心理的資本とは何か?4つの要素や高める方法を具体的に解説

心理的資本とは、仕事や目標に対し、困難を乗り越えやり遂げる自信を持つ、人の前向きな心の状態を指します。心理的資本が高い人は、困難な状況でも前向きに行動し続けられる特徴があります。昨今の人的資本経営の流れの中で、注目が高まっている概念です。本記事では、心理的資本の要素や高め方について、詳しく解説していきます。
- 01.心理的資本とは?
- 02.心理的資本の構成要素「HERO」
- 03.心理的資本の特徴
- 04.企業が心理的資本の向上に取り組むメリット
- 05.心理的資本を高める方法
- 06.心理資本の強化に役立つSchoo For Buisiness
- 07.まとめ
01心理的資本とは?
心理的資本とは「個人のポジティブな心理状態」であり、経営学の分野で業績やパフォーマンスに影響を与えると考えられる資本のうちの1つです。高い目標に対して自律的に行動したり、必要な知識やスキルを習得したりすることを支える、前向きな心のあり方です。これは、ポジティブ心理学やポジティブ組織行動の研究とも関連する概念であり、不確実性の高い環境下でパフォーマンスを高めるために大切な要素として注目されています。
パフォーマンスに影響する3つの資本
経営学、特に組織行動論などの分野では、人のパフォーマンスに影響する要素を、次の3つの「資本」の観点で整理することがあります。
- 人的資本(Human Capital):知識、スキル、資格、ノウハウといった個人の持つ経験や能力
- 社会関係資本(Social Capital):社内外の人脈やネットワーク、信頼関係といった人とのつながり
- 心理的資本(Psychological Capital):行動する力の源となる、人の前向きな心の状態
人的資本や社会関係資本は、学びや交流といった人の行動を通じて獲得されるものです。そしてそれら行動を促し、支えるのが心理的資本です。
▶︎関連記事:ソーシャルキャピタル(社会関係資本)とは|構成要素や具体例を紹介
心理的資本が注目されるようになった背景
近年はテクノロジーの発達や地政学的な変化などにより、不確実性が高く先の見通しが立てづらい時代であると言われています。また日本においては少子高齢化と人口減少が予測されており、企業は国内市場縮小の可能性や人手不足に対して、生産性の向上や競争力の強化で備えることが求められています。
このような環境においては、従業員一人ひとりのパフォーマンスを最大化させる視点が大切であり、従業員のモチベーションやエンゲージメントといった内面へのアプローチが重視されるようになりました。
また学術的にも、心理学をメンタルダウンといったネガティブな状況の解消だけでなく、より良い状態を作ることに活用する「ポジティブ心理学」や、働き方や暮らしも含めたウェルビーイングを推進する「幸福学」などが発展してきています。そこから、それら学問と関係が深い心理的資本の概念も注目を集めています。
02心理的資本の構成要素「HERO」
心理的資本は、「希望(Hope)」「自己効力感(Efficacy)」「レジリエンス(Resilience)」「楽観性(Optimism)」の4つの要素で構成されており、それぞれの頭文字をとって「The HERO within(自分の中の英雄)」とも呼ばれます。ここでは、心理的資本の構成要素「HERO」について詳しく紹介します。
希望(Hope)
HEROの「H」は、希望(Hope)の頭文字です。ここで言う希望とは、達成したい目標に対して、「目標に到達する道筋(方法)を生み出せる」という自己認識と、「その道筋で進めようとする意志・推進力」を併せ持つ前向きな心理状態を指します。これは、目標設定や必要に応じた計画の見直し、粘り強い実行といった主体的な行動につながり、自身のポテンシャルを最大限に発揮する原動力となります。
自己効力感(Efficacy)
HEROの「E」にあたる自己効力感(Efficacy)とは、「自分ならできる」と信じる、自身の能力や実行力に対する自信を指します。これは意欲的に新たな課題に挑戦し、必要な努力を惜しまずに投入するという行動につながります。つまり自己効力感が高い人は、高い目標を設定しても、成功するまで粘り強く取り組み、積極的に行動する原動力を持っていると言えるでしょう。
レジリエンス(Resilience)
HEROの「R」であるレジリエンス(Resilience)は、逆境や失敗、ストレスといった困難な状況に直面した際に、折れてしまうことなく、しなやかに回復できる心の状態を指します。これは「乗り越える力」とも呼ばれ、トラブルなどの困難だけでなく、昇進のようなポジティブな変化における重圧にも対応し、自身を動機づけて前に進むことを可能にします。
楽観性(Optimism)
HEROの「O」にあたる楽観性(Optimism)は、未来に明るい展望を持ち、困難な状況においても現実を受け止めつつ「なんとかなる」とポジティブな側面を見出す心の状態を指します。これは、起こった出来事を冷静かつ現実的に捉え、前向きな受け止め方に変換することで、次への行動に繋げる力です。この能力は、うまくいかない時でも気持ちを切り替え、前を向いて進むための原動力となります。
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■資料内容抜粋
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03心理的資本の特徴
心理的資本は生まれながらの特性で変えられないものではなく、(1)トレーニングによって開発できる、(2)レベルを測定できる、という2つの特徴を持つと考えられています。この章では、それぞれの特徴について詳しく紹介します。
▶︎参考:村上 隆晃(2022年3月7日)「Well-being経営に役立つ心理的資本」第一生命経済研究所『ビジネス環境レポート』
開発できる
心理的資本は、個人のポジティブな心理的発達状態(心理的資源)であり、研修などのトレーニングやコーチングなどの介入を通じて開発・強化できると考えられています。具体的には、目標に向けた道筋の設計と推進(Hope)や、挑戦的な課題に必要な努力を投入できる自信(Efficacy)、逆境や負荷からの立て直し(Resilience)、現実を踏まえた肯定的な見通し(Optimism)といった、HEROの各要素を意図して高める介入が挙げられます。
測定できる
心理的資本は経営学などの分野で扱われることもあり、企業の生産性向上などに活用する観点から、測定可能な指標として開発されています。たとえば米国の研究者Fred Luthans氏らは、心理的資本を構成するHEROの4要素について、それぞれ6問ずつ、合計24項目のアンケート調査で測定する手法を整備しています。これらのアンケートで取得される数値は、さまざまな研究で従業員エンゲージメントやウェルビーイング、従業員満足度との相関があると指摘されており、企業の課題・現状把握に役立てられます。
04企業が心理的資本の向上に取り組むメリット
従業員の心理的資本を向上させることは、エンゲージメントや満足度の向上を通じて従業員のパフォーマンスを強化し、業績の向上にもつながります。また研究においては、心理的資本の向上は投資効率が高い傾向にあるともされています。
従業員の業績向上が期待できる
心理的資本が高い従業員は、知識や人脈を最大限に活かし、困難を乗り越え目標達成へ主体的に行動できる「心のエンジン」を持つため、業績向上が期待できます。実際に多くの研究で、心理的資本の数値は職務満足度やエンゲージメント、ウェルビーイング、個人の生産性・業績と正の相関を示すことが示されています。それに加え、離職意向やストレスを抑制することも指摘されており、パフォーマンスへの影響が大きい指標であることがうかがえます。
投資効率が高い傾向にある
HEROモデルの提唱者、Luthansらの研究(2006)によると、1~3時間などの比較的短期の介入であっても、心理的資本の向上が確認されたと報告されています。ここからは、小規模な投資で、企業の売上高増加や、高い投資収益率(ROI)をもたらす可能性が読み取れます。たとえば同研究では、米国の中堅トップ企業の公開データなどをもとに行った試算として、心理的資本が2%増加することで、売上(revenue)を年間1,000万ドル以上増加させる可能性が指摘されています。
05心理的資本を高める方法
ここからは、心理的資本を高める方法として、HEROモデルの各要素についてどのような介入を行えるのかについて紹介します。
希望(Hope)を高める方法
心理的資本の希望(Hope)を高めるには、適切な目標設定と振り返りが重要です。目標は、測定可能であり、達成可能かつ挑戦的な水準で設定することが効果的であるとされています。また最終目標が大きく達成難易度も高い場合は、達成への道筋を柔軟に描き、小さな成功体験を得られる中間目標(マイルストーン)を設定することもポイントです。これにより、目標達成に向けてブレずに進む推進力や、計画力が高まります。また、目標達成の過程でうまくいかない場合や状況が変化した場合には、振り返りの場を設けることも大切です。これにより、初期計画が達成困難と判明しても計画を修正することで対応する力が磨かれます。
自己効力感(Efficacy)を高める方法
自己効力感を高めるには、まずスモールステップでの目標設定が有効です。小さな目標を達成する成功体験を積み重ねることで、「やれた」「できた」という達成感が生まれ、自信を育むためです。
次に、ポジティブフィードバックも重要です。上司や同僚からの肯定的な言葉は、本人の能力への自信を強化し、「やってみよう」という意欲を引き出します。また風通しがよくのびのび働ける職場環境は、適度な心地よい緊張や心身の健康といった「心理的幸福」を促すことで、ポジティブな感情や主体的な行動を促進する効果も期待できます。
レジリエンス(Resilience)を高める方法
Schoo授業『折れない心を育てるレジリエンスの高め方』では、講師の菅原聖也先生が「6つのレジリエンスコンピテンシー」を紹介しています。これはペンシルバニア大学が定義した、レジリエンスが高い人が共通して備える要素であり、その内訳は次の通りです。
- ・自己の気づき:自己客観を通じて、そこにある非生産的パターンに気付けること
- ・自己コントロール:目標達成のために、衝動、感情、行動、思考を調整する力
- ・現実的楽観性:現実から目を逸らさずに、自他の良い面に目を向け、コントロールできる範囲を見極める
- ・精神的柔軟性:状況を柔軟かつ正確に捉え、視点を切り替える
- ・徳性の強み(キャラクター・ストレングス):自分や他者の強みを見つけ、それを使って困難を乗り越えて達成する
- ・関係性の力:良いコミュニケーションや共感を通じて、助け・助けられる関係を築く
これらの要素にアプローチすることで、結果的にレジリエンスを高められると考えられています。たとえば「自分への気づき」の力を高めるには、事象を「きっかけとなる出来事(Adversity)」「表層的、根底双方にある思考(Belief)」「結果として表れた感情や行動(Consequence)」に切り分けて分析する、ABC分析の手法などがあります。
楽観性(Optimism)を高める方法
楽観性(Optimism)を高める効果的な方法の1つがリフレーミングを学び、訓練することです。リフレーミングとは、起こった出来事を多角的に捉え直し、次への行動に繋げる力です。特にネガティブな出来事を一時的な要因によるものと解釈し、過度に悲観せず、失敗や挫折を改善の機会として捉える柔軟な思考を養うことが重要です。この方法は、対象者の経験やネガティブな意識・体験を整理し、ネガティブな出来事に対して「今だけ」と限定的に捉え、将来へのポジティブな展望を開きやすくします。また最悪の事態に備え、代替案を考える訓練をすることで、現実を直視しながらも未来に楽観的な期待を持つ姿勢を養うことができます。
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06心理資本の強化に役立つSchoo For Buisiness
オンライン研修/学習サービスのSchoo for Businessでは約9,000本の講座を用意しており、DXほか様々な種類の研修に対応しています。
| 受講形式 | オンライン (アーカイブ型) |
| アーカイブ本数 | 9,000本 (新規講座も随時公開中) |
| 研修管理機能 | あり ※詳細はお問い合わせください |
| 費用 | 1ID/1,650円 ※ID数によりボリュームディスカウントあり |
| 契約形態 | 年間契約のみ ※ご契約は20IDからとなっております |
パフォーマンスをアップする「ポジティブフィードバック」
この授業では、より良いリスキリングを実践し活用できる仕組みについて学びます。日本人の「学び」への反応が薄い現状を打破し、学びとキャリアを直結させることを目指します。組織の中で実践につなげるための仕掛けや仕組み、組織開発の考え方を習得できます。パーソル総合研究所の小林祐児氏(著書『リスキリングは経営課題』)が講師を務め、人材開発や組織開発に悩む方、個人の学びの状況を変えたい方におすすめです。学びがなぜキャリアに結びついていないのかを理解し、組織的な改善策を考える視点が得られる点が特徴です。
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国際エグゼクティブコーチ
株式会社グローバル・キャリアデザイン 代表取締役。 東京生まれ。ミラノ在住。コロンビア大学、INSEAD(インシアード・欧州経営大学院)MBA卒業後、国内外10カ国で、外資系の戦略コンサルタント、多国籍企業のマーケティング、新規事業の立ち上げ等、様々なキャリアを積む。 結婚後もプロジェクトリーダーを務めるなど、精力的に働いていたが、子どもが障がいを持って生まれたのを機に、自力だけではどうにもならないことがあると知り、働き方、あり方を見直す。様々な文化、考え方、事情を持つメンバーが一緒に仕事をし、結果を出すには、個々の良さを引き出し、最大限活用できる環境を作ることが必要だと考え、ポジティブフィードバックを実践しはじめる。 現在は、独立し、国際エグゼクティブコーチ、企業研修講師、コンサルタントとして活動。ポジティブフィードバックを活用したコーチングが好評を博し、法人、個人問わず、グループ面談やセミナーなどを提供。最近は、企業から依頼を受け、経営者、リーダー等にポジティブフィードバックを始めとするビジネススキルを伝承している。3児の母でもある。 また、HPやメルマガ、SNS等で、キャリアについて悩む人々に情報発信をしている。
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折れない心を育てるレジリエンスの高め方
本講座では、ストレスの多いこれからの時代を生き抜くための必須とも言えるレジリエンスを高める手法を学べます。講師は、一般社団法人 日本ポジティブ心理学協会 認定レジリエンス・トレーナーの菅原 聖也先生です。
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一般社団法人 日本ポジティブ心理学協会 認定レジリエンス・トレーナー
外資系IT企業、ITベンチャーの創業メンバーとして、システムエンジニア、プロジェクトリーダ/マネージャ、社員育成の企画/運用などに従事。IT業界で10年間働いた後、無農薬・無化学肥料で作る野菜農家になる夢を実現させるため、山梨県へ移住して1年間農家修行を行う。しかし、家庭の事情により農家になる夢を断念しIT業界へ戻る。 社員育成の経験、夢の実現を目指した経験から「充実した人生を創りたい人をサポートしたい」という想いを強く抱き、コーチング、ポジティブ心理学、そしてレジリエンスを学ぶ。現在はIT業界での仕事を続けながら、レジリエンス・トレーナー、ビジネスコーチとして活動。レジリエンスを高めることが折れない心を作ること、さらには夢や目標を達成するためにも大きな効果があると実感し、特にレジリエンス講座の開催に力を入れている。
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感情知能EQでもっと賢く生きていく
本講座では、感情知能(EQ)について知り、感情を日常やビジネスで上手に活用していく能力の獲得を目指します。自分自身の感情はもちろん、他者の感情に関しての認識や自己管理を高め、感情と思考のバランスをとる能力を身につけられます。
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株式会社 感性労働研究所 代表
1982年 株式会社 ジェーシービー入社。会員獲得営業を経て、プレミアム会員専用の電話応対窓口を立ち上げる。人事部で採用と人材育成にたずさわった後、品質管理部長、執行役員コミュニケーションセンター部長。関連会社 ジェーシービー・サービスの代表取締役社長。2013年に独立し、株式会社 感性労働研究所の代表となる。6seconds認定EQプラクティショナー、同SEI EQアセッサー。一般財団法人 女性労働協会 評議員。公益財団法人 日本電信電話ユーザ協会 認定講師。オーデリック 株式会社 社外取締役。株式会社 ライフコーポレーション 社外監査役。
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07まとめ
心理的資本は前向きな心の状態を指す言葉であり、「HERO」と呼ばれる希望・自己効力感・レジリエンス・楽観性の4つの要素で成り立ちます。これは、個人の知識やスキルを最大限に活かし、困難を乗り越えて目標達成を促す「心のエンジン」となるものです。測定・開発ができるものであり、短い時間の取り組みでも従業員の業績向上や高い投資効率につながる可能性があるため、人的資本経営において重要な考え方です。