公開日:2022/01/26
更新日:2024/08/25

計画的偶発性理論とは?注目される背景や実践のポイントを解説

計画的偶発性理論とは?注目される背景や実践のポイントを解説 | オンライン研修・人材育成 - Schoo(スクー)法人・企業向けサービス

計画的偶発性理論とは、キャリアのほとんどは偶然の事象によって決まるというキャリア形成理論です。本記事では、計画的偶発性理論の特徴や注目を集める背景を解説しています。 また、計画的偶発性理論を従業員に実践してもらうためのポイントも紹介しますので、教育担当者はぜひ参考にしてください。

 

01計画的偶発性理論とは

計画的偶発性理論は、1999年に心理学者のジョン・D・クランボルツが発表したキャリア形成理論です。クランボルツ教授の調査では、ビジネスに成功した人のうち、偶然の出来事によってキャリアのターニングポイントを迎えた割合が8割にも上ることがわかりました。 この調査結果を受けて、クランボルツ教授は「目的意識に固執するのではなく、目の前の出来事に潜むチャンスを掴んでいくことが重要である」という計画的偶発性理論を提唱しました。

計画的偶発性理論の3つの骨子

計画的偶発性理論は、2023年時点において、約20年ほどの歴史しかない新しいキャリア形成理論です。この理論は、以下の3つの骨子から構成されます。

  • 1.キャリアの8割は偶然起こる事象が左右する
  • 2.偶然の事象は自分の行動や努力でキャリア形成に役立てられる
  • 3.環境を変化させるなどして意図的に偶然の事象を引き寄せる

計画的偶発性理論においては、何をしたいかという目的意識よりも偶然の出来事の方がキャリアに大きな影響を与えるとしています。また、偶然の出来事に出会うべく意図的に行動したり、出会った際にはチャンスを掴んでステップアップにつなげたりという努力が重要です。

キャリアアンカー理論との違い

キャリア形成理論のなかでも有名なのがキャリアアンカー理論ですが、計画的偶発性理論とはどのような点で異なるのでしょうか。キャリアアンカー理論は、組織心理学者のエドガー・シャインが1978年に提唱しました。 キャリアアンカーとは、キャリアを選ぶ際の判断基準となる価値観や考え方です。 この理論では、自分の理想や適性に応じたキャリアアンカーを基に、生涯キャリアを積み重ねていくべきとされています。 計画的偶発性理論では、目的意識よりも偶然の事象を重視しますが、キャリアアンカー理論では個人の価値観や目的意識を重んじる点が異なります。

▼キャリアアンカーについて詳しく知りたい方はこちらから▼
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計画的偶発性理論のケーススタディ

ここでは、計画的偶発性理論を提唱したクランボルツ教授自身のケースを紹介します。 クランボルツ教授は大学時代テニスに熱中していてテニス部に所属していましたが、専攻に悩んでテニス部顧問に相談を持ちかけました。 その顧問が心理学の教授であったことがきっかけで、クランボルツ教授は専攻を心理学にすると決めます。クランボルツ教授が心理学者の道に進んだのは、顧問の教授との偶然の出会いがあったからであり、これは計画的偶発性理論の好例と言えます。

 

02計画的偶発性理論が注目される背景

計画的偶発性理論は比較的新しいキャリア形成理論ですが、ビジネスシーンにおいては注目が高まりつつあります。その背景には、IT技術の進化や社会情勢の変化、終身雇用の崩壊といった現代における大きな変革が潜んでいます。

IT技術の大幅な進化

インターネットやIoTなどのIT技術は昨今目まぐるしい変化を遂げていて、それに応じてマーケットや消費者のニーズは日々変動しています。IT技術の大幅な進化には既存サービスの廃退といった予想し得ないリスクが潜む一方で、新規サービスの成功という思いがけないチャンスに遭遇することもあります。 このような状況においては、従来の価値観や考え方に捉われるのではなく、目の前の事象に潜むチャンスを掴んでいく姿勢が重要です。

社会情勢の急激な変化

価値観の多様化や経済のグローバル化によって、市場を取り巻く環境は刻一刻と変化しています。それに伴い、業界の先行きを予想した事業戦略の策定は困難を極めています。 こういった社会情勢においては、企業としてのビジョンを思い描くことはもちろん欠かせませんが、市場の変化によっては多少の軌道修正や新規事業への挑戦も時に必要です。

終身雇用の崩壊

従来の終身雇用は時代とともに崩壊が進んでいて、昨今では自分のキャリアを企業任せにできない状況になりつつあります。 このような状況下では、ある日突然キャリアを大きく変更する事態に陥る可能性があり、こうした変化を受け入れられるかが重要になります。 計画的偶発性理論を学んでいればこうした事態を受け入れやすくなるとして、従業員の教育に取り入れる企業は増えています。

VUCA時代の到来

計画的偶発性理論が注目される背景として、VUCA時代(不確実性、不安定性、複雑性、曖昧性の時代)が到来していることが挙げられます。VUCAは、ビジネスや組織の環境がこれらの特性によって特徴づけられることを指し、これに対処するための新しいアプローチが求められるようになりました。不確実性が高まり、未来の予測が難しくなる中で、伝統的な計画的アプローチが限定されてきました。計画が立てられても、急激な変化や予測不可能な出来事によって計画が狂ってしまうことが増えています。こうした状況下で、計画的偶発性理論が注目されています。

▼VUCAについて詳しく知りたい方はこちらから▼
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03計画的偶発性理論に必要な5つのスキル

計画的偶発性理論を実践するためには、5つのスキルを身に付けておく必要があります。 偶然の事象に出会っても、自分で行動を起こさなければチャンスを逃してしまいます。 ここでは、偶然の出来事をチャンスに変えてキャリアにつなげるための5つのスキルを詳しく紹介します。

好奇心

日ごろ興味関心を持っている分野だけではなく、未知の領域についても学ぼうとする好奇心が重要です。好奇心があれば新しいことを学ぶ姿勢が自然と形成されて、新たな領域に飛び込むチャンスに遭遇した時に挑戦する勇気が湧いてくるはずです。 好奇心を身に付けるためには、ニュースをチェックしたり、異業種交流会で他の分野の人の話を聞いたりといった行動が効果的です。

持続性

持続性とは、失敗を経験しても諦めずに努力を継続するスキルです。新しいことに取り組むなかでは、上手くいかずに挫折しそうになる場合もあります。そこで苦手意識を持ってしまったり、困難を避けようとしてしまうと、失敗するリスクと同時に成功する可能性もなくなってしまいます。 日々の業務においては、失敗の原因を探って対策を立てて、PDCAサイクルを継続的に回していく姿勢が重要です。

柔軟性

これまでの人生や仕事経験を通して、物事に対する考え方や理想が人それぞれ形成されています。こうした価値観はキャリア選択の方針になる一方で、こだわるあまりに新しいチャンスを逃してしまうおそれもあります。 自分自身の価値観に縛られるず柔軟に物事を捉え、従来の考え方を捨てて未知の領域に挑戦することも時に必要です。

楽観主義

新しいことへの挑戦には失敗や不安がつきものです。しかし、失敗を恐れすぎると不安ばかりが募って行動できなくなるおそれもあります。そのため、多少の失敗でもくよくよせずに「何が起きてもきっと上手くいく」と信じて突き進む楽観主義が欠かせません。失敗は成功への糧だと前向きに捉えて、困難に立ち向かっていく気持ちが重要です。

<楽観主義についてのSchooおすすめ授業>

計画的偶発性理論を高めるためには「楽観主義」が必要なスキルとして挙げられますが、新しい挑戦をする際はポジティブに物事を捉えられず、不安になってしまうことがあるかと思います。
新しい挑戦を成功に導くためにはただ前向きに捉えるポジティブシンキングではなく、ポジネガ両面を見た上で建設的な道を選択する「合理的楽観主義」が重要です。この授業では、そんな「合理的楽観主義」について、考えていきます。

「Happiness is choice 合理的楽観主義のススメ」

Happiness is choice 合理的楽観主義のススメ

  • Delivering Happiness Japan チーフ

    2002年米国ニューヨーク州コロンビア大学大学院にて組織心理学修士取得、日本GEにて人事マネジャーを経験。2008年ユニリーバ入社後、R&D、マーケティング、営業部門のHRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て2013年4月取締役人事本部長就任。その後2014年4月取締役人事総務本部長就任、現在に至る。
  • Delivering Happiness認定コーチサルタント

    株式会社 環 取締役COO(SBテクノロジーグループ)。日々の「仕事」をもっと有意義で素晴らしいものに - Make Your Work More Wonderful- 。Techonology × 人 の組み合わせで、ビジネスコミュニケーションを通じて、仕事を楽しく、豊かなものにすることを志し、企業向けITツールの利活用推進教育・コンサルティングに従事。https://www.kan.co.jp/
  • Delivering Happiness認定コーチサルタント

    2009年株式会社マクロミルに新卒入社。広報・法人営業を経験した後、2014年株式会社アカツキに入社。マーケティング・採用・広報・IR・社内コミュニケーション・エンゲージメント・理念浸透・組織文化醸成業務等に従事。2018年より法人格としてのらしさを軸に、人事広報部Heartful領域のリーダーを担う。2018年デリバリングハピネスブートキャンプに参加後、2019年Deliveling Happiness公式トレーナー認定プログラムに参画。
  • Delivering Happiness認定コーチサルタント

    JR東日本に総合職として入社、社員教育の企画・講師、財務、営業等の業務を担当。その後、大学生のキャリア教育・就職支援、JR東日本グループ約70社の人事労務コンサルティング業務に従事。現在は、中小・中堅~大企業まで様々な業種を対象に、労務相談・就業規則等のサポートのほか、働き方改革、テレワーク導入支援、ワーク・ライフ・バランス推進やハラスメント対策のコンサルティングを行う。
  • Delivering Happiness認定コーチサルタント

    2000年株式会社ミキハウスに新卒入社、経営企画、マーケティングに従事をする。2003年にジョンソンエンドジョンソン株式会社メディカルカンパニーに入社。事業部運営にも携わり、事業のV字回復を実現した。現在は、人材教育・研修部門長として、個人の強みを発揮する組織開発、well-being手法を用いた人財育成を実践し、多数の管理職、リーダーを輩出した。
  • Delivering Happiness認定コーチサルタント

    2008年中小企業支援のコンサルティングファームに新卒入社。経営コンサルタントとしてフランチャイズビジネスの業績改善、新規事業の立ち上げに従事。2015年日本の結婚式カルチャーを変革するべく株式会社CRAZYに参画。CRAZY WEDDINGプロデューサーとして約100組のオーダーメイドウェディングを担当。 2018年企業の周年や社名変更等の法人の節目を祝うCRAZY CELEBRATION AGENCYを創業。

冒険心

未知の領域に踏み込むとき、ほとんどの人は失敗したときのリスクに躊躇してしまうものです。しかし、新しいことは不確実性が高く多少のリスクはつきものであるため、成功が不確実であってもまずは挑戦してみるという冒険心が必要になります。 冒険心を育むためには、上司が多少の失敗には目を瞑るなど、新しいことに挑戦する従業員への後押しが効果的です。

 

04計画的偶発性理論を実践してもらう取り組み

計画的偶発性理論を従業員に実践してもらうためには、上司や教育担当者によるフォローが欠かせません。それでは、具体的にどのような取り組みによって計画的偶発性理論を実践してもらえるのでしょうか、詳しく解説します。

偶然の出来事がもたらす影響力を自覚させる

まずは、計画的偶発性理論の考え方や重要性をしっかり理解してもらいます。効果的な方法としては、従業員本人の人生に影響を与えた偶然の出来事を思い出してもらう取り組みが挙げられます。 「現在の企業に入社したきっかけ」「そのきっかけにつながった自分自身の行動」といった質問を従業員に投げかけて、偶然の出来事がもたらす影響力を自覚させてください。身近な経験から気付きを得られれば、計画的偶発性理論への理解度は高まるはずです。

将来のビジョンをシンプルに表現させる

計画的偶発性理論は、目的意識をまったく持たないのではなく、漠然としたビジョンの下で偶然のチャンスを掴んでいくことを提唱しています。ここで重要なのが、特定の分野に関わる職業や決まった業務など、限定的な目標ではないという点です。 そのため、従業員には「社会のためになる仕事」「信頼されるビジネスパーソン」といったシンプルな言葉でビジョンを表現させてください。

<キャリアビジョンについてのSchooおすすめ授業>

計画的偶発性理論を自分自身に実装するためには、自分自身のキャリアに対し 主体性をもって取り組む意識と行動が求められます。
この授業では、企業や組織からの求めに適応するためだけでなく、キャリアに対して、主体性を持ち、自分自身にインストールさせるための実践方法について学んでいきます。

「キャリアのコンパスを持とう」

キャリアのコンパスを持とう

  • ㈱LEBEN CAREER CEO

    大学卒業後、小売流通業界にて店舗運営責任者として従事。 前社退職後、東南アジアにて半年間のバックパッカー生活。 帰国後、製薬業界にて、人事戦略室、社長秘書室、人事総務業務に従事。 2014年に人材開発事業「LEBEN CAREER」を創業し、法人設立後は代表取締役に就任。 同社では「コーチングを受けたい・学びたい」というビジネスパーソン向けにコーチングサービスの『LCPコーチング』及び、コーチングスクール『LCPコーチングアカデミー』を運営。

行動を起こせない理由を考えてもらう

目の前にチャンスがあっても、変化や失敗を恐れて行動を起こせない従業員もいます。このような従業員に対しては、行動を起こせない理由を考えてもらうようにしてください。具体例としては、「過去に失敗や挫折を味わった」「失敗によるリスクが不安」といった理由が考えられます。 失敗から学んだことを一緒に考えて、失敗は決して無駄ではないと従業員を後押しする取り組みが重要です。

<振り返りについてのSchooおすすめ授業>

行動を起こせない理由の1つとして、「過去の失敗」が挙げられますが、失敗には振り返りと内省が重要です。
あらゆるスキル習得の前提となる力として注目されている内省の習慣ですが、日々の仕事が忙しくて、どうしても後回しになってしまうことも多いかと思います。
この授業では、そんな悩みを抱える方向けに手軽にできる内省の方法について解説していきます。

「手軽にできる振り返り・内省の習慣」

手軽にできる振り返り・内省の習慣

  • ZaPASS JAPAN株式会社 代表取締役

    株式会社イルグルムへ新卒入社。2017年AnyMind Group 香港法人の立ち上げ→グローバル全体の社長室 香港移住・拠点立ち上げから2年で35名の組織へと成長。その後香港・台湾・フィリピンの日系リージョナルヘッドとして組織を牽引。 帰国後はグループ全体の社長室でインフルエンサーD2Cブランド、ものづくりプラットフォーム等の3つの新規事業責任者・M&A・プロダクトマーケ・広報・採用戦略等を兼務。 2019年 ZaPASS JAPAN株式会社創業、代表取締役CEOに就任。

チャンスにつながる小さな行動を促す

計画的偶発性理論では、ただ偶然を待つのではなくて自分から何らかのアプローチをすることが望ましいとされます。従業員に対しては、異業種の人の話を聞く機会を用意したり、インターネットで情報を調べてもらったりなどの行動を促すようにしてください。小さな行動でも、本人の意識を変革したり偶然のチャンスを掴んだりといった効果を期待できます。

ジョブローテーションの採用

ジョブローテーションの導入は、計画的偶発性理論を実践する上で効果的な取り組みです。異なる業務や部署での経験を通じて、社員は新たなスキルや視点を獲得し、偶然の機会を捉える能力を高めることができます。これにより、組織全体の柔軟性や対応力も向上し、革新的なアイデアが生まれる土壌が整います。

変化や失敗に対して寛容になる

変化や失敗に対して寛容であることは、偶発的な成功を生むための重要な要素です。計画的偶発性理論の下では、失敗を恐れることなく挑戦し続ける文化が必要です。失敗から学び、新たな方法を試すことで、社員は成長し、組織もまた進化します。このような文化を醸成することで、偶然の成果を最大化することが可能になります。


 

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05まとめ

刻一刻と変動する昨今の社会情勢においては、従来の価値観や目的意識に固執するあまりに、チャンスを逃して変化に適応できないおそれがあります。 偶然の出来事をチャンスにつなげてキャリアを形成するためには、日々の業務における計画的偶発性理論の実践が効果的です。 まずは従業員に計画的偶発性理論を理解させて、未知の領域への挑戦を後押しすることで計画的偶発性理論を実践してもらいましょう。

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この記事を書いた人
Schoo編集部
Editor
Schooの「世の中から卒業をなくす」というミッションのもと活動。人事担当や人材育成担当の方にとって必要な情報を、わかりやすくご提供することを心がけ記事執筆・編集を行っている。研修ノウハウだけでなく、人的資本経営やDXなど幅広いテーマを取り扱う。
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