社会的学習理論(モデリング理論)とは?具体例や企業での活用について解説

社会的学習理論は、人が他者の行動やその結果を観察し、そこから学ぶ過程を説明する心理学理論です。なかでも中核概念である「モデリング」は、職場でのOJTや研修のように、手本となる行動を見て学ぶ場面と親和性があります。企業の人材育成でも、学習者は単に模倣するのではなく、「何に注目するか」「どう記憶するか」「再現できるか」「実行する動機があるか」といった過程を通じて行動を身につけます。本記事では、バンデューラの理論の基本、有名な実験、そして企業研修での活用法やメリット、注意点を具体例とともに解説します。
01社会的学習理論(モデリング理論)とは?
社会的学習理論は、人が他者の行動とその結果を観察することで学習が成立すると説明する心理学理論で、アルバート・バンデューラが主著『Social Learning Theory』(1977年)で体系化しました。また「モデリング」とは、人が他者の行動等から学ぶプロセスを指し、社会的学習理論の中核となる概念です。
この理論の中核にある「観察学習」は、以下の4段階を経るとされます。
- ・1. 注意(Attention):モデルとなる行動に関心を向ける
- ・2. 保持(Retention):観察した行動を記憶として保持する
- ・3. 再生(Reproduction):保持した内容を実際の行動として再現する
- ・4. 動機づけ(Motivation):再現した行動を継続するための動機を持つ
直接経験に頼らず、他者の行動を介して学習が成立する点が、この理論の重要な特徴です。
▶︎参考:Bandura, A.「Social Learning Theory」(1977)
従来の考え方(行動主義)との違い
社会的学習理論の特徴は、「行動主義」との対比で理解しやすくなります。行動主義は、20世紀前半の学習研究において有力だった立場の一つで、学習を「観察可能な行動の変化」と捉え、環境からの刺激や強化によって行動が形成されると考えました。これに対し、社会的学習理論は、他者の行動やその結果を観察し、それを認知的に処理することで学習が成立するという視点を加えました。これにより、自分が直接報酬や罰を受けなくても他者の経験から学ぶことのメカニズムが説明可能になりました。なお、社会的学習理論は行動主義を否定するものではなく、行動主義だけでは説明が難しい多様な学習のパターンを補完する立場であると捉えると良いでしょう。
社会的学習理論の具体例
ボボ人形実験
社会的学習理論を実証した代表的研究が、バンデューラらが1961年に行った「ボボ人形実験」です。実験は、スタンフォード大学附属幼稚園に通う3〜6歳の幼児72名を対象に、攻撃モデル群・非攻撃モデル群・コントロール群の3群に分けて実施されました。攻撃モデル群の子どもが大人のボボ人形への攻撃的行動を観察した後、他の2群と比べて攻撃的行動を多く示しました。この結果は、人は直接報酬や罰を受けなくても、他者の行動を観察することで新しい行動を学びうることを示す代表的な証拠として位置づけられています。
企業における具体例
ビジネス現場でも、観察学習の4段階は日常的に観察できます。新入社員が先輩の顧客対応や電話応対から学んでいく場面を例に取ると、先輩の振る舞いに注意を向け(注意)、対応の流れや方法を記憶し(保持)、言い回しや立ちふるまいを真似てみる(再生)、よいフィードバックを得て次もやってみようと思う(動機づけ)という4段階が確認できます。特に動機づけの段階で重要なのが「代理強化(vicarious reinforcement)」です。先輩が顧客や上司から評価される場面を観察すると、自分が直接報酬を得なくとも「あのやり方を真似れば自分も評価されうる」と感じ、行動意欲が高まります。
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02社会的学習によるメリット
社会的学習は、観察や模倣を通じて効率的に学びを深める方法であり、理解の定着や実践力の向上、意欲の喚起といった効果が期待できます。
記憶に残りやすく定着しやすい
観察学習は、他者の実演や具体的な手本を通じて、抽象的な説明だけでは伝わりにくい行動のニュアンスまで理解しやすい点に特徴があります。学習者は手本となる行動に注意を向け、それをイメージや言語として記憶にとどめます。例えば、マニュアルを読んでも理解しづらかった作業フローが、先輩社員の実演を見ることで把握しやすくなる、といった場面がこれに当たります。
他者からのフィードバックで改善サイクルが速くなる
社会的学習は学びに「他者」が介在するため、学習過程で指摘や助言を得やすい傾向にあります。自分の行動に対して第三者からのフィードバックを得ることは、改善点を即座に把握し、次の行動に反映するために効果的な要素です。こうしたやり取りを通じて、スキルの習得や行動の改善が進みやすくなることが期待できます。
モチベーション向上につながる
観察の対象が自分に近い立場や属性を持つと感じられる場合には、「自分にもできるかもしれない」と捉えやすくなります。例えば、身近な同僚や友人が新しいツールを使いこなしていれば、「この人にできるなら、自分にもできるかもしれない」と感じやすいでしょう。このように、ある行動を自分にも遂行できそうだと感じる認知は、自己効力感と関わります。自己効力感は行動への意欲や継続を支える要因の一つであるため、社会的学習には、身近な人の行動を観察することを通じて、自身のモチベーションを高めやすくする側面があると考えられます。
03企業での人材育成に活かす具体的方法
企業における人材育成では、他者との関わりを通じて学ぶ仕組みづくりが求められます。特に、社会的学習理論に基づく「モデリング」「ピアラーニング」「メンタリング」は、効果的な学習支援の手法として注目されています。
モデリング(観察学習)
モデリングは、他者の行動や思考を観察し模倣することで学ぶ方法です。先輩社員の営業同行、熟練技術者の業務動画の共有、エンジニアのライブコーディング視聴など、実務に即した形で展開できます。導入時に躓きやすいのは、優秀な人材を「見せる」だけで学習が成立すると期待してしまう設計です。観察ポイントを言語化した「観察フレーム」を学び手に渡し、観察と振り返りをセットで設計することが有効です。
ピアラーニング
ピアラーニングは、仲間同士が互いに教え合う学習手法です。企業での具体例としては、全員で同じ動画講座を視聴後、意見交換や気づきを共有するワークショップ形式や、持ち回りで勉強会を開く形式などが考えられます。こうした場では、知識を言語化してアウトプットし、他者からフィードバックを得ることで、理解が深まりやすくなります。階層や部門を越えて学び合うことで、多様な視点に触れやすくなることも期待できます。
▶︎関連記事:ピアラーニングとは|仲間とともに主体的な学びを実現する方法を考察
メンタリング
メンタリングとは経験豊富な社員(メンター)が対象者(メンティー)に対して、成長支援を行う制度です。Schoo for Businessの授業『後輩・部下と話すとき、"メンター視点"足りてる?』では、メンターの役割を「ロール/パーツモデル」と紹介しており、メンターは失敗や挫折を含め、助言や経験シェアを行うと解説しています。つまりメンタリングには、メンターの経験や行動から学ぶ社会的学習の要素があると言えるでしょう。観察、対話、フィードバックを通じて、実務スキルだけでなく仕事への姿勢や思考様式まで学べる点が特徴です。
04社会的学習を実践する際の注意点
社会的学習を組織に取り入れる際に見落とせないのが、「観察された行動はポジティブもネガティブも区別なく学習されうる」という性質です。バンデューラのボボ人形実験そのものが攻撃的行動の模倣を実証した研究であり、望ましくない行動も模倣の対象になりうることは、理論の標準的な含意として知られています。
たとえば上司が部下に非協力的な対応を続ければ、それを観察した他のメンバーも同様の振る舞いを内面化し、組織全体のコミュニケーション様式に影響が及ぶ可能性があります。このリスクを抑えるには、「良い行動を見せよう」という心がけだけでは不十分で、ロールモデル候補者に求める行動を明文化する、上司層に「観察される側」としての自覚を促す研修を行う、360度フィードバックなどを活用してネガティブな行動傾向を把握しやすくする、といった仕組みを設計しておくことが重要です。
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・自己啓発への活用方法 など

05学習する組織をつくるならSchoo for Business
オンライン研修/学習サービスのSchoo for Businessでは約9,000本の講座を用意しており、DXほか様々な種類の研修に対応しています。
| 受講形式 | オンライン (アーカイブ型) |
| アーカイブ本数 | 9,000本 (新規講座も随時公開中) |
| 研修管理機能 | あり ※詳細はお問い合わせください |
| 費用 | 1ID/1,650円 ※ID数によりボリュームディスカウントあり |
| 契約形態 | 年間契約のみ ※ご契約は20IDからとなっております |
人材育成に関連する講座を紹介
この章では、オンライン研修サービスSchooの講座から、人材育成に役立つ講座を紹介します。
社員研修のあるべき姿
この授業では、社員研修の必要性や役割について、インストラクショナルデザイン(ID)を軸に基本的な考え方を学びます。人事部社員や研修担当者を対象とし、「何のために社員研修を行うのか」「研修の役割と担当者としての立ち位置」など、研修の根本を問い直すことを目的としています。
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熊本大学教授システム学研究センター 教授
1959年生まれ。Ph.D.(フロリダ州立大学教授システム学専攻)。ibstpi®フェロー・元理事(2007-2015)、日本教育工学会監事・第8代会長(2017-2021)。主著に「学習設計マニュアル(共編著)」「研修設計マニュアル」「教材設計マニュアル」などがある。
※研修・人材育成担当者限定 10日間の無料デモアカウント配布中。対象は研修・人材育成のご担当者に限ります。
なんとなく学んでいないのメカニズム
不確実性の高い時代に、組織内でリスキリングを実践し、それを業務で活用できる仕組みについて学びます。日本人の「学び」への反応が薄いという課題を背景に、学びとキャリアが直結していることを自覚し、組織開発を考えられるようになることがゴールです。
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株式会社パーソル総合研究所 上席主任研究員
上智大学大学院 総合人間科学研究科 社会学専攻 博士前期課程 修了。NHK放送文化研究所に勤務後、2015年よりパーソル総合研究所。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。著作に『リスキリングは経営課題』(光文社)など多数。
※研修・人材育成担当者限定 10日間の無料デモアカウント配布中。対象は研修・人材育成のご担当者に限ります。
研修の組み立て方 ‐ 設計・実施・評価
この授業では、研修の設計から実施、評価までの一連の組み立て方を学びます。既存の研修を見直し、自社に適したより良い内容に変えていきたいと感じる研修担当者の方におすすめの内容です。インストラクショナルデザイン(ID)をベースに、ヒューマンパフォーマンスインプルーブメント(HPI)とプロジェクトマネジメント(PM)の考え方を掛け合わせたビジネスインストラクショナルデザイン(BID)を基に学習を進めます。
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サンライトヒューマンTDMC株式会社 代表取締役社長
熊本大学大学院 教授システム学専攻 非常勤講師。製薬業界での営業、トレーニング部門を経て、起業。HPIやIDを軸とした企業内教育のコンサルティングやインストラクショナルデザイナー、インストラクターを育成する資格講座の運営を行っている。IDの実践方法を提供してきた会社は100社、4,000名を超える。主な著書:『ビジネスインストラクショナルデザイン』(中央経済社、2019年)
※研修・人材育成担当者限定 10日間の無料デモアカウント配布中。対象は研修・人材育成のご担当者に限ります。
06まとめ
社会的学習理論は、観察と模倣を通じて効率的かつ実践的にスキルや行動を獲得できる枠組みであり、新入社員の育成からマネージャーの指導まで幅広く応用できます。一方で、望ましくない行動も同じメカニズムで学習されうるため、ロールモデルの選定とフィードバックの設計が運用上の鍵となります。本記事で紹介したモデリング・ピアラーニング・メンタリングは、いずれも「誰の・どの行動を・どう観察するか」を設計することで効果が高まります。最初の一歩としては、まずモデリングの対象となる優秀人材の行動を観察ポイントとして言語化し、そこにピアラーニングでの相互フィードバックやメンタリングでの継続的な対話を組み合わせていく流れが取り組みやすいはずです。


