キャリアパス制度とは|類似用語との違いや具体的な導入手順を解説

人材の育成を行う際に、キャリアパス制度という用語を利用します。では、このキャリアパス制度とはどのような制度なのでしょうか。本記事では、キャリアパス制度について、用語の解説、導入におけるメリットなどについて解説しています。今後の人材育成において、キャリアパス制度を利用し人材の成長を促していきましょう。
- 01.キャリアパス制度とは
- 02.キャリアパス制度と類似用語の違い
- 03.キャリアパス制度が注目されている背景
- 04.キャリアパス制度のメリット
- 05.キャリアパス制度を導入する際の注意点とは
- 06.キャリアパス制度の導入手順
- 07.キャリアパス制度導入のポイント
- 08.キャリアパスの導入事例
- 09.まとめ
01キャリアパス制度とは
キャリアパス制度とは、組織内での昇進や昇格に関する基準や条件を明確に定めた人事制度です。この制度により、企業が望む人物像が明確になり、「どのような成果を上げれば昇進できるのか」といった漠然とした不安を解消することができます。
それぞれの社員が目指すキャリアに到達するためには、どのようなステップを進めば良いのかが組織から示されているので、社員のキャリア自律に寄与すると注目されています。キャリアパス制度は、従業員のモチベーションや成長意欲を高めるだけでなく、組織の人材育成や人材定着にも大きな役割を果たします。
02キャリアパス制度と類似用語の違い
次に、キャリアパス制度と類似用語との違いについて解説していきます。類似用語との違いを理解することは、キャリアアップ制度をより深く理解するために有効です。類似用語との違いを正しく理解してビジネスシーンで活用していきましょう。
キャリアアップとの違い
キャリアアップとは、「より高い能力を身につけて、経歴を高めること」です。自分自身で高い能力を身に付け、昇進などを含めた経歴を高めていきます。キャリアアップという単語は、自分のキャリアを積む上で頻繁に利用される用語です。自分自身に必要な能力については、キャリアプランで設計をしていきます。
キャリアプランとの違い
キャリアプランとは、「自分が今後どのような経歴を積み上げていくか」を自ら考え中長期計画として設計することです。 自分の将来の夢や理想を明確にし、それを実現するために必要な経験、知識やスキルとは何かを把握し、具体的な行動まで落としこむことを意味しています。キャリアデザインした設計書がキャリアプランです。
キャリアデザインとの違い
キャリアデザインとは「キャリアプランを主体的に設計すること」を指し、自分の仕事や自分の人生に対して夢や理想を描き、実現のための主体的に選択をしていくことを意味します。 周りに流されて受動的にキャリア選択を行うのではなくあくまでも主体は自分自身となります。
03キャリアパス制度が注目されている背景
キャリアパス制度が注目を集めている背景には、VUCAが大きく関わっています。変化の激しい時代に突入したことによって、既存のシステムやルールを見直す動きが活発化しています。キャリアパス制度に関しても、その一貫と言えるでしょう。
終身雇用制度の崩壊
キャリアパス制度が注目を集めている背景には、終身雇用制度の崩壊も要因としてあります。VUCAと呼ばれる予測不可能な時代になっているため、日本で長らく続いた終身雇用も崩壊してきています。
変化のスピードが緩やかな時代では、終身雇用が前提の年功序列が機能しましたが、もう年功序列が通用する時代ではなくなっています。
優秀な社員には、積極的にポストと権限を与えて組織を牽引してもらわなければなりません。そのためにはキャリアパス制度を整えて、社員の人事異動や昇進を可視化し、透明性を担保する必要があります。
ジョブ型雇用への対応
ジョブ型雇用への対応という観点でも、キャリアパス制度は注目されています。人口減少を迎えることが確定している日本において、海外人材の確保は急務となっています。諸外国は基本的にジョブ型での雇用形態となるため、日本企業は海外標準に合わせる必要性に迫られ、ジョブディスクリプションの策定などを進めています。
そして、ジョブ型雇用は専門性に特化した人材の確保という側面でも必要性が高まっています。専門性に秀でた人材のキャリアパスを、メンバーシップ型と同様に管理職・役員のように論じることは難しく、それぞれの雇用形態で多様なキャリアを歩むことができると明示する必要があり、キャリアパス制度が注目されているのです。
人的資本開示
人的資本開示・人的資本経営という観点でも、キャリアパス制度は注目されています。プライム市場で開示が義務化されたことにより、多くの企業が従業員エンゲージメントを1つの重要指標として置くようになりました。
キャリアパス制度を整えることで、組織への求心度・推奨度を高めようという狙いがあるようです。また、多くの企業でキャリア自律を掲げており、それの実現にもキャリアパス制度が寄与するという目論見もあるようです。
04キャリアパス制度のメリット
次に、キャリアパス制度を導入した際の企業視点と従業員視点のメリットについて解説していきます。キャリアパス制度を導入することで、どのような変化を生じさせるのかを理解し、自社と従業員の両者にとってどのメリットが最優先かを見極めていきましょう。
企業視点でのメリット
企業視点でのメリットには以下の5つが挙げられます。
従業員のモチベーション向上が期待できる
自己成長の道筋が明確であれば、その実現に向かって人は迷わずに行動していきます。この行動が結果に変わることでモチベーションが向上し、より一層成果につながる行動につながります。このままいけば、何を目指せるのかが分かることで人材は安心感を得られ、行動に移しやすくなるでしょう。モチベーションが高いほど、社員個人、組織に好循環が期待できます。
スキルアップにつながる
キャリアパス制度のキャリアパスでは、どのような知識や経験が必要かを明らかにしています。この必要な知識や経験を習得することで、人材のスキルアップが実現します。スキルアップを通して、キャリアチェンジを希望する場合もありますが、人材のスキルアップが広がることで企業レベルの底上げが実現することを理解しておきましょう。
適材適所への人材配置が可能となる
キャリアパス制度を導入すると、専門知識の習得だけではなく関連業務への知識や経験も習得し、他部署でも活躍できるスキルを持った人材の育成が実現します。このように、キャリアパス制度に準じたスキルアップが、当人の可能性を広げることにもつながります。人材の適材適所を考慮した人事配置がより実現しやすくなり、事業と社員にとっても大きなメリットが期待できるでしょう。
優秀な人材が集まる可能性が高まる
キャリアパス制度が向上すると優秀な人材が集まる可能性が高くなります。優秀な人材の転職活動では、自分自身がよりキャリアアップをしたいと考えています。キャリアパス制度が整っていると、より高いスキルを保有したいと考えてる向上心の高い人材が集まる可能性が高くなり、人材の底上げも実現できるでしょう。
業績の向上につながる可能性がある
人材のスキルアップが実現することで、会社の業績向上につながる可能性があります。人材の一人一人が成長することで、業務の改善、生産性の向上が期待できるでしょう。この変革により会社の売上向上や顧客獲得が可能となります。企業の業績が向上すると、よりスキルアップができる環境が構築され、人材の育成と流動性の好循環ができ上がっていきます。
従業員視点でのメリット
従業員視点でのメリットには以下の5つが挙げられます。
自分のキャリアプランを考えるきっかけになる
日々の業務に追われてしまい、今後自分がどのようなキャリアを歩んでいきたいのか深く考えられていない人も少なくありません。そういった人材がキャリアパス制度をきっかけに自分のキャリアプランを真剣に考えるようになることが期待できます。
ライフプランが立てやすくなる
昇格による昇給が明確になるので、今後のライフプランを立てやすくなります。どのタイミングで昇格ができるのか、どれくらいの給与になるのかが不透明だと、今後も今の会社で働く事に対して不安を抱き、転職に至るケースも少なくありません。キャリアパス制度はそういった社員の不安を払拭する効果も期待できるのです。
どの能力を伸ばせばいいのかが明確になる
目標が明確になることで能力開発に対するモチベーション向上が期待できます。 キャリアパス制度を通して、キャリアとしての目標を設定し、そこに対して自分に足りていない能力を洗い出すことで、業務に意欲的に取り組むようになるでしょう。 また、仕事だけでなく業務外での自己研鑽にも励むモチベーションを創出することも期待できます。
05キャリアパス制度を導入する際の注意点とは
次にキャリアパス制度の注意点について解説していきます。メリットだけではなく、キャリアパス制度の注意点を理解しておくことは、制度導入前に施策を講じて対策を立てることが可能になります。同時に、注意点を理解することは、メリットをより深く理解できます。
モチベーションが下がる可能性がある
モチベーションを下げる可能性がある点に注意が必要です。キャリアパス制度が構築されたとしても、全ての人材が設計通りのキャリアパスができない人材もいます。思い通りにキャリアパスができないと、人は自分自身のスキル不足やどうしてキャリアパスできないかに悩むこともあります。この一連の流れにより、モチベーション低下が起きる可能性を有しています。こうした場合には、キャリアパス制度へのチャレンジや段階を長期的な視点で再設計し改めてチャレンジをすることで回避しましょう。
昇進できない可能性もある
キャリアパス制度に準じてスキルアップを行っていても、必ずしも昇進できるとは限りません。昇進すればするほど、ポジションは少なくなり限られた人材のみが昇進できます。結果的に、キャリアパス制度に準じてスキルアップを行っていても必ず昇進できないことも理解しておきましょう。結果的に昇進できない場合には、モチベーション低下につながる可能性があります。こうした場合には、役職を増やすことは難しいため、昇格試験などを通じて昇進できる人材を選抜的にすることを理解してもらう必要があります。
06キャリアパス制度の導入手順
キャリアパス制度を導入する際には、どういった手順で進めればよいのかわからないという方も少なくないと思われます。 キャリアパス制度は「等級制度」、「研修制度」、「賃金制度」、「評価制度」の4つの要素から構成されます。 ここでは、それぞれの設定方法を説明する形で導入の手順を解説します。
等級制度を設計する
全ての職種において、役職などの階層と業務内容を言語化し、各階層に必要なスキルや能力などを明確にします。 一般的には、部長や課長といった役職で分けて設定することが多いですが、一般社員であっても経験年数や能力に応じて2,3階層に細かく分けることも大切です。一般社員からすると、役職のみによる分け方だと、あまりにも遠い将来の話になることもあるため、キャリア形成のイメージを持ちづらくなるためです。
研修制度を設計する
社員が自分の望むキャリアを形成できるよう、必要な能力やスキルが身に着けられる研修制度を設計します。前述した階層に即して、適切なタイミングや内容の研修プランを作成しましょう。 研修は社内で実施するだけなく、外部の研修サービスを活用して参加してもらうという形式も有効です。また、研修ではなく自己啓発による能力開発を促進したいという場合には、セミナー受講料や書籍購入費用を企業が負担するというのも方法の一つです。
賃金制度を設計する
設定した階層に応じて、適切な賃金制度を設計します。階層が上がるほど、求められるスキルや責任も大きくなるため、賃金も差をつける必要があります。 また、賃金は「300万円〜500万円」といったレンジで設計されるのが一般的です。 ただし、業務量や求められる責任に対して低すぎる賃金を設定してしまうと、見合った金額を貰えない事に対するモチベーションの低下を招くことになるので、注意が必要です。
評価制度を設計する
どのような基準で評価しているのかを社員に対してかいじできるよう、階層や職種によって評価制度を設計します。 一般的には、社員の能力やスキルでの評価、出した成果に対する評価、勤務態度ややる気による評価など、複数の要素を合算して評価します。 そして、それぞれ達成度合に応じて「〇」、「△」、「×」といった数段階に分けて評価できるようにし、もう少しで達成できそうだった社員なども評価できるようにすることが望ましいです。
フォローアップ体制を作る
キャリアパス制度は、社員によって理解され、活用されて初めて意味あるものになります。活用されるためには、定期的な面談や異動時のサポートなどのフォローアップ体制を整える必要があります。サポート体制を構築することで、従業員とのコミュニケーションを深め、キャリアパスについてのイメージを共有できます。このようなフォローアップにより、従業員の長期的な成長や離職防止につながります。
また、面談を通じて、キャリア構築に関するアドバイスや必要な教育・研修の把握、適切な異動の実施などが可能になります。定期的なフォローアップや面談を通じて、従業員がキャリアパス制度を正しく理解し、活用しているかを確認することも重要です。また、定期的なキャリアパスの話し合いにより、新たな気付きが生まれたり、必要に応じて調整や修正を行うことができます。フォローアップ体制の整備は、従業員の成長を促し、組織の人材育成に寄与する重要な要素となります。
07キャリアパス制度導入のポイント
キャリアパス制度導入時には、注意して進めていくポイントがあります。キャリアパス制度導入の成功には、複数のポイントを複合的に意識して実施する必要があります。単体ではなく複合的にポイントを意識することで制度導入の成功率が増していくと理解しておきましょう。
キャリアパス制度の導入目的を周知する
最も必要なのは、キャリアパス制度の導入目的を周知し理解してもらうことです。なぜ、キャリアパス制度を導入するのか、導入した結果、どうして欲しいのかを総会や部署間で適切に伝えなければいけません。また、個別の面談を行いキャリアパス制度で、何をどう目指して欲しいかを個々人に理解してもらうことも大切なポイントになります。
業務特性を整理する
キャリアパス制度を導入する際には、各業務の業務特性を整理しておく必要があります。そのため、各職種や部署でのスキルアップを作成して整理するといいでしょう。事前にどのようなスキルや景観が必要にあるのかを理解し、キャリアパス制度の運用を行います。ただし、各業務ごとに全てのキャリアパス制度を構築できません。業務特性を整理した後には、類似している業務特性でカテゴリ別にキャリアパス制度の設計を行いましょう。
キャリア別のスキル・能力を整理する
業務特性と同じようにキャリア別のスキルや能力を整理する必要もあります。キャリアにより必要となるスキルや能力、経験は異なるため整理を行う必要があると理解します。ここでいうキャリアとは、自社におけるポジション、業務別の職種と理解しておくと良いでしょう。キャリアの棚卸と業務特性は関係性の深い整理項目となるため、両軸での整理を行うことを意識してください。
複数キャリアの道を想定する
上っていく道筋、キャリアは一つではありません。人材の成長度合いや能力により道筋に変更が生じる場合もあります。キャリアパス制度もスキルアップの先が1つカテゴリだけにならないよう複数のキャリアを設けておく必要があります。複数のキャリアの道筋があることは、人材の成長度合いや特性により臨機応変に対応できる制度です。ただし、複数のキャリアパスを作り過ぎると、制度の修正などの手間が増大してしまうことを意識しておきましょう。
08キャリアパスの導入事例
キャリアパス制度を導入する企業は増えていますが、具体的にどのような内容で運用しているのでしょうか。ここではキャリアパス制度に関して実際に導入している企業の例を紹介します。
株式会社みずほフィナンシャルグループ
株式会社みずほフィナンシャルグループは、みずほ銀行やみずほ信託銀行、みずほ証券などの親会社であり、みずほグループの持株会社です。 みずほフィナンシャルグループでは、社員にグローバルに広がる仕事を通じた「学び」と「挑戦」の機会の提供に加えて、社外での「学び」と「挑戦」の機会の提供や環境づくりにも取り組んでいます。 社員の学びと挑戦が止まらないよう、各種研修のeラーニングコンテンツの整備や、リーダーシップ研修の実施、グローバル人材育成のプログラム導入、自分磨き休職という大学院などへの参加の制度、副業などを導入しています。
株式会社リコー
株式会社リコーはプリンターなどの印刷機や複写機、デジタルカメラなどの大手OA機器メーカーです。 リコーでは独自のキャリアパスを設定する中で、企業の変革と成長を実現するためには多様な人材の協業がキーであるとの考えから、7つの人材タイプをそれぞれ定義しています。
- 1. ビジネスリーダー(事業トップ)
- 2. ビジネスリーダー(機能トップ)
- 3. 新規事業創造リーダー
- 4. プロフェッショナル
- 5. スペシャリスト(高度スペシャリスト)
- 6. プロジェクトマネジャー
- 7. マネジャー
上記の人材タイプの輩出に向け、人材タイプ別にさまざまな制度・仕組みを構築しました。特にプロジェクトマネージャーと組織職の人材輩出、育成強化を目的とした「PM コンピテンシー認定制度(PMC)」があります。。PMC は、社内基準に基づいてプロジェクトマネジメントの能力を認定する制度で、社員が認定条件にチャレンジし、自らの知識・スキルを向上させるとともに、組織やコミュニティーの活性化に貢献します。認定者された際には、プロジェクトマネージャー や組織職に優先的に任命されるインセンティブが与えられ、さらに将来のキャリア形成につながる道を開くことができます。
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■資料内容抜粋
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・研修への活用方法
・自己啓発への活用方法 など

09まとめ
本記事では、キャリアパス制度をテーマに特徴やメリットなどについて解説しています。キャリアパス制度が整備されていると人材の育成がスムーズになるだけではなく、会社の業績をアップする可能性も秘めています。キャリアアップの道筋は、従業員個々人により存在しているため制度設計には十分な配慮をもって行う必要があります。本記事を参考にしていただき、キャリアパス制度の構築や見直しを実践していただきたいと思います。ぜひ、人材の育成のためのキャリアパス制度を導入していきましょう。
▼【無料】人的資本を最大化するキャリアオーナーシップ型組織のつくり方|ウェビナー見逃し配信中

自律的な組織を作るうえで重要なキャリアオーナーシップについてのウェビナーアーカイブです。社員のキャリア形成について悩んでいる方、社員の自律性の低さに課題を感じる方、人的資本を最大化するためのキャリアオーナーシップ型組織の作り方をお話します。
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登壇者:田中 研之輔 様法政大学キャリアデザイン学部 教授
一橋大学大学院(社会学)を経て、メルボルン大学・カリフォルニア大学バークレー校で、4年間客員研究員をつとめ、2008年3月末に帰国。2008年4月より現職。教育・研究活動の傍ら、グローバル人材育成・グローバルインターンシップの開発等の事業も手がける。一般社団法人 日本国際人材育成協会 特任理事。Global Career人材育成組織TTC代表アカデミックトレーナー兼ソーシャルメディアディレクター。 著書―『先生は教えてくれない大学のトリセツ』(筑摩書房)『走らないトヨタ―ネッツ南国の組織エスノグラフィー』(法律文化社)『都市に刻む軌跡―スケートボーダーのエスノグラフィー』(新曜社)他多数