組織戦略とは?重要性と具体的な策定ポイントを徹底解説

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組織戦略とは、組織の長期的な目標を達成するために、どのような組織の仕組みで実行するかを定めるものです。企業理念や事業戦略を効果的に実現するための組織構造の設計や、社員一人ひとりのモチベーション・能力を引き出す評価・育成設計などが含まれます。変化が激しく先の見通しが立てにくい現代社会において、企業はそのような環境に対応できる組織をつくることが求められています。本記事では、組織戦略の意味や策定のポイント、活用できるフレームワークについて紹介します。

 

01組織戦略の意味と重要性

ここではまず、組織戦略の意味や重要性について解説します。また、エンゲージメント強化やフラット型組織など、組織戦略の具体例も紹介します。

組織戦略とは?

組織戦略とは、事業戦略を実行可能にするために、組織の構造・役割・権限・意思決定プロセス・人材の配置や育成などの仕組みを、一貫性をもって設計・運用する方針です。

設計の対象としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 組織構造:部門間の関係性や役割分担、レポートライン
  • 人材戦略:採用・配置・育成の方針と計画(必要なスキルや人材ポートフォリオを含む)
  • 組織制度・運営の仕組み:評価・目標管理、意思決定プロセス、会議体、権限設計、情報共有の仕組み など
  • 風土・文化:組織全体で共有される価値観、マネジメントスタイル、行動指針など

組織戦略の重要性

組織戦略は、企業の理念や事業戦略を推進するために欠かせません。特に近年、変化の激しい経営環境で成果を最大化させるために、人的資本経営の重要性が高まっています。人的資本経営とは、従業員の価値を最大限引き出すことに注力した経営のあり方です。人的資本経営の実践には、組織の姿やあり方、方針を最適にデザインする必要があるため、組織戦略と人的資本経営は密接な関係があります。

またSchoo授業『はじめての戦略人事〜もし戦略人事の責任者に就任したらどうする?〜』では、講師の松岡保昌先生が以下の著名な言葉を紹介しています。

はじめての戦略人事〜もし戦略人事の責任者に就任したらどうする?〜
  • ・「組織は戦略に従う」アルフレッド・チャンドラー
  • ・「戦略は組織に従う」イゴール・アンゾフ

いずれも反対のことを言っているように見えますが、組織と戦略の密接な関係性を捉えているという点で共通します。組織戦略を巡っては「事業戦略に基づき組織を形成する」というチャンドラーの考え方も、「組織の特性を活かして戦略を策定する」というアンゾフの考え方もいずれも重要であると考えられています。

組織戦略の具体例

大企業の開示資料をもとに調査した大和総研のレポートでは、組織戦略のパターンとして①組織拡大、②戦略的持株会社、③新規事業関連組織の発足・強化、④トレンド対応組織(DX対応等)の設置、⑤企業内大学の設置、⑥エンゲージメント強化、⑦フラット型組織、の7つを挙げています。

  • 組織拡大戦略(※事業成長に合わせて部門や拠点を増設・再編し、実行体制をスケールさせる動き)
  • 戦略的持株会社(※ホールディングス化などを通じて、ガバナンスと意思決定の分担・権限配分を組み替える動き)
  • 新規事業関連組織の発足・強化
  • トレンド対応組織の設置(DX対応)
  • 企業内大学設置
  • エンゲージメント強化
  • フラット型組織(※組織内の管理階層を減らし意思決定スピードの向上を目指す動き)

特に近年は、環境変化に対する迅速な対応が課題となることが多く、意思決定階層を見直し(フラット化)権限移譲を検討する企業や、社員のパフォーマンスを高めるエンゲージメント強化施策に取り組む企業も見られます。また人事領域でもテクノロジー活用が進み、社員データや行動データを用いて施策の策定・実行を行う「ピープルアナリティクス」などの施策も存在感を増しています。

▶︎参考:大和総研|組織戦略の論点整理とあるべき姿

 

02組織戦略策定のメリット

組織戦略を策定することで、組織全体のパフォーマンス向上や、激しい環境変化への対応力を強化するといったメリットを得られます。ここでは、組織戦略策定のメリットについて解説します。

組織全体のパフォーマンスの向上

先程ご紹介したチャンドラーの「組織は戦略に従う」という言葉が表すように、組織戦略の目的は戦略の実行を通じた企業目標の達成です。たとえば組織のチーム構成や稟議フローを見直すことで、入ってくる情報の内容や意思決定スピードが大きく変わるように、同じメンバーで仕事をしていても組織設計次第でパフォーマンスは上がったり下がったりするものです。事業戦略や方針を踏まえ、現状のボトルネックは何なのか、推進のためには何が必要なのかを正確に捉え、組織にも反映することができれば、全体のパフォーマンスは大きく向上する可能性があります。

激しい社会変化への対応力の強化

現代は「VUCA時代」と呼ばれ、変化が激しく先の見通しが立てにくい点が特徴として指摘されています。このような環境において組織戦略は、企業が変化に強く、スピード感をもって事業推進できる状態になるために重要な役割を果たします。不確実性を前提に、意思決定や権限、情報共有の仕組みを整え、状況変化に応じて素早く判断・実行できる体制を構築しておくことが大切です。

経営戦略とのつながりが明確になる

経営戦略に基づいた組織戦略を策定することで、組織と経営とのつながりが明確になり、一貫性のある意思決定や施策実行が可能になります。組織戦略がない状態では、人事施策や組織設計を行う場合に、経営戦略との接続が弱くなったり、見過ごされたりする可能性が高まります。組織戦略として言語化されることで、経営層のみならず、各施策の担当者階層でも施策の目的をぶらすことなく判断・実行しやすくなります。

 

03組織戦略・経営戦略・人事戦略の違いとは?

ここまで組織戦略の意味について見てきましたが、続いて混同しやすい概念である「経営戦略」「人事戦略」との違いを整理しておきましょう。

経営戦略とは、企業が長期的な目標を達成するために、どの領域で何を行うか(どれをやらないか)を選択し、必要な資源配分と行動方針を定め、全社の一貫した指針として運用するものです。一方、人事戦略は経営戦略や組織方針に基づき、人事制度や採用・育成・配置を通じて望ましい人材集団を形成するための方針と施策を指します。これは組織戦略と重なる領域でもあります。

事業戦略、人事戦略、組織戦略の主な違いは以下の通りです。これらは相互に密接に連携し、企業成長のために不可欠な戦略です。

種類 目的 主な内容 役割 担当部門
経営戦略 企業としてどこで成長し、何を優先するかを定める 事業ポートフォリオ、成長シナリオ、市場アプローチ(製品・サービス開発、M&A、提携など) 全社の方向性や資源配分の大枠を定める 経営陣、経営企画
組織戦略 経営・事業戦略を実行する組織をデザインする 組織構造(役割・部門・レポートライン)、権限配分、意思決定プロセス、行動指針策定 など 組織の実行力、意思決定スピード、業務品質を高めるための基盤づくり 経営企画、人事、各事業部
人事戦略 人材の確保、配置、人材開発を行う 人事制度設計、人材育成体系、採用戦略、人材ポートフォリオ、タレントマネジメントなど 経営・組織戦略を「人と制度」で実装し、組織能力を高める 人事、各部門
 

04組織戦略を策定する方法とポイント

組織戦略を策定する際のポイントとして、以下の3点を解説します。

  • 1:ミッションや経営戦略との接続を明確にする
  • 2:目標達成の仕組みと貢献を促す評価を連動させる
  • 3:組織成立の3要素を重視する

1:ミッションや経営戦略との接続を明確にする

組織戦略は、経営戦略を実現するための基盤です。そのため、組織戦略を考える際は、まず会社のミッションや経営戦略とのつながりをはっきりさせることが大切です。つながりを明確にする際は、次の点を意識しましょう。

  • 前提となるミッションやビジョンを明確にし、社内外に発信・浸透させる。これにより、策定後の組織戦略が本来の目標から逸れるのを防ぐ。
  • 経営戦略から組織戦略、さらに人事戦略までが「一貫したストーリー」として繋がっているかを確認する。
  • 経営戦略を実現するために必要な人材要件や組織課題を幅広く捉える。人事部門の視点だけで策定するのではなく、経営企画や事業部門などと協力し、多角的に整理する。
  • 組織と戦略は相互に影響することを理解する。市場環境が変わればそれに合わせて柔軟に対応していくことが重要である一方、組織のケイパビリティや特性を活かす視点も忘れない。

2:目標達成の仕組みと貢献を促す評価を連動させる

経営戦略を精度高く実現していく観点から、組織戦略策定においては従業員の力を最大限引き出すための土台作りを意識する必要があります。その要素の一つとして重要なのが、目標・評価制度の設計と運用です。

仕組みを作る際は、目標達成の方法と評価が一つのストーリーとして経営戦略につながっているかを確認しましょう。また理論上の接続だけでなく、現場で運用したときに納得感があり、貢献意欲を高める仕組みになっているかも大切です。公正で納得度の高い評価制度を通じて、社員に期待する行動と報酬の関係を明確にします。さらに、計画→実行→振り返り→改善のサイクルを回し続けることで、組織全体の成果を高めていきます。

3:組織成立の3要素を重視する

組織戦略を検討するうえで押さえておきたい観点として、「バーナードの組織の三要素」があります。経営学者チェスター・バーナードは、組織が成立するために不可欠な3つの要素として「共通目的」「貢献意欲」「コミュニケーション」を整理しました。

バーナードの組織の三要素は、組織が単なるリソースの寄せ集めではなく、人々の協働によって成立することを示しています。例えば、どれほどモノ・カネ・情報といった経営資源が豊富にあっても、組織を動かす「人」の行動なくしてこれらは活用できません。ミッションやパーパスといった共通の目的を明確にし、円滑なコミュニケーションを担保し、社員の貢献意欲(協働意欲)を高めることで、組織の力が最大限に引き出されます。

▶︎関連記事:バーナードの組織の三要素とは?組織に必要な3つ要素を理解し導入するためのポイントを解説


 

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05組織戦略策定のアプローチ方法

組織戦略策定のアプローチ方法には、フォアキャスティングとバックキャスティングの2つがあります。以下に、それぞれのアプローチ方法について詳しく解説します。

1:フォアキャスティング

フォアキャスティング(順行型アプローチ)は、現状からの積み上げを基に未来を予測し、組織戦略を策定する手法です。データに基づき、現在から予測可能な範囲で計画を立てるため、関係者の合意も得やすいというメリットがあります。

一方で、過去の延長線上にある未来しか描けず、大きなイノベーションや非連続的な変革は生まれにくいという側面もあります。そのため、市場が比較的安定しており、既存事業の改善や着実な成長を目指す場合に有効なアプローチ方法と言えるでしょう。

2:バックキャスティング

バックキャスティング(逆算型アプローチ)は、到達したい目標やありたい姿から逆算的に計画を描くアプローチです。たとえば「10年後に実現したいビジョン」を定めたうえで、5年後に到達している状態、今年取り組むべき行動へと落とし込みます。革新的・非連続的な成長を目指せる可能性があり、また設定された目標が明確で魅力的な場合には、社員のエンゲージメントを高める効果も期待できます。

一方で、過去の延長線上ではないため、計画が現実離れするリスクがあり、短期的な利益との両立が難しくなる場合があります。そのため、業界のルールが変わるような大変革期や、既存の延長では設計が難しいシーン(例:DXの推進、新しい事業の立ち上げ、SDGsのような長期的な社会課題への取り組み)に向いています。

 

06組織戦略策定に役立つフレームワーク

この章では、組織戦略策定に役立つフレームワークとして、(1)マッキンゼーの7S・(2)SWOT分析、(3)ガルブレイスのスターモデルの3つを紹介します。

マッキンゼーの7S

マッキンゼーの7Sモデルは、組織が効果的に機能するための7つの要素を「S」で表し、その関係性を理解するフレームワークです。これらは以下の「ハードの3S」と「ソフトの4S」に分類されます。

■ハードの3S(比較的変更容易)

  • 戦略 (Strategy):自社の経営のける勝ち筋
  • 組織構造 (Structure):役割分担や部門関係
  • 社内の仕組み (System):業務プロセスや評価制度など

■ソフトの4S(比較的変更難易度が高い)

  • 能力・スキル (Skill):従業員と組織のスキルとノウハウ
  • 人材 (Staff):採用・育成・配置など
  • 共通の価値観 (Shared Value):組織のビジョンや存在意義
  • 経営スタイル (Style):組織風土や社風

組織戦略策定や組織変革のシーンにおいては、これら7要素の観点から組織課題を整理し、何をどのように変化させるのかを、変更難易度も含めて検討することがポイントです。

▶︎関連記事:マッキンゼーの7sとは?導入効果や事例を紹介

SWOT分析

SWOT分析は、自社の事業環境を整理するためのフレームワークです。自社の内部要因(ポジティブな強み・ネガティブな弱み)と外部要因(ポジティブな機会・ネガティブな脅威)を分けて分析することで、自社の置かれた状況を客観視しやすくなります。このフレームワークは、以下の4つの要素で構成されます。

要素 分類 概要
Strengths (強み) 内部・ポジティブ 自社の優れた点や競争優位性
Weaknesses (弱み) 内部・ポジティブ 自社の課題や劣っている点
Opportunities (機会) 外部・ポジティブ 市場や環境における成長の可能性
Threats (脅威) 外部・ポジティブ 市場や環境からの潜在的リスクや障害

SWOT分析を使う際、組織の人材や仕組み・文化といった観点も含めて整理すると、組織としての強みや課題を把握することに役立ちます。

▶︎関連記事:SWOT分析とは?読み方からやり方、書き方、クロスSWOT分析まで簡単に解説

ガルブレイスのスターモデル

ガルブレイスのスターモデルは、組織戦略の実現に向け、意図的にマネジメントすべき5つの要素を示すフレームワークです。戦略を起点とし、各要素が相互に影響し合うことで、組織全体の機能とパフォーマンスを最大化します。

要素 概要
戦略 (Strategy) 組織目標達成のための計画(起点)
構造(Structure) 役割・権限・レポートラインなど
プロセス(Process) 業務プロセス、マネジメントプロセス
報酬 (Reward) 期待行動を促す評価やインセンティブ
人材 (Talent) 適切な人材の採用、配置、育成

 

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本授業では、戦略人事の考え方、アクションの起こし方について学べます。戦略人事についての基本的な考え方を把握し、自社における戦略人事を定義付けられることが、本授業のゴールです。

  • 株式会社モチベーションジャパン 代表取締役社長

    人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からアプローチする経営コンサルタント。リクルートでは、組織人事コンサルタントとして活躍。ファーストリテイリングでは、執行役員人事総務部長、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長を歴任。ソフトバンクでは、ブランド戦略室長。福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役として球団立上げを行う。現在は、経営、人事、マーケティングのコンサルティング企業である株式会社モチベーションジャパンを創業。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士、キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザーとして、キャリアコンサルタントの育成にも力を入れている。著書『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』(日本実業出版社)

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本授業では、経営戦略を策定するための土台となる「経営理論」を中小企業診断士である野網美帆子先生に解説いただいています。経営者でなくともビジネスパーソンとして自社の経営戦略への理解を深めたり、事業戦略のブラッシュアップを図るために押さえておきたい知識を紹介しています。

  • エイチス株式会社 代表取締役 中小企業診断士

    東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。中小企業診断士。 難しいことを、分かりやすく伝えるプロ。 経営コンサルタントの国家資格で「日本版MBA」とも呼ばれている中小企業診断士の試験対策テキスト「一発合格まとめシート」の著者。 同書は、学ぶべき内容が一目で俯瞰できる図解とわかりやすくかみ砕いた表現の解説で、中小企業診断士を志す多くの受験生の人気を博しており、Amazon中小企業診断士の資格・検定カテゴリで毎年ベストセラー1位を獲得している。 また、YouTube「まとめシート流!絶対合格チャンネル」(登録者数約1.5万人)を運営しており、資格試験の合格法についても発信している。

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08まとめ

「組織戦略」とは、企業の理念や事業戦略を推進し、社員の能力を最大限に活かす組織をデザインすることです。人的資本経営が重視される現代において、組織全体のパフォーマンス向上と激しい社会変化への対応に不可欠です。具体的には、ミッションとの接続、目標達成と評価の連動に加え、バーナードの組織成立3要素(共通目的・貢献意欲・コミュニケーション)を重視して策定しましょう。フォアキャスティングやバックキャスティングといったアプローチ、マッキンゼーの7S等のフレームワークも策定の役に立ちます。ぜひ本記事を参考に組織戦略を再考してみてください。

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この記事を書いた人
Schoo編集部
Editor
Schooの「世の中から卒業をなくす」というミッションのもと活動。人事担当や人材育成担当の方にとって必要な情報を、わかりやすくご提供することを心がけ記事執筆・編集を行っている。研修ノウハウだけでなく、人的資本経営やDXなど幅広いテーマを取り扱う。
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