アサーティブコミュニケーションとは? 人間関係を円滑にする伝え方を紹介

アサーティブコミュニケーションとは相手の気持ちを尊重しつつ、適切に自己主張するコミュニケーションの手法です。上手に活用することで円滑な人間関係を築くことに役立ちます。当記事ではアサーティブコミュニケーションを用い、相手を不快にさせず自分もストレスを溜めない、快適なコミュニケーションについて解説します。
01アサーティブコミュニケーションとは
アサーティブ(assertive)には「自己主張する」という意味があります。自己主張といっても一方的に自分の主張を伝えるのではなく、相手の気持ちに配慮し、かつ自分の気持ちも大切にする伝え方のことを指します。アサーティブコミュニケーションを身につけることで、自分もストレスを溜めず、相手も不愉快にさせない良好な意思疎通が可能になります。
アサーティブコミュニケーションは人間関係を円滑にする
相手に気を使って言いたいことが言えない、それによりストレスを抱えている人は多いのではないでしょうか。場合によっては蓄積した不満が爆発し、周囲との軋轢が生じてしまうこともあるかもしれません。アサーティブコミュニケーションは、性格そのものを変えるのではなく、伝え方を工夫する手法です。訓練により身につけられるので、適切に活用すれば人間関係を円滑にする効果をもたらします。
02アサーティブではないコミュニケーションのタイプ
まずは、人間関係を悪化させやすいアサーティブではないコミュニケーションについて見てみましょう。次の3つのタイプが挙げられます。いずれのコミュニケーションタイプも、根底にあるのは自己中心性であるといえます。
攻撃的タイプ
攻撃的なコミュニケーションの特徴は、自分の気持ちや意見を一方的に伝える点にあります。言いたいことをストレートに主張するので、伝えた本人はスッキリするかもしれません。しかし、思いやりが欠けているため、受けた相手は不愉快な気持ちになり怒りの感情を返すか、黙り込むといった状態になります。伝えた側は自分の主張が通ったような形にはなりますが、相手からは「あまり関わりたくない人」と認識され距離を置かれてしまうのがこのタイプです。
受け身的タイプ
受け身的なコミュニケーションの特徴は、対立を恐れ自分の意見をはっきり主張しない点にあります。相手に気を使うあまり、自分の気持ちや感情を抑え込み、不満を抱えストレスを溜めていきます。一見、相手の気持ちを尊重しているようにも見えますが、「自分が嫌われないように」「傷つかないように」という自己中心性が根底にあるのがこのタイプです。
作為的タイプ
作為的なコミュニケーションの特徴は、まわりくどい方法で自分の気持ちを伝える点にあります。攻撃的タイプのように強い自己主張はしませんが、遠回しな言い方や露骨な態度で相手に自分の気持ちを伝えようとします。直接の衝突は避けられますが、相手は嫌味に感じ「気を使わせる接しにくい人」という印象をもたれるのがこのタイプです。
03アサーティブな自己主張のポイント
ここまで、アサーティブではない自己主張のタイプを見てきました。いずれも相手を不愉快にさせたり、自分がストレスを溜めたりと健全なコミュニケーションとはいえないようです。それではアサーティブな自己主張とはどういったものか、4つのポイントを確認していきます。
主語は「私」で伝える(Iメッセージ)
相手(you)ではなく、私(I)を主語にして伝えることで、攻撃的な表現になることが避けられます。「私がOOだから、あなたにOOしてほしい」「あなたがOOしてくれると、私はOOだ」というような伝え方です。 例えば、相手の話に専門用語やカタカナ語が多く理解しにくいとき、「あなたの話は分かりにくいです」と言うと、相手を責めるニュアンスが強くなります。「私の勉強不足で分からない言葉があります、もう少し噛み砕いて説明していただけると(私は)ありがたいのですが」というように、「私」を主語にすると率直に自分の気持ちを伝えやすくなります。
正直に伝える
自分の気持ちを偽らずに正直に伝えることは、相手に対する誠実さであるといえます。たとえ意見の対立があったとしても、自分の気持ちに背いてまで賛同する必要はありません。その場合は一旦、相手の考えを受け止めたうえで、自分の考えを示すと良いでしょう。冷静に相手の話を聴き、言葉を選んで自分の意見を伝えることで相互理解が深まります。
対等な立場で伝える
アサーティブコミュニケーションでは、対等な立場で自分の意見を伝えることが重要なポイントです。上司と部下といった上下関係を理由に、意見を曲げ我慢することは、その場での衝突は避けられるかもしれませんが、問題の根本的な解決ができないため誠実であるとはいえません。また、上下関係を利用して、強い立場の者が意見を押し通すといったこともあってはなりません。
すべては自己責任
アサーティブコミュニケーションにおいては、すべてのコミュニケーションの結果は自己責任と考えることが必要です。相手の非を責める気持ちがあると、自らを省みることをしなくなります。コミュニケーションがうまくいかない場合、多少なりとも自分に責任があると考えることで、事態を好転させようとする工夫が生まれます。
04アサーティブコミュニケーションのメリット
アサーティブコミュニケーションは、日常の人間関係だけでなく、職場の人間関係にもメリットをもたらすとして重要視されています。相手に配慮しながら自分の考えを率直に伝えられる状態は、コミュニケーションの活性化とチームワークの強化が図られ、生産性の向上につながるメリットがあります。
離職の防止
離職の原因としてもっとも多いのは、職場の人間関係の悪化であるといわれています。アサーティブによる良質なコミュニケーションが浸透している職場では、良好な人間関係が保たれていて、従業員の離職は少ないのではないでしょうか。こうした職場環境はストレスが溜まりにくく、従業員のメンタルヘルスも良い状態がキープできているといえます。
ハラスメントの防止
コミュニケーションの質が向上し、攻撃的で嫌味な自己主張がなくなることで、無用なハラスメントが発生しなくなります。アサーティブコミュニケーションが浸透した職場においては、お互いが相手の気持ちに配慮するためハラスメントが起こりにくい好循環が生まれているのではないでしょうか。
コミュニケーションロスを防止できる
コミュニケーションロスとは、お互いの意思疎通が不足していることに起因する、仕事上のミスや損失、トラブルを意味します。アサーティブコミュニケーションでは相互の意見交換が円滑に行われるため、職場内の情報共有が活発になり、コミュニケーションロスを防止する効果が期待されるのです。
率直に自分の意見を主張できるようになる
職場内やチーム内で意見交換を行う場面において、素晴らしいアイデアが浮かんでいても、アサーティブコミュニケーションが実現できていなければ、そのアイデアを伝えることが難しくなります。アサーティブコミュニケーションを身につけることによって、受身になることなく自分の意見やアイデアを全体へ的確に伝えられるため、議論の活発化を期待できます。
生産性の向上が見込まれる
アサーティブコミュニケーションでは、相手に対して明確かつ的確に意見を伝えるため、仕事に関する情報共有をより詳しくスムーズに行えるようになります。結果として、相互で仕事量や分担の調整が正しくできるようになり、業務効率が向上すると考えられるのです。業務効率が上がれば、全体でこなせる仕事量が増え、最終的には職場や企業の生産性の向上につながると期待できます。
良好な精神状態が保てるようになる
アサーティブコミュニケーションができないままでは、自分の意見を伝えられずに相手の意見を受け入れる一方で、過度のストレスが溜まってしまうおそれがあります。アサーティブコミュニケーションができない従業員は、仕事や悩みを抱え込んでしまい、精神的に追いつめられてしまうのです。上記のような人間は、アサーティブコミュニケーションを身につけることによって、率直に自分の意見を伝えられるようになり、精神状態を良好に保てると期待できます。
働きやすい職場環境を作れる
アサーティブコミュニケーションが職場内で行われると、従業員はそれぞれの価値観や考え方を相互に尊重できるようになり、円滑なやり取りと良好な人間関係が実現されます。また、アサーティブコミュニケーションの恩恵として、ハラスメントの防止が期待できることも、働きやすい職場環境の形成に寄与するのです。
05アサーティブコミュニケーション4つの柱とは
NPO法人アサーティブジャパンの代表理事・森田汐生氏は、アサーティブコミュニケーションを構成する4つの柱について紹介しています。ここでは、森田氏が提唱しているアサーティブコミュニケーションの4つの柱について解説します。
誠実
アサーティブコミュニケーションを行ううえでは、自分の心にも相手の心にも誠実であることが大切です。どちらか一方の心にだけ誠実では、一方的な主張をしてしまったり、相手の主張を受け入れるだけになってしまったりと、アサーティブコミュニケーションは実現できません。
率直
アサーティブコミュニケーションにおいては、自分の主張を行う際には主語を「私」にして、率直に意見を伝えることが大切です。「周りはこう思っている」や「他人がこう言っていた」などと第三者を主語にしてしまっては、遠回りな表現になり、主張が正しく伝わらないおそれがあります。
対等
相手の立場が自分からみて上か下かに左右されることなく、相手と対等な関係で意見交換を行うことがアサーティブコミュニケーションです。相手に対して威圧的な態度や控え目な態度を取るのではなく、あくまでも対等な立場という前提の下で意見交換を行うことが大切です。
自己責任
アサーティブコミュニケーションにおいては、自分の行動がもたらした結果に責任を持つということが大切です。自分が主張しないことや攻撃的なことを相手の責任にするのではなく、自分にも責任があると考えることで、状況を好転させようと行動を起こしていくことが期待されます。
06アサーティブコミュニケーションのトレーニング方法とは
アサーティブコミュニケーションは前項で紹介したとおり、ビジネスの場面においてさまざまなメリットをもたらし企業の生産性を向上させると期待できます。アサーティブコミュニケーションのメリットを最大限受けるためには、全従業員が正しくトレーニングを行い、アサーティブコミュニケーションを体得することが望ましいです。ここでは、アサーティブコミュニケーションを強化するためのトレーニング方法について紹介します。
DESC法
DESC法とは、Describe(描写)、Express(説明する)、Suggest(提案)、Choose(選択)の頭文字を取った名称のトレーニング方法です。相手を傷つけることなく自分の意見を相手に納得してもらうトレーニングができます。
Describe(描写)
Describe(描写)では、客観的な事実のみを具体的に頭の中で思い描きます。このとき、自分の感情や思い込み、推測など主観が入らないように注意し、あくまでも客観的な事実のみを入れてください。主観が入ってしまうと、正しい情報を相手には伝えきれない可能性があります。
Express(説明する)
Express(説明する)では、前述のように描写した客観的事実に対する自分の感情や意見を相手に表現します。このとき、感情的にならずに冷静に相手に感情や意見を伝えることが大切です。感情を押し付けすぎることで、事実と論点がずれてしまったり、攻撃的になって、相手が怯んでしまいます。また、Expressは、Explain(表現)やEmpathize(共感する)、Expose(見せる)と呼ぶ場合もあります。
Suggest(提案する)
Suggest(提案)では、相手に伝えた事実の解決方法や妥協案を相手に提案します。相手に一方的に意見を押し付けるのではなく、あくまでも提案と依頼という形を取ることが大切です。一方的にならないためにもここでは、承諾して欲しいこと、対応してもらいたいことを具体的に伝えていくようにしましょう。また、Specify(具体的に挙げる)と表す場合もありますが、実施内容は同じと認識しましょう。
Choose(選択)
Choose(選択)では提案した事に対する相手の意見が「Yes」か「No」それぞれの場合に、自分が取るべき行動を選択します。Consequences(結果を伝える)と表すこともあります。注意したいのが、提案は全て通るわけではないということです。提案が通らなかった場合はより良い提案ができるように改めて、Suggestしましょう。
▼DESC法について詳しく知りたい方はこちらから▼
【関連記事】DESC法とは?4つのステップと注意点について解説する
アイメッセージ
相手に対して意見を伝えるとき、自分を主語にする伝え方のアイメッセージを取ることが大切です。反対に、相手が主語のユーメッセージでは、相手が強い命令口調や攻撃性を感じてしまうおそれがあるためです。 アサーティブコミュニケーションを実現するためには、主語は自分にして、「自分はこう思う」という柔らかい口調で意見を伝えることが欠かせません。結果として、相手との人間関係を悪化させず、円滑にコミュニケーションを行えると期待できるのです。
07アサーティブコミュニケーション研修がもたらす効果
アサーティブコミュニケーションは、意識して訓練すれば身につくものです。そのためには、まず従業員一人ひとりにアサーティブコミュニケーションの存在を知ってもらうことが重要です。すぐに習得できないかもしれませんが、研修等で自分のコミュニケーションのタイプを理解し、改善を意識してもらうことでさまざまな効果をもたらします。
業務指導の効果が上がる
上司と部下、育成者と被育成者の間でアサーティブコミュニケーションが浸透すると業務指導の効果が上がります。できていないこと、間違っていることを指摘する際に、頭ごなしに否定することが避けられ、問題点のみを上手に伝え改善を促せます。指導される側も自分の考えや思いを率直に伝えることができれば、ストレスなく素直に指導に耳を傾けるでしょう。
人間関係の悪化を防げる
職場において利害の対立はつきものです。ときには相手の提案や要望を断らなくてはならないケースもあります。そういったときにアサーティブコミュニケーションを活用すると、角が立ちにくく人間関係の悪化を防げます。要望を断る際にもまず、相手の気持ちを尊重したうえで、否定的な表現を避け代替案を提示すると話が前向きに進みます。
コミュニケーションの質が向上する
職場全体でアサーティブを意識することで、コミュニケーションの質が向上し円滑な意思疎通が可能となります。例えば、仕事で困っていることがあれば率直に周囲に伝えて、助けを求めるというように、自分の要望をありのままに伝えられるようになります。コミュニケーションの質が向上することで、「言うべきことを言いにくい」といった業務の停滞を防ぐことにもつながるのです。
「アサーティブコミュニケーション研修パッケージ」
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NPO法人アサーティブジャパン 代表理事
岡山県生まれ。一橋大学社会学部卒業。学生時代、イギリス滞在中にアサーティブに出会う。社会福祉士の資格を取得後、渡英先でソーシャルワーカーとして勤務した。アサーティブトレーナーの資格を取得して帰国後、2004年にNPO法人アサーティブジャパンを設立。多様な個人がお互いに誠実で対等な人間関係を築くことを目的に「アサーティブ」を伝える仕事を続けて20年、全国のトレーナーと共に、年間2万人を超える方々にアサーティブの研修・講演をしています。対話を通して理解し合うことを願って、全国各地を走り回っています。好きなことは、双子の子どもと家族の時間、それから言葉を学ぶこと。TOEIC、960。現在はスペイン語に挑戦中。
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コラムニスト / コミュニケーションコンサルタント
1984年、早稲田大学法学部卒。 学生時代より『早稲田文学』学生編集委員を務め、 NHK「クイズ面白ゼミナール」では鈴木健二氏に師事し、 クイズ制作で活躍。 博報堂に入社後、CMプランナー、クリエイティブプロデューサーとして、 数々のCMを手がける。 政治、行政、大手企業などのスピーチライターとしても活動し、 ズバ抜けた文才に、多くのエグゼクティブからの指名が殺到している。 また、明治大学をはじめ、多くの大学の講義では「就職後まで役に立つ」「一生ものの考える力が身につく」と学生からも支持を集める。 「朝日小学生新聞」ではコラム“大勢の中のあなたへ”を寄稿。 また、行政から小学校まで講演の依頼が急増している。 日本語の素晴らしさ、コミュニケーションの重要性を様々な角度から アプローチし、広い世代に伝えている。 著書に『5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』『「質問力」って、じつは仕事を有利に進める最強のスキルなんです。』(大和出版)、『大勢の中のあなたへ』『ひきたよしあきの親塾』(ともに朝日学生新聞社)、『短くても伝わる文章のコツ』『口下手のままでも伝わるプロの話し方』(かんき出版)など、全11冊。
08相手も自分も大切にするコミュニケーション
これまで見てきたように、アサーティブコミュニケーションは、相手も自分も大切にするコミュニケーションです。一方的に自分の意見を押し通したり、自分の意見を飲み込んで我慢したりしないため、お互いがストレスを感じることなく意思疎通ができます。自己責任に基づいた、誠実で率直なコミニケーションであるといえます。
Iメッセージで伝える習慣をつける
アサーティブコミュニケーションを浸透させるには、まず「私」を主語にした「Iメッセージ」で伝える習慣を意識してもらうことから始めてみてはどうでしょうか。要望や主張を伝えるとき、受けた側は責められていると感じることがあります。「Iメッセージ」で伝えることで、少なくともその点は緩和されます。円滑な人間関係を育む第一歩となるのではないでしょうか。
アサーティブコミュニケーションが浸透した職場とは
アサーティブコミュニケーションが浸透した職場は、心理的安全性が確保されている状態であるといえます。相手を傷つけず、また自分も傷つけられることなく、率直に意見を交換できる環境です。立場や年齢といった上下関係に関わらず、お互いに対等な立場でコミュニケーションがとれるようになると、業務上のやり取りがスムーズで、意見交換も活発になり風通しの良い職場となるでしょう。
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・研修への活用方法
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09まとめ
コミュニケーションは、普段は無意識に行なっていることが多く、気づきを得ることが難しいものです。自分ではうまくコミュニケーションをとっているつもりでも相手はストレスを感じていることもあるかもしれません。アサーティブコミュニケーションを研修等で知ってもらうことは、自分のコミュニケーションの問題点に気づく良いきっかけとなります。健全な職場環境構築のために導入を検討してみてはどうでしょうか。