人材マネジメントとは|課題や具体的な実施手順について解説
人材マネジメントは、人事戦略における重要な取り組みであり、企業の成長には欠かせないものとなります。どのような背景で重要視され、取り組みがなされているのでしょうか。本記事では、人事部門が行う人材マネジメントについて解説していきます。
- 01.人材マネジメントとは
- 02.人材マネジメントの変化が求められている背景
- 03.人材マネジメントの目的
- 04.人材マネジメントを構成する6つの要素
- 05.人材マネジメントの課題
- 06.人材マネジメントの手順
- 07.まとめ
01人材マネジメントとは
人材マネジメントとは、経営戦略を実現するために、採用や育成、評価制度などの手段を用いて、人材を有効に活用していく仕組みのことです。人材マネジメントは、英語でHuman Resource Managementと訳され、HRMと呼ばれることもあります。
人材マネジメントは、1950~1960年代にアメリカで産まれたマネジメント手法です。当時のアメリカは日本の高度経済成長や日米貿易摩擦などで経済力を失いつつありました。そこで、これまでのような労務管理(Personnel Management)を人材マネジメント(Human Resource Management)に変えようという動きが起きたのです。
労務管理と人材マネジメントの違い
労務管理と人材マネジメントの違いを表したものが以下の表です。
領域 | 労務管理 | 人材マネジメント |
タイムスパン | 短期的 | 長期的 |
プランニングに対する視点 | 受動的・その場への制限された範囲での対応 | 能動的・戦略的・能動的な取り組み |
心理的契約 | コンプライアンス | コミットメント |
統制システム | 他者によるコントロール | セルフコントロール |
雇用関係に対する視点 | 集団的・低い信頼度 | 個人・高い信頼度 |
組織構造・システム | 官僚的 機能的・集権的・厳密に規定された役割 |
オーガニック 権限委譲・柔軟な役割 |
実行責任者 | 人事部門 | ラインマネージャー |
評価基準 | コストの最小化 | 人材の最大限の活用 |
▶︎参考:HRMマスターコース人事スペシャリスト養成講座|須田 敏子
人を投資の対象としてみなすという前提が、労務管理と人材マネジメントの決定的な違いです。その前提の中で、統制システムが他者によるものから自分自身で行うものに変化し、評価基準もコストの最小化から人材の最大限の活用へと変化をしていきました。
今後の人材マネジメントの考え方
厚生労働省の調査によると、企業の今後の人材マネジメントの考え方は、内部人材の育成を重視していくと回答した企業が73%という結果となっています。つまり、採用による外部人材の登用よりも、育成による内部人材の活用が人材マネジメントの潮流ということです。
人材流動性が高まっているとはいえ、人口減少が止まらない日本において、人手不足は大きな社会問題となっています。このような中で、採用にコストをかけるのではなく、自社で社員を育成できる体制を作ることが企業に求められているのです。
▶︎参考:厚生労働省|人材マネジメントや従業員の能力に関する企業の考え方について
「研修をしてもその場限り」「社員が受け身で学ばない」を解決!
研修と自己啓発で学び続ける組織を作るスクーの資料をダウンロードする
■資料内容抜粋
・大人たちが学び続ける「Schoo for Business」とは?
・研修への活用方法
・自己啓発への活用方法 など
02人材マネジメントの変化が求められている背景
人材マネジメントの変化が求められている理由について、経済産業省 経済産業政策局 産業人材政策室が2019年に発表した「人材マネジメントの在り方に関する課題意識」の中で、日本型人材マネジメントの前提の変化が要因と述べられています。
同発表の中で経済産業省はグローバル化・デジタル化・少子高齢化という3つの社会背景によって、これまで日本企業の強みとしていた新卒一括採用や終身雇用を前提とした人材マネジメントに歪みが生じ始めていると指摘しています。この章では、これら3つの社会背景について紹介します。
▶︎参考:人材マネジメントの在り方に関する課題意識|経済産業省
1.グローバル化
サービス業や小売業といった内需型産業を含め、幅広い業種で海外売上高比率は増加してきています。後述する少子高齢化の影響もあって、この流れはさらに進むでしょう。人口が増加し続けていた時代は、国内市場だけで企業成長も実現できましたが、人口が減少する日本において世界市場への進出は企業の存続に関わるからです。
また、海外市場での成功には国外の人材も積極的に採用し、企業の多様性を実現しなければなりません。そのためには日本独自の人材マネジメント方式ではなく、グローバル基準の人材マネジメント方式への移行は不可欠と言えます。
2.デジタル化
AIを始めとする情報処理技術の進歩に加え、消費者のニーズが多様化しているため時代の先読みは一層難しくなっています。こうした背景から、企業が必要とする人材像も変化しており高度な専門スキル・知識を持つ「スペシャリスト」が求められる時代となりました。厚生労働省の調査では、従業員の能力について「ある分野に特化したスペシャリストを重視」と答えた企業は49.0%にのぼり、今後さらに伸びていくことが見込まれています。こうした状況の中、企業が求める人材像の変化をし、それに対応した採用、育成を行うために人材マネジメントの重要性が高まっています。
▶︎参考:「人材マネジメントや従業員の能力に関する企業の考え方について」|厚生労働省
3.少子高齢化
日本は継続的に少子高齢化の問題に取り組んでいますが、今なお労働人口が逓減の傾向にあります。そのため、慢性的な人材不足に陥っている企業が多く、今後もその傾向は高くなると予測されています。独立行政法人 労働政策研究・研修機構の調査では、自社の正社員について「大いに不足」「やや不足」と答えた企業の割合は59.7%にものぼり、東京商工リサーチの調べによれば、2019年1~12月で「人手不足」を理由とする倒産件数は426件となっています。
こうした背景から、限られた人材リソースを有効活用し、従業員の生産性を向上させることが企業の課題です。このような課題を解決するために生産性が高く自律的に働ける人材(自律型人材)を育てることを目的とした人材マネジメントに注目が集まっています。
▶︎参考:「多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査(企業調査・労働者調査)」|独立行政法人 労働政策研究・研修機構
03人材マネジメントの目的
人材マネジメントの目的について、オンライン研修サービスSchooのビジネスパーソンとして押えておきたい「人材マネジメント」の基礎という講座で、株式会社壺中天 代表取締役の坪谷氏は以下のように述べています。
人材マネジメントの目的は「人を活かし、短期・長期の組織パフォーマンスを上げること」です。
人事という文字は「人を生かして事を成す」と書きます。人は疲弊しているが組織パフォーマンスを上げている状態や、人は生きているが組織パフォーマンスが下がっている状態ではいけません。人を活かすことと、組織パフォーマンスの向上を両立させることが重要です。
また、学習院大学で教鞭を取られている守島基博氏の著作「人材マネジメント入門」では、人材マネジメントの目的について以下のように整理しています。
守島先生はこのように経営・人・短期/長期という軸で整理をされており、坪谷氏の述べる組織パフォーマンスを経営と捉えれば、全く同じ考えでいると受け取ることができます。
04人材マネジメントを構成する6つの要素
人材マネジメントは、以下の6要素で構成されています。
- 1:採用
- 2:人材育成
- 3:評価制度
- 4:報酬制度
- 5:人材配置
- 6:休職・復職
次に、この構成要素について解説し人事部門が行うべき役割とともに理解することで、より具体的な活動内容を明らかにしていきましょう。
採用
経営戦略を実現するために必要なスキルや能力、経験を有している人材を、長期・短期の視点で思案し、不足している人数を採用で補填します。
採用は自社での育成コストがかからず、即戦力を採用することもできるという利点がある反面で、定常的に人件費が増加するという危険性もあります。しかし、最近では慢性的な人材不足により採用できる人材がいるなら採用しておきたいという考え方も増えてきており、年間を通して採用活動を行っている場合もあります。
人材育成
人材育成も人材マネジメントにおいては有効な手段です。主な手法として、Off-JT(研修)・OJT・SD(自己啓発)があり、これまでは多くの企業が研修とOJTを中心とした人材育成を行なってきました。
しかし、昨今ではスキルが多様化し、キャリア自律も重要視されており、社員が自身で必要なスキルや能力を身につけるSD(自己啓発)に注力する企業が増えています、
評価制度
仕事に対して正しい評価を得られることは、社員のモチベーションや成長意欲につながります。
評価制度に不備があり、社員の不満が高まると離職する人が増え、採用や育成のコストが無駄に発生するという悪循環に陥ります。そのため、評価制度の見直しや改善は人材マネジメントで非常に重要な要素と言えるでしょう。
報酬制度
評価に基づいた報酬は、人材マネジメントの中でも重要な要素です。報酬は自身の仕事に対して、会社から定量で与えられる評価という側面もあります。
報酬に納得がいかなければ、人材流動性の高まった昨今では離職につながる可能性もあるでしょう。そのため、報酬制度の透明性を担保すると同時に、社員が納得するように適切なフィードバックができるような管理職の育成も同時に必要です。
人材配置
従業員の適性に合わせた、部署異動、職種転換、出向なども人材マネジメントには欠かせません。自身の適正に沿った仕事をすることは、本人のやる気や能力を伸ばすことにつながります。
組織としても、社員の生産性が高まり、エンゲージメントの向上も期待できるでしょう。配属先や異動部署を決める際には、人材のスキルや特性、周囲との人間関係を考慮してきめていく必要があります。
休職・復職
病気や怪我、出産・育児をはじめライフステージが変化した際などに、適切な休暇を設ける必要があります。
社員にとっては必要なタイミングで休むことができるだけではなく、スムーズに復帰できる環境があることは安心につながります。そのため、復職者に対しての支援やオンボーディングに注力する企業も増えてきています。
05人材マネジメントの課題
人材マネジメントにおいて、半数以上の企業が課題として挙げているのが以下の4つです。
- ・次世代の経営を担う人材が育っていない:55.2%
- ・新人・若手社員の立ち上がりが遅くなっている:51.9%
- ・中堅社員が小粒化している:51.1%
- ・ミドルマネジメント層への負担が過重になっている:55.2%
この結果を見るに、人材育成に課題を感じている企業が多いということがわかります。それも、新人や若手だけでなく、中堅社員から管理職まで全ての階層で育成が不十分という事態となっているのです。
そして、新人から中堅社員までの育成を担う管理職の負担が大きくなっていることも課題として認識しています。そのため、まずは管理職の負担を軽減し、部下を育成できる余白を組織として作る必要があるようです。
▶︎引用:人材マネジメント実態調査2021
「研修をしてもその場限り」「社員が受け身で学ばない」を解決!
研修と自己啓発で学び続ける組織を作るスクーの資料をダウンロードする
■資料内容抜粋
・大人たちが学び続ける「Schoo for Business」とは?
・研修への活用方法
・自己啓発への活用方法 など
06人材マネジメントの手順
人材マネジメントを実施する手順について解説していきます。人材マネジメントを行うには、どのようなことをどの段階で行うべきなのでしょうか。人材マネジメントは簡単に行えるものではありませんが、ステップを踏み確実な実施を心掛けていきましょう。
経営課題の整理
最初に行うのは経営課題の整理です。人材面で最も大きな課題はなんであるのか。それに対応する方法があるかなどについて整理を行います。既に何かしらの施策を講じている場合には、その結果を待つことが得策な場合もあります。最も大きな課題が人材不足であるのか、離職率であるのかなどを分析し課題の整理を行うことが必要です。
必要な人材像の定義
次に、必要な人材像の定義を行います。不足している人材の人材像、新しく必要となる人材像など、必要なポジションにより人材像は異なります。どこの部署に、何人の人材が必要であり、その人材像はどのような特徴を持っているかを整理し定義します。ここで定義する人材像が誤ってしまうと、人材確保の方法や人材獲得後のアンマッチを起こしてしまうため慎重に定義付けを行っていきましょう。
人材獲得計画の立案と実施
必要な人材像の定義が終われば、人材獲得計画を立案します。新規に採用するのか、人材育成をして育てるのかや異動による確保など、獲得する方法を立案することになります。全てにおいて、必要となる計画書を立案し実行を行っていきます。人材の確保は容易ではありませんが、人材像の定義をしっかり行っておくことで、確保後のアンマッチを抑制することが可能です。
PDCAサイクルの展開
人材マネジメントは絶えず行う必要があります。そのため、一度行った計画はPDCAサイクルで回し見直しを図りながらブラッシュアップしていきます。このPDCAを回すことで、自社の人材マネジメントのあり方について見直しを行うことができ、自社にマッチした方法を確立することができます。
07まとめ
本記事では、人事部門が行う人材マネジメントをキーワードに解説をしています。最大の経営資源である人材を確保する方法や管理をする上で必要となる概念を解説していますので、本記事を参考に自社における人材マネジメント手法を確立していきましょう。
「人材マネジメント」について -理論と実践のツボ-
本授業では、「人材マネジメント」について解説します。 いまさら聞けない「人材マネジメント」の言葉の意味や目的、効果的な方法、今後のマネジメントを皆さんで学んでいきましょう。
-
株式会社壺中天 代表取締役
1999年、立命館大学理工学部を卒業後、エンジニアとしてIT企業(SIer)に就職。2001年、疲弊した現場をどうにかするため人事部門へ異動、人事担当者、人事マネジャーを経験する。2008年、リクルート社で人事コンサルタントとなり50社以上の人事制度を構築、組織開発を支援する。2016年、急成長中のアカツキ社で人事企画室を立ち上げる。2020年、「人事の意志を形にする」ことを目的として壺中天を設立。 20年間、人事領域を専門分野としてきた実践経験を活かし、人事制度設計、組織開発支援、人事顧問、人材マネジメント講座などによって、企業の人材マネジメントを支援している。 主な著作『人材マネジメントの壺』(2018)、『図解 人材マネジメント入門』(2020)など。
「人材マネジメント」について -理論と実践のツボ-を無料視聴する
※研修・人材育成担当者限定 10日間の無料デモアカウント配布中。対象は研修・人材育成のご担当者に限ります。