・従業員の生産性を向上させるため
- ・従業員の意識改革につなげるため
企業がコンピテンシーを明確にすると、従業員に会社が求める人物像が伝わりやすくなるため、行動が変化し、生産性や業績の向上につながります。
02コンピテンシーの関連語・類語
冒頭で解説したようにコンピテンシーとは、活躍する人材に共通する高い成果を出すための行動特性を指しますが、コンピテンシーと似た言葉に「コア・コンピタンス」「スキル」などの言葉が存在します。これらは意味が似ているため、混同して使われてしまいがちです。コンピテンシーと関連する語句の意味やコンピテンシーとの違いについて解説していくので、適切な言葉の意味を理解していきましょう。

コア・コンピテンシー(コアコンピタンス)との違い
コア・コンピタンスとは、G・ハメルとC・K・プラハラードの著書『コア・コンピタンス経営』(日本経済新聞出版社、1995年)によって広められた概念で、他社が真似することのできない核となる能力を指します。コンピテンシーは個人としての能力ですが、コア・コンピテンシーは組織としての能力です。そのため、コンピテンシーは個人が会社や組織にもたらす価値であり、コアコンピタンスは会社が顧客や社会に与える価値を指します。
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スキルとの違い
従業員の持つ専門的な能力や技能がスキルです。例えば、営業力や開発におけるエンジニアリングの技術力などが挙げられます。スキルは「能力や技能そのもの」を指すのに対して、コンピテンシーは「能力や技能を発揮する力」を指します。そのため、コンピテンシーはスキルを活かして成果を出すための力と考えると良いでしょう。
アビリティとの違い
アビリティとは、「できること、才能、能力、技量、力量」をあらわします。生まれつきの能力や努力して得られた能力などはアビリティに該当します。能力と聞くとスキルを思い浮かべる方もいるかと思いますが、スキルはトレーニングや経験によって培われる特定の技能を指します。アビリティが先天的なもの、スキルが後天的なものと考えると良いでしょう。コンピテンシーとの違いとしては、先ほど解説したスキル同様に、能力や技能そのものがアビリティ。アビリティを活かして成果を出すための力がコンピテンシーです。
ケイパビリティとの違い
ケイパビリティとは、才能や能力、機能、性能、手腕、可能性といった意味を持つ英単語です。ビジネスにおける「ケイパビリティ」は実行力や指導力といった組織的な能力や強みを意味します。似た言葉として、先ほど解説したコアコンピタンスが挙げられますが、ケイパビリティは売上などを出すための組織力やバリューチェーンであり、コアコンピタンスが組織やバリューチェーンを用いて顧客や社会に提供する価値です。コンピテンシーは組織にもたらす価値なので、ケイパビリティを高めるための社員・従業員が企業にもたらす価値と言えます。
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03コンピテンシーの活用方法
コンピテンシーは企業活動において、具体的にどのような場面で活用されているのでしょうか。 3つご紹介します。
人事評価
コンピテンシーの活用方法として最も一般的なのが、人事評価制度での活用です。 組織に所属する個人、またはグループごとに目標を設定・申告し、その進捗や達成度で評価を定めるMBOや、上司や同僚、部下などの複数の立場から、従業員を多面的に評価する360度評価など、近年注目されている人事評価制度は多数あります。 その中でもコンピテンシーは、評価項目に追加することで、今まで曖昧に評価していたことに明確な基準を設けることができるため、評価のブレを少なくし、従業員に納得感のある人事評価ができることが特徴的だと言えるでしょう。
採用面接
コンピテンシーは、採用面接の場で活用することで採用基準を明確にし、応募者の行動だけではなく、その根底にある思考を把握することができます。 具体的には、応募者に自分の成果を聞いたあとに、その行動の理由を掘り下げて質問することで、その人の思考を把握するのです。 把握した思考・行動を担当職務のコンピテンシーと照らし合わせることで、成果を出すための行動特性を持っているかどうかを判断できるでしょう。
人材育成
どのような思考のもと、どのような行動を取れば成果につなげられるかをテーマにした「コンピテンシー研修」を行い、ハイパフォーマーの行動特性を従業員に理解してもらうことで人材育成につなげることができます。 コンピテンシー研修時に、従業員にはどのような行動や思考を身につけたいかを目標を設定してもらい、定期的に振り返りの機会を持つとよいでしょう。
04コンピテンシーを活用するメリット
コンピテンシーを人事評価、採用面接、人材育成それぞれの場で活用するメリットについてご紹介します。
人事評価で活用する場合のメリット
コンピテンシーを人事評価で活用するメリットは次の2つです。
公平な人事評価ができる
従来の職能評価制度では、評価者が上司となるため、評価に主観や思い込みが含まれやすく、従業員全員にとって必ずしも公平なものではありませんでした。 しかし、コンピテンシーを取り入れることで、評価基準が定まるため、公平な人事評価を行うことができます。
評価者、被評価者両方に納得感がある評価となる
コンピテンシーでは、評価基準が明確なため、評価者が保身を目的に本来の評価を歪める必要はなく、被評価者もどのような行動を取れば高い評価が得られるかを理解しやすいため、双方にとって納得感のある人事評価となります。 人事評価への不満が減少するため、離職率の低下などにもつながるでしょう。
採用面接で活用する場合のメリット
コンピテンシーを採用面接で活用する場合のメリットは次の2つです。
戦略的に採用を行うことができる
コンピテンシーを採用に用いることで、企業の望む人材像に適した人が入社するようになるため、採用後のミスマッチが減り、戦略的な人材配置も行いやすくなるでしょう。 これにより、従業員が、能力をより発揮しやすい環境を整えることができます。
応募者が会社の求める行動特性を持っているか判断できる
コンピテンシーは、明確な評価基準であるため、応募者が会社の求める行動特性を持っているか判断しやすく、面接官ごとによって生じる評価のブレも軽減できます。 企業にとって効率の良い採用活動を行うことができるでしょう。
人材育成で活用する場合のメリット
コンピテンシーを人材育成で活用する場合のメリットをご紹介します。
効率的な人材育成が可能
コンピテンシーでは、実際に高い成果を上げている従業員の行動特性を基に人事評価を行うため、どのような能力開発をし、どのような行動を取れば良いかが従業員にとってわかりやすくなっています。 高い能力を持っていながら、なかなか成果を上げられない従業員の場合、コンピテンシー導入をきっかけに、成果の飛躍的な向上が期待できるのです。
05コンピテンシーを活用するデメリット
コンピテンシーを人事評価、採用面接、人材育成それぞれの場で活用するデメリットもご紹介します。
人事評価で活用する場合のデメリット
コンピテンシーを人事評価で活用するデメリットは次の2つです。
導入に手間がかかる
コンピテンシーには決まったテンプレートが存在せず、企業の中でも職種・役割別に設定する必要があるため、時間と手間がかかります。 これにより、導入へのハードルが高いことがデメリットとして挙げられます。
変化に対応しにくい
コンピテンシーは、基準が明確で企業の中でも細分化されている分、環境が変化した際に柔軟な対応をするのが難しいという特徴をもっています。 評価基準の頻繁な変更による現場の混乱は、ある程度予想しておいた方が良いでしょう。
採用面接で活用する場合のデメリット
コンピテンシーを採用面接で活用するデメリットをご紹介します。
職種ごとにコンピテンシーを作成する必要がある
採用面接では、職種ごとにコンピテンシーを作成する必要がありますが、職種によってはハイパフォーマーが存在せず、作成に手間がかかってしまう場合があります。 そのため、採用面接へのコンピテンシー導入には時間がかかる可能性が高いでしょう。
人材育成で活用する場合のデメリット
コンピテンシーを人材育成で活用するデメリットをご紹介します。 育成する側の主観が入ってしまいやすい コンピテンシーを人材育成に導入しても、従業員がその内容をきちんと理解していなければ基準は活かされず、育成に主観が入ってしまいます。 これを防止するために、コンピテンシーの認知・理解のための働きかけを積極的に行いましょう。
06コンピテンシーを導入する手順

コンピテンシーを企業で導入する手順を4つのステップに分けてご紹介します。
ハイパフォーマーへのヒアリングを行う
自社で優秀な成果を上げているハイパフォーマーを特定し、ヒアリングを行って他の従業員との差を生みだしている行動特性を見つけます。 ヒアリングは職種・役割ごとに行い、収集した行動特性を基にハイパフォーマーの思考と行動にどのような共通点があるのかを分析しましょう。
コンピテンシーモデルを作成する
ハイパフォーマーの思考と行動の共通点を基に、他の従業員のモデルとなる人物像を作成しましょう。 理想とされるモデルのタイプは、次の3種類に分けられます。
理想型モデル
企業が求める人材像に基づいて設計されたモデルで、企業理念や事業内容にマッチしたモデルとなるため、小規模の企業や、ハイパフォーマーが存在しない場合でも容易に構築できます。 理想を追求しすぎると、現実とかけ離れたモデルとなってしまうことに注意が必要です。
実在型モデル
実在するハイパフォーマーに基づいて設計されたモデルで、コンピテンシーを導入する多くの企業で採用されています。 ハイパフォーマーの思考や行動が、他の従業員で再現させるのが難しい場合は、評価モデルとして採用するかどうかを検討し直す必要があるでしょう。
ハイブリッド型モデル
理想型モデルと実在型モデルを融合させて設計されたモデルで、良い部分は活かし足りない部分は補完し合うため、最も優れたモデルと言われます。 ハイパフォーマーにとっても学ぶことの多いモデルとなるでしょう。
コンピテンシーの項目を作成する
コンピテンシーにはテンプレートがないので職種・役割ごとに評価項目を作成しますが、1から全てを作成するのが難しいため、いくつかの有名な評価項目を参考にするのが良いでしょう。 ライル・M・スペンサーとシグネ・M・スペンサーが分類した「コンピテンシー・ディクショナリー」や、公益財団法人日本生産性本部の「コンピテンシー評価モデル集」などを参考にするのがおすすめです。
コンピテンシーにレベルを設定する
コンピテンシーの項目を定めたら、項目ごとに従業員の行動内容によって5段階のレベル分けをします。
レベル1:受動行動
上司などの指示に従って業務を行う段階
レベル2:通常行動
最低限の業務を行う段階
レベル3:能動行動
明確な目的を持って能動的に業務を行う段階
レベル4:創造行動
独自の工夫やアイデアで状況を変化させる行動を取れる段階
レベル5:パラダイム転換行動
既成概念に囚われない独創的な発想から周囲の状況を変化させ多くの人から賛同される行動を取れる段階 段階を決めることで、従業員の目標を決めやすくなったり、人事評価の参考にしやすくなったりするでしょう。
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07まとめ
コンピテンシーとは、ハイパフォーマーに共通して見られる、高い成果につながる行動特性で、企業がしっかりと構築すれば人事評価や採用面接、人材育成などさまざまな場面で活用できることがわかりました。 時間や手間がかかり、変化に対応しにくい側面を持ちますが、全社員が平等でわかりやすい目標に向かうことができ、平等な評価を得られるのが大きなメリットと言えるでしょう。 ぜひこの記事を参考にして、積極的にコンピテンシーを導入してみてください。