更新日:2025/12/14

インテグラル理論とは?4象限モデルの定義や5つの構成要素、学ぶメリットをわかりやすく解説

インテグラル理論とは?4象限モデルの定義や5つの構成要素、学ぶメリットをわかりやすく解説 | オンライン研修・人材育成 - Schoo(スクー)法人・企業向けサービス

インテグラル理論は、米国の思想家ケン・ウィルバー提唱の「万物の理論」です。これは、「統合的」という意味を持つ「インテグラル」の概念に基づき、人間・組織・社会を包括的に捉えて、課題解決に役立てる考え方です。本記事では、インテグラル理論の4象限や5つの構成要素について詳しく紹介します。

01インテグラル理論とは?

インテグラル理論とホールネス編

インテグラル理論は、トランスパーソナル心理学者であり文明思想家のケン・ウィルバーによって提唱された、人間と世界を包括的に捉えるための理論です。関連する代表的著作として「万物の理論(A THEORY OF EVERYTHING)」があります。

Schoo授業『自律的組織を目指した組織開発において必要なこと』に登壇する松田光憲先生(株式会社オズビジョンCOO)は、インテグラル理論を「人・組織・社会・世界の全体像をより正確につかむフレームワーク」と紹介しています。このあとに詳細を紹介しますが、理論をごく簡単に説明すれば、物事を「個人・集団」「内面・外面」の2軸による4象限で捉える視点と、人間の意識や価値観の発達段階を階段モデルとして整理する視点を提示しました。

ケン・ウィルバーがインテグラル理論を大成させるに至る背景には、彼自身の「Everybody is right(みんな部分的には正しい)」という信念があると言われています。人間社会では例えば宗教の違いや、保守・リベラルといったイデオロギーの違いによって、しばしば分断が発生します。ウィルバーは、どちらか一方が唯一の正解なのではなく、それぞれが重要な部分的真理と限界を併せ持つという前提に立ちました。そのうえで、互いに正しく、かつ不完全でもある多様な立場を一つの枠組みの中に位置づけ直し、統合的に理解するための理論としてインテグラル理論を発展させてきたと理解されています。

▶︎参考:Ken Wilber|Wikiquote

統合的視点の意味

インテグラル理論の根底にある「統合的視点(integral perspective)」とは、世界に存在するさまざまな現象を1つの視点で理解するのではなく、できるだけ多くの視点・レベル・要素を同時に含めて理解しようとする考え方です。

例えば「社員のエンゲージメント低下」という状況があった場合、これを「エンゲージメント低下=マインドセットが不十分」と捉えるのは、1つの側面にしか注目していない見方です。統合的な視点からは、「仕事に意味付けできているのか」といった個人の内面、残業時間や業務負荷などの労働環境、失敗した人を責める傾向があるなどのチーム文化、評価報酬制度といった会社の仕組みなど、多角的な視点で事象を捉えます。このように多角的視点に立つことで、より本質的な課題を見出し、有効な打ち手を打とうという考え方です。

インテグラル理論はなぜ注目されているのか?

特に日本においてインテグラル理論が注目されるようになった背景の1つに、『ティール組織』が話題になったことが挙げられます。ティール組織とはインテグラル理論などの発達理論を応用した組織論であり、組織を「独自の生命をもった生き物」のように捉え、人と同じく発達していくものと捉えます。

現代社会は複雑化しており、状況を丁寧に紐解いて理解しなければ、本質的な問題解決が難しいと言われています。そして企業経営においても、目に見える成果だけでなく、組織文化や個人の内面的な成長まで視野に入れた運営が求められています。こうした背景から、「ティール組織」は組織の発達段階を明確に整理し、組織課題の定義に役立つ枠組みとして注目されました。そこから、ティール組織の背景理論となったインテグラル理論についても関心が高まるようになったのです。

▶︎関連記事:ティール組織とは?メリットや他社事例をわかりやすく紹介

成人発達理論やティール理論との関係性

成人発達理論とは「個人の意識がどう成長するか」を研究する理論であり、ティール理論とは上でもご紹介した通り、それらの考え方を組織に適応した「組織の発達段階」を捉える理論です。かつて心理学の領域では「人の成長は成人を目処におおむね止まる」と見なされることが少なくありませんでした。しかし成人発達理論は、成人後も「器が大きくなる」「視野が広がる」といった成長が見られることを示しました。

インテグラル理論では、事象を多角的に捉えるための視点に加え、それを理解する主体としての人間の発達段階を整理しています。子どもの頃は理解できなかった世の中の仕組みが、大人になるとより解像度高く理解できるようになった、という経験を持つ人も少なくないでしょう。どれだけ分析のフレームが明示されていても、それを使う側の視野や知性の発達が伴っていなければ物事を包括的に理解するのは困難です。その観点からも、成人発達理論はインテグラル理論を支える中核概念の1つだと言えるでしょう。

 

02インテグラル理論を構成する5要素

インテグラル理論を構成する5要素は、以下のとおりです。

  • 1:真善美と4象限
  • 2:レベル(発達段階)
  • 3:ステート(意識)
  • 4:ライン
  • 5:タイプ

ここでは、それぞれの要素について詳しく紹介します。

1:真善美と4象限

インテグラル理論とホールネス編

インテグラル理論が世界を多角的かつ統合的に捉える枠組みとして提供しているのが、「真善美」と「4象限」の視点です。Schoo授業『Day3:インテグラル理論とホールネス編』では、真善美を以下のように紹介しています。

  • ・真:科学によって研究される客観的な事実の領域
  • ・善:道徳や倫理として共有される間主観的な合意の領域
  • ・美:芸術によって喚起される主観的な経験の領域

難解に聞こえますが、言い換えると「客観(It)」「間主観・文化(We)」「主観(I)」の3つの視点を意味します。そして四象限とは、真善美の視点に基づき物事を「個人の内面」「個人の外面」「集団の内面」「集団の外面」の四象限で捉えることを指し、インテグラル理論における重要なフレームワークに位置づけられます。

内面・個人(私)

四象限における「個人の内面」とは、個人の主観的な意識や感情の領域で、「美」の視点に当てはまります。例えば上で挙げた「従業員のエンゲージメントが低い」という問題について、「個人的な内面」から捉えてみましょう。目を向けるのは人の感情や考え、意味づけなどの心の中です。この視点から見いだせる課題としては「従業員が業務に意義を感じられていない」「会社のミッションに共感できていない」などが挙げられます。

外面・個人(それ)

四象限の「個人の外面」とは、個人の客観的に観察・測定可能な行動やパフォーマンス、身体や脳の状態などであり、「真」の視点に当たる領域です。「従業員エンゲージメントが低い」という問題をこの視点から捉えると、「残業時間が多くなっている」「会議での発言が少なく、表情も暗い」といった事実に着目します。そこから「労働負荷が高く、高ストレス状態にあるのではないか」といった仮説を導くことが、この象限の典型的な見方です。

内面・集団(私たち)

四象限の「集団の内面」の視点とは、ある人々の間で共有された文化、価値観、世界観など、集団の主観的な領域を指し、真・善・美の「善」の視点に当てはまります。「従業員エンゲージメントが低い」という問題をこの視点から見る場合、組織やチーム内で共有されている価値観、雰囲気、暗黙のルールなどに着目します。そこから見えてくる課題としては、「失敗に対して不寛容な空気になっており、心理的安全性が低いのではないか」などが挙げられます。

外面・集団(それら)

四象限の「集団の外面」とは、組織構造、システム、社会制度など、集団を取り巻く客観的に観察・測定可能な領域です。ここも、真・善・美の観点からは「真」の視点に当たります。「従業員エンゲージメントが低い」という問題について「集団の外面」の視点から捉えると、「縦割りの組織構造になっている」「一度配属が決まると部門を超えた異動の仕組みがない」などに着目します。そこから、「部門をまたぐコミュニケーションが少なく、孤立を感じやすいのでは?」「部門をまたぐ異動がないことが、キャリアの閉塞感につながるのでは?」といった課題を見出すことができます。

2:レベル(発達段階)

レベルとは、インテグラル理論における人の発達段階、特に世界観や自己理解の複雑さ・成熟度を指す言葉です。インテグラル理論の背景には、人の認知や自己認識の枠組みは成人以降も発達し続けるとする成人発達理論があります。段階の分け方は諸説ありますが、ここでは便宜的に8色での分類についてご紹介します。

なお必ずしも、「あなたの発達段階は◯◯」のように、1人につき1つの色(段階)が決まっている、というものではありません。1人の中にさまざまな段階・性質が側面として混在していて、「全体としてはこのあたりの段階に重心がある」人が、状況に応じて異なる段階の性質を発揮する場合もあります。

インテグラル理論

以下で、それぞれの色がどのような状態を表現しているのか詳しく説明します。

インフラレッド(Infrared)

インフラレッド(Infrared)は「古代的-本能的」段階を表現します。基本的な生存活動に焦点を当て、食事や睡眠といった本能的な欲求が最優先されます。生命維持と生き残りを目的とする段階です。

マゼンタ(Magenta)

マゼンタ(Magenta)は、呪術的・アニミズム的な段階です。精霊や神秘的な存在を信じ、呪術的な信念やタブーに基づいて物事を決めます。

レッド(Red)

レッド(Red)は、力と支配を重視する段階です。自己中心的で衝動的な振る舞いが目立ち、「強い者が勝つ」「言うことを聞かせる」ことを通じて自分の力を感じようとします。対話やルールよりも、威圧・攻撃・短期的な利益で物事を解決しようとする傾向が強く表れます。

アンバー(Amber)/ブルー

アンバー(Amber)は、「神話的秩序」の段階を表現します。これは、「唯一の正しい考え」に基づき、宗教や法律、秩序といった厳格な規範に従う段階です。

オレンジ(Orange)

オレンジ(Orange)は、科学的・合理的思考を重視し、自然法則に基づいた成果や効率性を追求する段階です。多くの先進国の人々の中で、この段階の価値観が強く見られます。

グリーン(Green)

グリーン(Green)は、多様性や多文化主義を重視し、温かな感情と思いやりにあふれる段階です。世界に調和をもたらし、人間や地球の潜在的可能性の拡張を目指します。

ティール(Teal)

ティール(Teal)は、複数の視点を俯瞰し、統合的に扱える段階です。さまざまな視点や利害を踏まえて、より包括的な解決策をデザインできます。また、ケン・ウィルバーはティール以降の段階(ティールとターコイズ)を、さまざまな視点を統合的に扱える段階として「第二層」、それ以前の段階を「第一層」と区分しています。

ターコイズ(Turquoise)

ターコイズ(Turquoise)は、「全体的(ホリスティック)」な段階を表現します。この段階では、四象限の視点を自覚的に扱えるに留まらず、世界全体を広い視野で捉えます。ティール以上に視野が広く、自分・他者・組織・社会といった領域を超え、地球規模・宇宙規模で物事を捉えます。そして、自分を含む世界全体を1つのダイナミックな「生きた全体」として感じられるのが、ターコイズの意識の特徴だとされています。

3:ステート(意識)

インテグラル理論におけるステート(意識)は、ある一定時間だけに起こる「意識の状態」を指す言葉です。具体的には、自然発生的なステートとして「目覚めている状態」「夢を見ている状態」「夢のない深い眠りの状態」の3つがあります。またこれには、瞑想状態、スポーツでのゾーン状態、薬物使用など、人の行為によって引き起こされる意識状態も含まれます。

4:ライン

インテグラル理論におけるラインは、個人の多様な能力や知性の「発達の道筋(ライン)」を指します。具体的には、人の発達には知性・感情・道徳性・芸術性・対人関係・身体能力など、さまざまな側面があります。そして人間はすべての側面が同時かつ均一に発達するわけではなく、特性や環境に応じて、それぞれの側面が異なるペースで成長していきます。たとえば、論理的思考は優れているが対人関係が苦手、あるいは芸術的センスはあるが倫理的判断が未熟といったように、人によってそれぞれのラインは異なります。これらを統合的に理解することが重要です。

5:タイプ

インテグラル理論におけるタイプとは、個人や集団がもつ比較的安定した傾向やスタイルを指します。これは発達段階(レベル)とは別軸の「横の分類」であり、どの段階においても現れうる、変わりにくいパターンです。たとえば、MBTIやエニアグラムのような性格類型、男性性と女性性のバランスといったジェンダー的な傾向、文化的背景による志向の違いなどが「タイプ」に含まれます。

 

03インテグラル理論を学ぶメリット

インテグラル理論は、人事担当者やマネージャーにとって、人と組織の関係を読み解くための実用的なフレームワークとして活用できます。上でご紹介した「従業員エンゲージメントの低下」の分析例のように、「四象限」を使えば、個人の内面・個人の外面・集団の内面・集団の外面という4つの視点から課題を整理できます。

また「発達段階(レベル)」は、社員や組織の状態を理解するのに役立ちます。たとえば「ルールは遵守するが柔軟性に欠ける」社員がいた場合、この人のこの側面は「アンバー」的な性質が色濃く表れているのだな、などと捉えることができるでしょう。そこに「ライン(発達の道筋)」や「タイプ(変わりにくい特性)」も合わせて観察すれば、一人ひとりの違いをより深く理解できます。

このようにインテグラル理論は、物事を多角的な視点で検証し、目に見える問題だけでなくその裏にある背景までを含めて捉えることに役立ちます。結果として、組織をより良い方向へ導きやすくなるでしょう。


 

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    1977年生まれ 千葉県船橋市出身 中小企業診断士 MBA in Innovation Management 大学卒業後、システムエンジニアからスタートしたキャリアが、上場準備を契機に管理部門へシフト。その後2社で2度のIPOを経験。 社会人大学院の修了に合わせて組織開発の実践の場を求め『ティール組織』に日本企業で唯一紹介された株式会社オズビジョンに参画。取締役COOとして事業と組織の統合を推進。

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05まとめ

インテグラル理論は、ケン・ウィルバーが提唱した、世界を包括的に理解するためのフレームワークです。世界で起きるあらゆる現象を、四象限、発達段階(レベル)、ステート、ライン、タイプという5つの視点から整理します。人や組織、社会がどう成長していくかを示すモデルとしても知られています。人事担当者やマネージャーにとっては、人と組織の関係を読み解き、職場をより良くしていくために役立てられるでしょう。

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この記事を書いた人
Schoo編集部
Editor
Schooの「世の中から卒業をなくす」というミッションのもと活動。人事担当や人材育成担当の方にとって必要な情報を、わかりやすくご提供することを心がけ記事執筆・編集を行っている。研修ノウハウだけでなく、人的資本経営やDXなど幅広いテーマを取り扱う。
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