メンタルモデルとは?人材育成に取り入れるメリットと方法を解説
メンタルモデルは、過去の経験や環境に基づく、潜在意識下での価値観や思考の枠組みです。人材育成に取り入れることで、組織の効率的なチームビルディングや、従業員の苦手意識の克服といったメリットが期待できます。 本記事では、メンタルモデルの概念や人材育成に取り入れるメリット、その方法について紹介していきます。
- 01.メンタルモデルとは
- 02.メンタルモデルの概要
- 03.4つのメンタルモデルとは
- 04.組織目標の達成に必要なメンタルモデル
- 05.共有メンタルモデルとは
- 06.メンタルモデルを共有するメリット
- 07.メンタルモデルを人材育成に取り入れる4つのメリット
- 08.まとめ
01メンタルモデルとは
メンタルモデルとは、無意識下で形成する価値観や、思考の枠組みです。生活や仕事において、あらゆる行動や思考を行う際の基準とも言えます。 ここでは、メンタルモデルの言葉の考え方、類似する言葉であるマインドセットやパラダイムとの違いについて解説していきます。
もともとは認知心理学の専門用語
メンタルモデルはもともと認知心理学の分野の用語として、人が見たり聞いたり、考えたりする認知活動に関する研究で用いられています。これまでの経験や環境、文化によって形成されるものであり、同じ状況でも人によって物事の捉え方が異なります。 たとえば、大きな犬を見たとき、過去に飼っていて良い思い出があれば「かわいい」と感じるでしょう。一方で、過去に吠えられるなど悪い記憶があれば「大きくて怖い」と感じてしまう人もいます。 様々な人が集まる組織では、このような認知の違いによって生じる課題も少なくないため、メンタルモデルを前提に施策などを考える必要があるでしょう。
マインドセットとの違い
マインドセットとは、これまでの経験や教育などにより形成された思考や価値観のことです。「mindset」は直訳では人の好みや考え方、習慣を意味し、メンタルモデルと同じく心理学の用語です。ビジネスシーンでは役職や環境の変化に対応できるように、「マインドセット研修」が行われることもあります。 その人の価値観や思考の前提という点は、メンタルモデルと共通しています。メンタルモデルは「経験」をベースにした考え方に対して、マインドセットは「経験」に加えて「生まれ持った気質」も含まれる違いがあります。
パラダイムとの違い
パラダイムとは、その時代や組織における常識や当たり前のことです。「個人」の価値観であるメンタルモデルやマインドセットとは異なり、パラダイムは「社会や集団」の価値観を表します。 また、社会の価値観や常識が劇的に変化することを「パラダイムシフト」といいます。
ヒューリスティックとの違い
メンタルモデルとヒューリスティックは、意思決定や問題解決に使われる異なる認知ツールです。メンタルモデルは、世界やシステムに関する内的な理解の枠組みであり、経験や学習を通じて形成されます。これにより、状況を予測したり、複雑な問題を深く理解することが可能です。一方、ヒューリスティックは、迅速な意思決定を行うための簡便なルールや直感的な判断基準です。正確性よりもスピードを重視し、簡単なルールを基に近似的な解を得ることを目的とします。メンタルモデルが広範な理解を目指すのに対し、ヒューリスティックは効率的な解決策を提供します。
02メンタルモデルの概要
次に、メンタルモデルの概要について、もう少し詳しく解説していきます。体験から得られる「知」であること、人の行動の大半が潜在意識に基づくものといった知識を学びながら、メンタルモデルへの理解を深めていきましょう。
1.メンタルモデルは体験を通じて得られる「知」である
私たちは無意識的に、メンタルモデルを利用して行動や意思決定を行っています。例えば、家族や知人に対して「これをしたらよろこぶだろう」や、顧客は「こんな商品を求めているだろう」などが挙げられます。 これらはすべて、自らの体験を通じて得られた「知」なのです。過去の体験で、どのような行動や意思決定を行った結果、どのような反応が得られたのかを私たちは記憶しています。このように、体験を通じて得た「知」こそが、行動や意思決定の材料となるメンタルモデルなのです。
2.人間の行動は7~8割が潜在意識に基づくものである
人間の行動の7〜8割が、潜在意識に基づいていると言われています。つまり、自分で考えて行動していると思っていても、実は顕在意識による行動は全体の2〜3割に過ぎず、ほとんどが無意識下で行動しているのです。 そのため、無意識下で形成する価値観や思考の前提であるメンタルモデルは、私たちの日々の行動で重要な役割を果たしています。
3.メンタルモデルは必ずしも事実と一致するとは限らない
多くの経験を積むことで、メンタルモデルの幅は広がるでしょう。しかし、どれだけ経験豊富な人でも、すべての事象が予測した通りには動きません。 現実においては、メンタルモデルによる予測が必ずしも事実と一致するとは限らないのです。そのことを理解したうえで、常に新しい体験や多様な考え方に触れながら、メンタルモデルをアップデートしていく必要があります。
034つのメンタルモデルとは
メンタルモデルには、大きく4つのモデルが存在すると言われています。4つのメンタルモデルは、次の通りです。
- 1.ひとりぼっちモデル
- 2.欠陥欠損モデル
- 3.愛なしモデル
- 4.価値なしモデル
それぞれのモデルで特徴や傾向が異なるため、確認しておきましょう。
1.ひとりぼっちモデル
ひとりぼっちモデルとは、「世界で自分は所詮ひとりぼっちである」という考えから、孤独感を抱えているタイプです。人よりも、自然や動物などが好きな人が多い傾向があります。 また、相手から切り離されることをおそれて、相手が自分のもとを去ろうとすると、自ら相手を切り離す行動をします。来るものを拒まず、去る者を追わず、自分の道を自由に突き進む特徴もあります。
2.欠陥欠損モデル
欠陥欠損モデルとは、「自分はなにか欠陥を持った人間である」と常に不安を感じているタイプです。自分は出来損ないと感じていて、人の目を気にしすぎて組織からドロップアウトする人も多い傾向があります。 また、周りを常に気にしているため、場の空気を壊さないように気を遣う特徴もあります。
3.愛なしモデル
愛なしモデルとは、「自分のありのままでは愛されない」と考える、自分に自信がないタイプです。人とのつながりを渇望し、自己犠牲愛で人に愛情を尽くす傾向があります。 また、自分が求める愛を受け取れないという思い込みがあります。そのため、相手を不快にさせる言動を極端に避け、相手に奉仕し続けることで疲れてしまう特徴もあります。
4.価値なしモデル
価値なしモデルとは、「自分には価値がない」と思い込み、成果などを出すことで認めてもらおうとするタイプです。成果や価値を提供するために人からの要求には積極的に答え、努力を惜しみません。 承認欲求や達成意欲も高いため、このタイプには企業で出世する人も多い特徴があります。一方で、常に他人を軸に動くため、自分の軸を見失いやすい側面もあります。
04組織目標の達成に必要なメンタルモデル
ピーター・センゲの「学習する組織」の概念に基づき、組織目標の達成に必要なメンタルモデルとして、次のようなものがあげられます。
- ・メンタルモデルの克服
- ・システム思考
- ・自己実現
- ・共有ビジョン
- ・チーム学習
ここでは、それぞれについて解説していきます。
メンタルモデルの克服
メンタルモデルの克服とは、組織メンバーが自身の思考の枠組みや前提を自覚し、批判的に再評価するプロセスです。ピーター・センゲは、「学習する組織」において、古いメンタルモデルが組織の変革を妨げる要因であると指摘しています。組織内の個々のメンバーが自分の固定観念や思い込みを克服し、新しい視点や考え方を柔軟に受け入れることが重要です。例えば、従来の市場の見方に囚われていると、変化に対応できなくなるため、現状を問い直す姿勢が求められます。このように、メンタルモデルの克服は、組織のイノベーションや競争力の維持に不可欠であり、変化する環境に適応するために不可欠な要素です。
システム思考
システム思考は、複雑な問題を部分的に見るのではなく、全体の関連性や相互作用を理解するための方法論です。ピーター・センゲは、システム思考を「学習する組織」の中核に据え、組織内の複雑な因果関係を理解することが、持続的な成功につながると述べています。個々の出来事や問題を単独で見るのではなく、それらがどのように相互作用し、組織全体に影響を及ぼしているのかを考えることが重要です。例えば、売上の低下を単に営業部門の問題と捉えるのではなく、生産、マーケティング、顧客対応など全体のプロセスを見直すことで、真の原因を突き止め、適切な解決策を講じることができます。システム思考は、持続的な改善と学習を組織全体に広げる鍵となります。
自己実現
自己実現は、個々のメンバーが自身の潜在能力を最大限に発揮し、個人的な成長と組織の目標を両立させるプロセスです。ピーター・センゲは、「学習する組織」において、個人が自己の可能性を追求し、成長することが組織全体のパフォーマンス向上に直結すると述べています。自己実現を目指す社員は、自己啓発やスキル向上を重視し、組織内での役割をより積極的に担うようになります。また、自己実現が促進される環境は、従業員のモチベーションを高め、組織全体の創造性や革新性を引き出す助けになります。自己実現は、組織と個人の間に相乗効果を生み出し、長期的な目標達成に向けて強力な原動力となります。
共有ビジョン
共有ビジョンとは、組織全体が共通の目標や方向性を持ち、それに向けて団結する状態を指します。ピーター・センゲは、「学習する組織」において共有ビジョンが重要な要素であると強調し、全員が同じ方向を向くことで、組織の一体感が高まり、個々のメンバーが組織の成功に対して主体的に行動するようになると述べています。共有ビジョンは、単なるトップダウンの目標設定ではなく、組織メンバー全員がそのビジョンを理解し、自らのものとして受け入れることが求められます。これにより、メンバーが自発的に行動し、組織の目的達成に向けて協力し合うことが促進されます。強力な共有ビジョンは、組織を一体化させ、困難な状況でもチームとして力を合わせて乗り越える力を与えます。
チーム学習
チーム学習は、組織内のグループやチームが協力して知識を共有し、共通の目標に向けて継続的に学び合うプロセスです。ピーター・センゲは、「学習する組織」においてチーム学習が不可欠であると述べ、個々の能力を超えた集団的な知恵と洞察を引き出すことが、組織全体の進化を促進するとしています。チーム学習では、メンバー間の対話やフィードバックを通じて、新しいアイデアや視点が生まれやすくなり、チーム全体での成長が促進されます。また、意見の多様性を尊重しながら、チームとしてのシナジーを引き出すことで、より高度な問題解決やイノベーションが可能となります。チーム学習は、組織の知識基盤を強化し、持続的な競争力を築く重要な要素です。
05共有メンタルモデルとは
共有メンタルモデルとは、チームや組織のメンバーが共通の理解や認識を持つことで、協働の効果を高めるための概念です。個々のメンバーが持つメンタルモデルは、状況やシステムに対する内的な理解の枠組みですが、これが共有されることで、チーム全体が同じ目標や戦略に基づいて効率的に行動することが可能になります。
ピーター・センゲの「学習する組織」の文脈でも、共有メンタルモデルは組織の学習能力を高める重要な要素とされています。メンバーが同じ認識や価値観を共有することで、チームとしての適応力やイノベーションの推進力が強化されます。組織全体での柔軟な対応や意思決定の質を向上させるため、共有メンタルモデルの形成は組織にとって不可欠なプロセスといえます。
06メンタルモデルを共有するメリット
メンタルモデルを共有することには、組織やチームにとって大きなメリットがあり、特に「チームのパフォーマンス向上」と「採用・人材育成との連携可能性」が重要な要素です。ここではそれぞれのメリットについて解説していきます。
チームのパフォーマンス向上
メンバー全員が共通のメンタルモデルを持つことで、目標やプロセス、各自の役割についての理解が一致し、協力が円滑になります。これにより、意思決定のスピードが向上し、コミュニケーションの齟齬が減少します。結果として、無駄な作業や誤解を防ぎ、効率的な作業遂行が可能となり、全体としてのパフォーマンスが向上します。
採用・人材育成と連携可能
採用・人材育成との連携においても、共有メンタルモデルは有用です。共通のメンタルモデルに基づいた基準を持つことで、採用時に組織の価値観や行動原則に合った人材を選ぶことができ、早期の適応が期待されます。また、新人や既存の従業員に対しても、一貫したモデルに基づく育成プログラムを提供できるため、組織全体のスキルや考え方が統一され、持続的な成長を支える基盤となります。
07メンタルモデルを人材育成に取り入れる4つのメリット
ここからは、学習する組織を導入した3社の企業事例を紹介します。
- 1.レイセオン・テクノロジーズ社
- 2.サステナブル・フードラボ
- 3.トヨタ自動車
どれも参考になる事例ですので、ぜひ自社に学習する組織を導入する際の手立てとしてください。
1.レイセオン・テクノロジーズ社
航空機のエンジンなどを製作するレイセオン・テクノロジーズ社(旧:ユナイテッドテクノロジー社)は、1990年ごろ、経営危機に陥っていました。見積り作成におよそ50日間もの日数を要していたため、大口の顧客を次々と失うかもしれない状態だったのです。 このような状況を打破するべく、経営陣は関係部署の担当者やマネージャーを集め、話し合いを行います。現状を把握し、その根底にあるメンタル・モデルを調べていきました。 その結果、問題の本質に気がついたチームは新しい目標とビジョンを設定し、10日間で見積りを作成できるようになりました。内発的な動機付けとチーム内の良好なコミュニケーション、そしてそれらを可能にする組織構造が、いかに重要であるかを示す事例と言えます。
▶︎参照元:チェンジ・エージェント社「学習する組織入門(9) 「学習する組織の実践事例(2)」」
2.サステナブル・フード・ラボ
サスティナブル・フード・ラボは、企業と市民が力を合わせてサステナブルな食糧システムを作るプロジェクトです。過去や偏見に捉われず、本当に必要な変化を生み出すスキル「U理論」を、プロジェクトを通じて実践していきます。 例えば、全体会議や定例会の前に行う「ラーニング・ジャーニー」は、組織のリーダーが直接生産地を訪れて見聞きしたことをすぐに振り返り、対話していくものです。こうしたプロセスを経て、多くのメンバーが自身の固定観念を手放し、何をすべきかを明確にできるようになりました。
▶︎参照元:チェンジ・エージェント社「学習する組織入門(10)「学習する組織の実践事例(3)」」
3.トヨタ自動車
トヨタ自動車においては、学習する組織を実現するための施策が実施されています。 具体的には、QC(小集団改善活動)では「なぜ?」を5回考えるなど、学習や問題解決のための思考に重点を置いています。これにより、組織にとって難しい問題を解決できる思考力が身に着くようにしているのです。 また、5S活動は一見すると職場環境の改善に重きを置いているように見えますが、職場を徹底的に掃除することによって設備不良を防ぐなど、生産を安定させる役割も果たしています。
▶︎参照元:日経クロステック「トヨタの課題解決力の秘密は「QCストーリー」にあり」
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08まとめ
今回は、自己マスタリーの概要や注目を集める理由、学習する組織を実現するためのポイントについてお伝えしました。 個々の従業員が自己マスタリーに取り組み、自身で考えて行動を起こせるようになれば、学習する組織を実現することができます。その結果、企業が大きな力を持てるようになって、より良い変化を生み出します。あらゆる問題へ柔軟に対応できる企業になるためにも、本記事を参考に従業員の自己マスタリー育成に注力してみてはいかがでしょうか。