計画的偶発性理論とは?注目される背景や実践のポイントを解説

計画的偶発性理論とは、キャリアのほとんどは偶然の事象によって決まるというキャリア形成理論です。本記事では、計画的偶発性理論の特徴や注目を集める背景を解説しています。 また、計画的偶発性理論を従業員に実践してもらうためのポイントも紹介しますので、教育担当者はぜひ参考にしてください。
- 01.計画的偶発性理論とは
- 02.新しいキャリア形成理論
- 03.計画的偶発性理論が注目される背景
- 04.計画的偶発性理論に必要な5つのスキル
- 05.計画的偶発性理論を実装してもらうポイント
- 06.まとめ
01計画的偶発性理論とは
計画的偶発性理論は、1999年に心理学者のジョン・D・クランボルツが発表したキャリア形成理論です。クランボルツ教授の調査では、ビジネスに成功した人のうち、偶然の出来事によってキャリアのターニングポイントを迎えた割合が8割にも上ることがわかりました。 この調査結果を受けて、クランボルツ教授は「目的意識に固執するのではなく、目の前の出来事に潜むチャンスを掴んでいくことが重要である」という計画的偶発性理論を提唱しました。
02新しいキャリア形成理論
計画的偶発性理論は、2021年時点において、まだ20年ほどの歴史しかない新しいキャリア形成理論です。この理論は、以下の3つの骨子から構成されます。
- 1.キャリアの8割は偶然起こる事象が左右する
- 2.偶然の事象は自分の行動や努力でキャリア形成に役立てられる
- 3.環境を変化させるなどして意図的に偶然の事象を引き寄せる
計画的偶発性理論においては、何をしたいかという目的意識よりも偶然の出来事の方がキャリアに大きな影響を与えるとしています。また、偶然の出来事に出会うべく意図的に行動したり、出会った際にはチャンスを掴んでステップアップにつなげたりという努力が重要です。
キャリアアンカー理論との違い
キャリア形成理論のなかでも有名なのがキャリアアンカー理論ですが、計画的偶発性理論とはどのような点で異なるのでしょうか。キャリアアンカー理論は、組織心理学者のエドガー・シャインが1978年に提唱しました。 キャリアアンカーとは、キャリアを選ぶ際の判断基準となる価値観や考え方です。 この理論では、自分の理想や適性に応じたキャリアアンカーを基に、生涯キャリアを積み重ねていくべきとされています。 計画的偶発性理論では、目的意識よりも偶然の事象を重視しますが、キャリアアンカー理論では個人の価値観や目的意識を重んじる点が異なります。
計画的偶発性理論のケーススタディ
ここでは、計画的偶発性理論を提唱したクランボルツ教授自身のケースを紹介します。 クランボルツ教授は大学時代テニスに熱中していてテニス部に所属していましたが、専攻に悩んでテニス部顧問に相談を持ちかけました。 その顧問が心理学の教授であったことがきっかけで、クランボルツ教授は専攻を心理学にすると決めます。クランボルツ教授が心理学者の道に進んだのは、顧問の教授との偶然の出会いがあったからであり、これは計画的偶発性理論の好例と言えます。
03計画的偶発性理論が注目される背景
計画的偶発性理論は比較的新しいキャリア形成理論ですが、ビジネスシーンにおいては注目が高まりつつあります。その背景には、IT技術の進化や社会情勢の変化、終身雇用の崩壊といった現代における大きな変革が潜んでいます。
IT技術の大幅な進化
インターネットやIoTなどのIT技術は昨今目まぐるしい変化を遂げていて、それに応じてマーケットや消費者のニーズは日々変動しています。IT技術の大幅な進化には既存サービスの廃退といった予想し得ないリスクが潜む一方で、新規サービスの成功という思いがけないチャンスに遭遇することもあります。 このような状況においては、従来の価値観や考え方に捉われるのではなく、目の前の事象に潜むチャンスを掴んでいく姿勢が重要です。
社会情勢の急激な変化
価値観の多様化や経済のグローバル化によって、市場を取り巻く環境は刻一刻と変化しています。それに伴い、業界の先行きを予想した事業戦略の策定は困難を極めています。 こういった社会情勢においては、企業としてのビジョンを思い描くことはもちろん欠かせませんが、市場の変化によっては多少の軌道修正や新規事業への挑戦も時に必要です。
終身雇用の崩壊
従来の終身雇用は時代とともに崩壊が進んでいて、昨今では自分のキャリアを企業任せにできない状況になりつつあります。 このような状況下では、ある日突然キャリアを大きく変更する事態に陥る可能性があり、こうした変化を受け入れられるかが重要になります。 計画的偶発性理論を学んでいればこうした事態を受け入れやすくなるとして、従業員の教育に取り入れる企業は増えています。
04計画的偶発性理論に必要な5つのスキル
計画的偶発性理論を実践するためには、5つのスキルを身に付けておく必要があります。 偶然の事象に出会っても、自分で行動を起こさなければチャンスを逃してしまいます。 ここでは、偶然の出来事をチャンスに変えてキャリアにつなげるための5つのスキルを詳しく紹介します。
好奇心
日ごろ興味関心を持っている分野だけではなく、未知の領域についても学ぼうとする好奇心が重要です。好奇心があれば新しいことを学ぶ姿勢が自然と形成されて、新たな領域に飛び込むチャンスに遭遇した時に挑戦する勇気が湧いてくるはずです。 好奇心を身に付けるためには、ニュースをチェックしたり、異業種交流会で他の分野の人の話を聞いたりといった行動が効果的です。
持続性
持続性とは、失敗を経験してもそこで諦めずに努力を継続するスキルです。新しいことに取り組むなかでは、上手くいかずに挫折しそうになる場合もあります。そこで苦手意識を持ってしまったり、困難を避けようとしてしまうと、失敗するリスクと同時に成功する可能性もなくなってしまいます。 日々の業務においては、失敗の原因を探って対策を立てて、PDCAサイクルを継続的に回していく姿勢が重要です。
柔軟性
これまでの人生や仕事経験を通して、物事に対する考え方や理想が人それぞれ形成されています。こうした価値観はキャリア選択の方針になる一方で、こだわるあまりに新しいチャンスを逃してしまうおそれもあります。 自分自身の価値観に縛られるず柔軟に物事を捉え、従来の考え方を捨てて未知の領域に挑戦することも時に必要です。
楽観主義
新しいことへの挑戦には失敗や不安がつきものです。しかし、失敗を恐れすぎると不安ばかりが募って行動できなくなるおそれもあります。そのため、多少の失敗でもくよくよせずに「何が起きてもきっと上手くいく」と信じて突き進む楽観主義が欠かせません。失敗は成功への糧だと前向きに捉えて、困難に立ち向かっていく気持ちが重要です。
冒険心
未知の領域に踏み込むとき、ほとんどの人は失敗したときのリスクに躊躇してしまうものです。しかし、新しいことは不確実性が高く多少のリスクはつきものであるため、成功が不確実であってもまずは挑戦してみるという冒険心が必要になります。 冒険心を育むためには、上司が多少の失敗には目を瞑るなど、新しいことに挑戦する従業員への後押しが効果的です。
05計画的偶発性理論を実装してもらうポイント
計画的偶発性理論を従業員に実践してもらうためには、上司や教育担当者によるフォローが欠かせません。それでは、具体的にどのような取り組みによって計画的偶発性理論を実践してもらえるのでしょうか、詳しく解説します。
偶然の出来事がもたらす影響力を自覚させる
まずは、計画的偶発性理論の考え方や重要性をしっかり理解してもらいます。効果的な方法としては、従業員本人の人生に影響を与えた偶然の出来事を思い出してもらう取り組みが挙げられます。 「現在の企業に入社したきっかけ」「そのきっかけにつながった自分自身の行動」といった質問を従業員に投げかけて、偶然の出来事がもたらす影響力を自覚させてください。身近な経験による気付きを得られれば、計画的偶発性理論への理解度は高まるはずです。
将来のビジョンをシンプルに表現させる
計画的偶発性理論は、目的意識をまったく持たないのではなく、漠然としたビジョンの下で偶然のチャンスを掴んでいくことを提唱しています。ここで重要なのが、特定の分野に関わる職業や決まった業務など、限定的な目標ではないという点です。 そのため、従業員には「社会のためになる仕事」「信頼されるビジネスパーソン」といったシンプルな言葉でビジョンを表現させてください。
行動を起こせない理由を考えてもらう
目の前にチャンスがあっても、変化や失敗を恐れて行動を起こせない従業員もいます。このような従業員に対しては、行動を起こせない理由を考えてもらうようにしてください。具体例としては、「過去に失敗や挫折を味わった」「失敗によるリスクが不安」といった理由が考えられます。 失敗から学んだことを一緒に考えて、失敗は決して無駄ではないと従業員を後押しする取り組みが重要です。
チャンスにつながる小さな行動を促す
計画的偶発性理論では、ただ偶然を待つのではなくて自分から何らかのアプローチをすることが望ましいとされます。従業員に対しては、異業種の人の話を聞く機会を用意したり、インターネットで情報を調べてもらったりなどの行動を促すようにしてください。小さな行動でも、本人の意識を変革したり偶然のチャンスを掴んだりといった効果を期待できます。
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06まとめ
刻一刻と変動する昨今の社会情勢においては、従来の価値観や目的意識に固執するあまりに、チャンスを逃して変化に適応できないおそれがあります。 偶然の出来事をチャンスにつなげてキャリアを形成するためには、日々の業務における計画的偶発性理論の実践が効果的です。 まずは従業員に計画的偶発性理論を理解させて、未知の領域への挑戦を後押しすることで計画的偶発性理論を実践してもらいましょう。