マネジメントコントロールとは?目的、種類、上手く進めるコツを解説

マネジメントコントロールは、組織の目的達成のために、リソースを効果的かつ効率的に動かす仕組みのことです。具体的には組織戦略を適切なKPIに落とし込み、予算を編成・管理し、社員のモチベーションと生産性を向上させる制度設計や施策を打つなど、さまざまな活動が含まれます。本記事では、マネジメントコントロールの目的、種類、上手く進めるコツを解説します。
01マネジメントコントロールとは?
マネジメントコントロールは、経営目標の達成にむけて資源(ヒト・モノ・カネ)が有効かつ効率的に活用されるように、予算配分や業績管理を通じて行動を方向づける総合的なプロセスです。管理会計の分野で著名なRobert N. Anthony教授(ハーバード・ビジネス・スクール)が、経営管理システムにおける概念として確立しました。企業には、大きな目標に向けた戦略、そしてそれを日々の具体的な業務に落とし込むオペレーションが存在しますが、マネジメントコントロールは両者をつなぐ役割を担います。
▶︎参考:新江 孝「マネジメント・コントロール概念の変容」『商学研究』第36号
ガバナンスとマネジメントコントロールの違い
マネジメントコントロールと近い概念として、コーポレート・ガバナンスがあります。ガバナンスとは、取締役会を中心に経営を監督するとともに、企業の目的・方向性を定め、その達成状況をモニタリングし、説明責任と透明性を確保するための枠組みを指します。
マネジメントコントロールとガバナンスは、いずれも企業が持続的な成長の実現に向けて、効果的に活動できるよう制度や仕組みを整えるという点で共通しています。一方でガバナンスが主に取締役会による経営の統治・監督を担うのに対し、マネジメントコントロールは、戦略を日々の業務に落とし込むために、予算・KPI・評価/報酬や人材施策などを通じて社内の行動を方向づける「実行の仕組み」であるという違いがあります。
02マネジメントコントロールを実施する目的・期待効果
マネジメントコントロールを実施する具体的な目的・期待効果は、主に以下の4つがあります。
- ・目標達成の確実性を高める
- ・経営資源を有効かつ効率よく使う
- ・社員のモチベーションと生産性を上げる
- ・組織の方向性をそろえる
それぞれについて詳しく紹介します。
目標達成の確実性を高める(最終目的)
マネジメントコントロールを実施する最大の目的は、目標達成の可能性を高めることです。いかに優れた戦略も、それが実行に落とし込まれなくては絵に描いた餅となってしまいます。戦略の実現に向けて予算配分や人員配置を決め、事業計画とKPIを設計し、それを高い精度で実行するためのチーム運営や時々の軌道修正があってこそ、戦略ははじめて現実のものとなります。
経営資源を有効かつ効率よく使う
限られた経営資源をいかに有効かつ効率よく使うかは、企業のパフォーマンスを左右する重要な要素であり、マネジメントコントロールの主要な目的の一つに当たります。特に現代はテクノロジーの発展や情報の流通が速く、企業を取り巻く環境は日々変化していきます。そのため、業績管理を通じて常に現状を的確に把握する仕組みを作るとともに、変化に合わせて柔軟に予算配分や人材配置を変更し、変化に対応していくことが求められています。
社員のモチベーションと生産性を上げる
伝統的なマネジメントコントロールの解釈としては、予算管理や業績の予実管理に代表されるように、会計を中心とした計数管理と、目標設定・測定・比較・是正というサイクルに基づく、フォーマルな仕組みに重心が置かれてきました。しかし組織は人で成り立つことを踏まえると、それらを定量的に管理すれば戦略が達成できるのではなく、そこで働く人のパフォーマンスが最大限発揮されることが重要です。そのような観点から、現代的なマネジメントコントロールでは経営理念や人事制度などより広い範囲を扱い、社員のモチベーションや生産性向上も、企業目標を達成するうえでの重要なレバーの一つに位置づけられます。
▶︎参考:新江 孝「マネジメント・コントロール概念の変容」『商学研究』第36号
組織の方向性をそろえる
マネジメントコントロールは「戦略と実行を結びつける仕組み」であり、組織全体の方向性をそろえるということも主要な期待効果のひとつです。マネジャーが共通の目標を設定し、経営理念や組織文化(信念・価値観)を組織全体に浸透させることで、組織の方向性を統一できるのです。これにより、部門間の連携が進み、組織全体で目標に向けた協働が生まれやすくなります。
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03マネジメントコントロールの主要な手法と特徴
ここまで見てきたように、マネジメントコントロールにはさまざまな企業活動が含まれます。ここではさらに概念に対する理解を深めるために、経営学者のKenneth Merchant が提唱した「オブジェクト・オブ・コントロール」のフレームワークに沿って、マネジメントコントロールの手法について解説します。
「オブジェクト・オブ・コントロール」とは、マネジメントコントロールを「何を管理の対象とするか」で分類する考え方です。Merchantは結果・行動・人的・文化の4つの分類を提起しましたが、実務では採用・育成(人的)と価値観・規範(文化)がセットで設計されやすいため、本稿ではそれらをまとめて「環境コントロール」として解説しています。
結果コントロール
結果コントロールとは、最終的な成果目標を設定し、「何を達成したか」で管理する手法です。この手法の特徴は、「結果が出ている限りプロセスは問わない」という点にあり、目標に対する具体的な達成手段は従業員に任せるスタイルです。売上管理や利益目標、KPI(重要業績評価指標)を用いた予実管理などがこれにあたります。
この手法は従業員の当事者意識を高め、モチベーション向上に繋がる特徴を持ちます。一方で「やり方は問わない」という傾向から、短期的な目標達成に目が向きすぎると、不正の発生や長期的な視点の欠如を招く可能性があります。
行動コントロール
行動コントロールとは、従業員が同じ成果を出せるよう、業務プロセスや行動を管理して標準化する手法です。結果コントロールが最終成果に着目していることに対し、行動コントロールでは「正しいプロセス」に着目するのが特徴です。具体的には、業務フローやマニュアルの整備、承認ワークフローの整備を通じ、取るべき行動や手順を明確に規定することが挙げられます。
行動コントロールは業務遂行におけるミスやトラブルを減らし、業務品質の安定化に役立ちます。また業務の属人化を防ぐという側面もあるため、ジョブローテーションや離職が発生した場合でも組織のパフォーマンスを安定させることができます。一方で上司によるルール設計・監督がベースになるため、マネジメントコストの増大や、社員の自発性を阻害する可能性があります。
環境コントロール(人的+文化)
環境コントロールとは、人材採用や育成、組織の文化醸成を通じて、組織力を向上させる手法です。具体的には、ミッション・バリューの設定と浸透、人材要件の策定、選抜採用・OJTを含む適切な人員配置、オフィスのレイアウト、服装規定など、さまざまな組織施策が該当します。
環境コントロールは戦略的に組織の空気感・一体感を作る手法であるため、業績管理やマニュアル管理では対応できない領域をカバーできます。またそれにより、マネージャーによる監視がなくても社員が自律的に行動できる組織づくりに役立ちます。一方で組織目標の達成に対しては間接的なアプローチであるため、効果がでるまでに時間がかかりやすく、また効果が定量的に測りにくいという側面があります。
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04マネジメントコントロールをうまく進める3つのポイント
マネジメントコントロールをうまく進めるには、以下の3つのポイントを押さえることが大切です。
- 1:目的・指標・行動を一本のロジックでつなぐ
- 2:理想と現実のギャップを検知し修正するための仕組みを作る
- 3:経営指標だけでなく組織文化などにも目を向ける
それぞれについて詳しく紹介します。
目的・指標・行動を一本のロジックでつなぐ
マネジメントコントロールは、企業全体の目標の達成に向けて戦略と現場のオペレーションをつなぐ役割を担います。そのため業績目標や予算の管理・調整を行ううえでは、会社の進む方向性と各社員の目標・行動を一本のロジックでつなぐことがとても重要です。一人ひとりの業務と成果が組織全体の目標達成に寄与することが明確になると、社員は自身の業務の重要性を理解し、全力で向き合いやすくなります。
理想と現実のギャップを検知し修正するための仕組みを作る
マネジメントコントロールでは、組織の目的を確実に達成するため、「理想と現実のズレを見つけて修正する仕組み」が欠かせません。具体的には、目標を設定し、定期的に達成状況をモニタリングして、必要があれば是正措置を取るという、PDCAのプロセスです(サイバネティクスコントロールとも呼びます)。この仕組みがなければ、計画と現実のズレに対して適応できず、最終目標の達成確度は大きく下がってしまうでしょう。予実のズレに対してタイムリーに対応することで、組織全体の方向性が揃い、限られた資源を無駄なく使え、目標達成の可能性が高まります。
経営指標だけでなく組織文化などにも目を向ける。
マネジメントコントロールでは、経営指標だけでなく組織文化などにも目を向けることが重要です。アプローチが売上や利益等の定量指標に偏ると、社員の価値観や行動規範といった「大事だが測り難い領域」が放置されやすくなります。しかし戦略は社員が実行してこそ初めて意味を成すものであり、また人のパフォーマンスを最大化させるには、内面へのアプローチを無視できません。共通の価値観や経営理念を浸透させることで、組織の一体感と社員の自律的な貢献を促し、長期的な組織力向上につながります。
05マネジメントコントロールにおすすめの講座
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| 受講形式 | オンライン (アーカイブ型) |
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| 費用 | 1ID/1,650円 ※ID数によりボリュームディスカウントあり |
| 契約形態 | 年間契約のみ ※ご契約は20IDからとなっております |
“強い”会社とは?〜人が自ら動き出す環境をつくる〜
この授業では、モチベーションジャパン代表の松岡先生から、「強い会社」になるための「人事の仕組み・制度・施策」について学びます。本稿では、マネジメントコントロールを成功させるために、業績や予算などの定量的管理だけでなく、人材や文化面の側面も重要であることを見てきました。本授業ではそれら戦略の実行を支える組織を作るうえで、どのような点を押さえておくべきなのか、そして社員の本気を引き出すポイントについて学びます。
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株式会社モチベーションジャパン 代表取締役社長
人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からアプローチする経営コンサルタント。リクルートでは、組織人事コンサルタントとして活躍。ファーストリテイリングでは、執行役員人事総務部長、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長を歴任。ソフトバンクでは、ブランド戦略室長。福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役として球団立上げを行う。現在は、経営、人事、マーケティングのコンサルティング企業である株式会社モチベーションジャパンを創業。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士、キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザーとして、キャリアコンサルタントの育成にも力を入れている。著書『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』(日本実業出版社)
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管理会計入門
この授業は「管理会計」を学ぶ全7回のコースです。会計には「財務会計」と「管理会計」があり、社会人の方が自身の現場業務と結びつけるために学ぶのであれば、直接的な結びつきが分かりやすい管理会計から学び始めるのがオススメです。 現場に直接活きる、管理会計とはどのようなものなのかを紐解いていきます。
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経営学者/YouTuber
経済学博士(東京大学)。大阪大学経済学研究科准教授を経て独立。「アカデミーの力を社会に」をモットーに、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。専門は、イノベーション・マネジメント、経営戦略論。 主な著書に『ど素人でもわかる経営学の本』(翔泳社)『感染症時代の経営学』(千倉書房)『戦略硬直化のスパイラル』(有斐閣)など。YouTube「中川先生のやさしいビジネス研究」では毎週火・木・土に経営学講義や時事解説動画を配信中。
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ビジョン達成のためにA4一枚の経営計画を作る
本授業では、金融機関にも提出できる経営計画書の作成方法について学びます。何枚にも及ぶ重厚な経営計画書ではなく、11の必要項目を網羅したA4一枚の経営計画書の作成が、この授業のゴールです。
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中小企業診断士、社会保険労務士
株式会社千葉銀行に入社後、株式会社ちばぎん総合研究所にてコンサルティングを25年間経験、部長職など歴任し、現在公的機関で企業の経営相談をしている。 経営計画の作成・推進支援、経営改善支援、5S指導や商工会議所などで講演を行ってきた。 おもな著書は『A4一枚で作成できる・PDCAで達成できる経営計画の作り方・進め方』(日本実業出版社)、『1から学ぶ企業の見方』(近代セールス社)、『5Sで決算書がグングンよくなるんです』(日刊工業新聞社)など多数。
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06まとめ
マネジメントコントロールは、Robert N. Anthonyの定義に基づき、組織目標達成のため資源を効果的に活用するプロセスです。社員のモチベーション向上や組織の方向性統一、目標達成の確実性向上が目的です。ケネス・マーチャント氏によると、行動、環境の3つの主要手法があり、目的・指標・行動のロジック接続、ギャップ修正、組織文化考慮が成功の鍵となります。