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2022年11月28日 16:01 更新
商品やサービス、デザインを企画・制作する際によく用いられる「コンセプト」。独自性のある商品やサービスには良いコンセプトがあると言われていますが、良いコンセプトを設計するためには、コンセプトの定義や、その例を知っておく必要があります。
ここではSchooの授業『選ばれるコンセプトデザイン』の内容も一部交えながら、コンセプトの定義や、コンセプトを設定する上で役立つ考え方をご紹介します。
先生プロフィール
吉田 将英(よしだ・まさひで)
コンセプター。戦略プランナー・営業を経て、現在は経営全般をアイデアで活性化する経営者伴走の共同プロジェクトを実施。 また、10〜20代の若者を対象にした若者研究にも長年従事し、消費心理・動向分析とそれに基づくコンサルティング/コミュニケーションプラン立案に従事。「クリエーティビティによる経営伴走」と「人間心理洞察」の2つの専門性をもとに、経営課題を物事と人の関係性に着目して解決する「関係性デザイン」を得意とする。
< 授業概要 >
このコースでは、商品やサービスにおける「コンセプト」の定義や実態を知り、またその「デザイン」の仕方を学ぶことができます。コンセプトの定義と効果を知り「つくってみたい」「もっと学んでみたい」と思えるようになり、さらには、実例を基にコンセプトデザインの仕方を覚え、自社の商品や身近な商品で試してみましょう。
「コンセプト」とはマーケティングやブランディング、デザインの現場などでよく使われる用語ですが、類似する用語も多いため、いざ説明しようと思うと難しい言葉でもあります。コンセプトに対するイメージをつかみ、良い商品やサービスを企画するためにも、次でコンセプトの定義を学んでおきましょう。
ここではコンセプト(consept)の語源と辞書に記載されている意味を解説します。コンセプト(concept)の語源は強調の接続語「Con-」にラテン語の「capere(ぐっと捕まえる)」を加えたものだと言われています。また英和和英辞典サイトのweblioではcanseptの意味を「構想、発想、コンセプト、考え、概念」と掲載しています。
つまり語源や現代での辞書的な意味をまとめると、コンセプト(consept)の言葉は「物事の本質を捉えられるような、構想や概念」と定義されていると言えるでしょう。
ここまでご説明したように、コンセプトとは物事の本質を捉える考えのことで、特にビジネスや商品の企画をする際に用いられます。コンセプトを使った言葉はいくつかあるので、ここでご紹介します。
ブランドコンセプトとは、類似商品やサービスとの差に感じている印象やイメージを表す「ブランド」の価値を言語化したものです。ブランドコンセプトを設定する理由は、既にそのブランドに価値を感じている消費者やユーザーが、まだ利用したことがない人に一言でその商品やサービスの魅力について説明できるようにするためです。ブランドコンセプトを明確に決めることで、商品やサービスの価値が伝わりやすくなり、長く愛されるブランドになります。
事業コンセプトとは、企業が事業を行う上で顧客に対して、どのような価値をどのように提供するかをまとめた事業構想です。事業コンセプトを作成することで、商品の開発する際や、事業を拡大する際の意思決定で迷いにくくなり、従業員のモチベーション向上や関係者からの協力が得やすくなるメリットがあります。
コンセプトカフェ(コンカフェ)とは、来客者に体験してもらいたい世界を体現させたカフェです。例えば接客係がメイドの役を演じて、来客者をもてなすメイドカフェもコンセプトカフェの一種です。最近ではアニメとコラボレーションした料理や世界観を提供するコンセプトカフェや、ペットと一緒に過ごせる体験価値を提供する猫カフェも人気があります。
コンセプトアートとは映画やアニメ、ゲームなどの制作物のデザインイメージやアイディアを最終製品として仕上げる前に絵として視覚化したものです。制作に携わるメンバー間で制作物のイメージを共有し、鑑賞者やプレイヤーに届けたい体験に対する認識を統一させるために用いられます。『ブレード・ランナー』(1982)や『エイリアン』(1986)のデザインを手がけたシド・ミードがコンセプトアートを始めたと言われています。
冒頭にご紹介した「選ばれるコンセプトデザイン」の授業では、商品やサービスの受け手が体験する価値の方向性を定義することをコンセプトとして定義しています。また「価値の方向性」とは、受け手である消費者やユーザーに商品やサービスが存在する意味や他の商品にはない独自の体験をどのような方法で届けるかを示すことです。
つまりコンセプトとは、商品やサービスの作り手(送り手)にとっては活動の指針となるものであり、商品やサービスの受け手にとっては理想を言語化したものだと言えます。
優れた企画には優れたコンセプトがある」と言われるほど、明確なコンセプトが決められた企画は独自性が確立され、影響力も大きくなります。それでは、身近にある有名なコンセプトは、どのような施策に繋がっているのでしょうか。次で、有名なコンセプトの例とその施策を5つご紹介します。
スターバックスのコンセプトは「サードプレイス」(※)であり、自宅でも職場でもない、第三の居場所を求める受け手の理想を言語化したものです。このコンセプトから派生して、親子で楽しめるバリスタ教室や、店内に設置したボードを活用して販売しているメニューの中で好きな焼き菓子に投票する企画など、スターバックスの空間だからこそ楽しめる施策が実施されています。
※参照:スターバックス公式サイト
AKB48は「会いにいけるアイドル」をコンセプトに2005年に結成されたアイドルで、これまで憧れの対象として距離感があることが当たり前だったアイドルの固定観念を打ち破ったプロジェクトです。
このプロジェクトではアイドルに対する既存の価値観(歌って踊れる、可愛いなど)を最大化させるのではなく「好きなアイドルに会いたい」ファンの深層心理を捉えることで、他のアイドルと異なった価値を提供しています。そして、このコンセプトがAKB48の代名詞でもある握手会やAKB総選挙など、ファンを巻き込んだ施策に繋がったと言えます。
星野リゾートが有する6つのブランドのうちの一つ「星のや」は星野リゾートの中でも最上位ブランド旅館と言われており、コンセプトは「現代を休む日」(※)。星のやではコンセプトを体現するため、客室にテレビが設置されていません。宿泊客は日常の忙しさを忘れ、宿泊地の趣を存分に楽しめますよね。また来館者が提供された世界観に浸れるよう、旅行地の雰囲気に合わせた家具を設置する施策も実施されています。
※参照:星のやコンセプトムービー
ダイソンの掃除機は1978年に創業者のジェームズ・ダイソンが掃除機の性能が低下することに不満を抱いた体験から開発された、世界初のサイクロン式掃除機です。
ダイソンの掃除機のコンセプトは「吸引力の変わらないただ一つの掃除機」で、デザインエンジニアとしてキャリアを築いているジェームズ・ダイソンが掃除機を利用する生活者が抱える課題を実際に体験したことが商品のコンセプトに繋がったと言えるでしょう。家電量販店では「吸引力が変わらない」点を体験してもらうため、実機を使ってゴミが吸えるようなスペースを用意している店舗もあります。
東京ディズニーリゾートを運営する株式会社オリエンタルランドは東京ディズニーランドについて「あらゆる世代の人々が一緒になって楽しむことができるファミリー・エンターテイメントを実現したいというウォルト・ディズニーの思いがディズニーランドを生み出し、この考えがディズニーテーマパークの基本コンセプトとなっています。」と説明しています。
このコンセプトがパーク全体を舞台とみなして従業員をキャスト(役者)、来園者がゲストと呼ぶ世界観や、園内を冒険や童話、未来など7つのエリアに分けることで、さまざまな年齢で構成される家族が楽しめるように設計されている点に繋がっていると言えるでしょう。
次ではコンセプトの定義をさらに理解できるよう、コンセプトと似ている言葉と、その違いについてご説明します。
トンマナ・テイストとコンセプトの違いは商品やサービス開発の中で言葉が用いられる場面にあります。ここでは、それぞれの言葉の意味について確認しながら、違いを見ていきましょう。
トンマナとは「トーン&マナー」のことで、デザインや文章などの制作物に一貫性を持たせるためのルールのことです。またテイストとは「ポップ」「レトロ」などのように彩度や配色の特徴によって分けられたジャンルのことです。つまりトンマナとテイストは主に何かを制作する過程で用いられる言葉で、一方のコンセプトは受け手の価値を定義することなので、商品の企画段階で用いられる概念・言葉だと言えます。
コンセプトとキャッチコピーはどちらも商品やサービスについて言語化したものですが、コンセプトはキャッチコピーの上位概念であり、異なる場面や目的で使われます。
具体的に見ていくと、コンセプトは商品やサービスの送り手側が受け手側に提供したい価値を言語化したもので、商品やサービスを開発する上での指針となる概念です。そのため、必ずしもコンセプトが受け手に直接開示・表現されるとは限りません。一方のキャッチコピーはコンセプトを通じて開発した商品やサービスにどのような価値があるのかを、受け手側に分かりやすく伝えるために広告や宣伝物で用いられる文章なので、受け手に伝わることが前提になっています。
コンセプトとテーマはどちらもアウトプットの基となる考えという視点を持ちますが、使われる対象や目的が異なります。goo辞書によれば、テーマ(Thema)は「行動や創作などの基調となる考え。主題。論文の題目など」の意味を持つ言葉で、主に芸術作品に対して制作者がどのような主題を表現したのかを鑑賞者に示す際に用いられます。
ビジネスシーンでは「企画の前提」の意味で「テーマ」が用いられる場合があります。一方のコンセプトはテーマをもとに企画された商品やサービスを実現する手段を意味する言葉で、受け手が体験する価値を企画に携わるメンバーに共有する際に用いられる言葉です。
ここまで解説してきた言葉の意味やコンセプトの代表例から、生活者やユーザーに愛される商品やサービス、プロジェクトには良いコンセプトがあることを学んでいただけたのではないでしょうか。次では商品やサービスの企画を立てる上でコンセプトが重要である理由を3つご紹介します。
前の項目「言葉の定義」でも解説したように、コンセプトとは送り手である企業や商品・サービスを企画する人にとって、行動の指針となる概念です。つまり、コンセプトが定まっていれば、商品やサービスなどの企画を立案する場面では、生活者に体験してもらいたいことや、感じてもらいたい価値に対してメンバー間で共通認識が出来上がっている状態であり、会議を建設的に使える時間が増えると考えられます。
例えば、会議の中で企画の候補を絞る場面では「コンセプトに沿った企画か否か」を議論すれば良いので、的外れな意見が少なくなり、意思決定がしやすくなります。また提案が決定した企画が前例のないアイディアであっても、生活者が商品やサービスを通した体験に価値を感じられる企画であることを第三者に証明できれば、企画を実現するスピードも上がりやすくなるでしょう。
コンセプトが決められた商品やサービスは受け手に新たな価値を提供する機会を与えるため、機能や品質、ブランド力が他社と差別化されやすくなります。「サードプレイス」をコンセプトに掲げるスターバックスを例に見てみましょう。
前の項目でご紹介した親子バリスタ教室や、カップにメッセージを書くサービスはスターバックスのコンセプトから生み出された独自の施策ですが、コンセプトなしにこのようなサービスを考え出すのは時間がかかると言えるでしょう。
またこの施策は一見売り上げにつながるよりも、人件費や物品の費用をはじめとした投資費用の方がかかるように見えますが、これらのサービスを楽しみにしている顧客は近隣に他のカフェがあったとしても、スターバックスにしかない体験があることを知っているので、来店する可能性が高くなります。このように、コンセプトを軸とした施策は他社との差別化ポイントとなり、結果として事業の強みにもなっていくのです。
コンセプトに基づいたサービスは、生活者や顧客の理想を叶える行為であり、サービスを提供する送り手はサービスを受ける顧客のために存在することになります。そのため、受け手である顧客はサービスの送り手を信頼するようになり、良好な関係性を築きやすくなります。
またコンセプトが設定されていることで、受け手は商品やサービスを通して独自の価値を一貫して提供してもらえるため、自分の価値観に合ったサービスを受けられる場所には複数回訪れるようになります。このように、コンセプトが設計されているサービスは受け手にとっての価値が明確なので、送り手側がコンセプトを設計することは顧客と深い関係が築きやすくなるメリットがあるのです。
コンセプトの意味や例を学び、コンセプトの考え方が身に付いたところで、コンセプトを考える上で重要なポイントをご紹介します。実際に企画を立てる際に活用してください。
コンセプトは「受け手がどのような理想を抱いているのか」仮説を立てることから始まります。つまり「売り上げを伸ばしたい」「競合のシェアを奪いたい」などの商品やサービスを企画する送り手側の都合はコンセプトを決める上で不要になるのです。商品やサービスを世に打ち出すからには、売り上げやユーザー数の獲得などの目標を設定することになりますが、コンセプトを考える際は、あくまで受け手の視点に立って考えるようにしましょう。
また生活者の視点に立って、どのような価値を得られれば受け手が満足するのか仮説を立てる時、受け手は必ずしも自分が商品や社会に抱いている理想を言語化できているわけではないため、生活者が「そう言われれば、こんなもの(体験)が欲しかった」と思うような理想像を言語化する試みも必要になります。
コンセプトとはここまで見てきた通り、「受け手にとっての価値の方向性」です。そのため、サービスや商品に関する議論をしたり、コンセプトを考えたりする上では、常にサービスや商品提供の目的・意義などの上段を意識することが重要です。 こういった会議の中では議論が紛糾し、意見がまとまらない場合も少なくありません。そのようなシーンでは「受け手にとっての価値」を基にした議論がなされていないが故に、参加者の目線が揃わない場合もあります。
良い企画、良いコンセプトを考えるためには「そもそも何(誰)のための価値提供なのか」「受け手に価値を感じてもらうためにどのような効果を出す必要があるのか」などの成功イメージや目的の定義に立ち返ることで、コンセプトのアイディアが出しやすくなります。議論の原点に立ち返る発言は一見、遠回りに見えますが、的を得たコンセプトや企画を打ち出すためには必要なので、必要に応じてぜひ、勇気を持って発言してみてくださいね。
受け手にどのような価値を提供するのか、そのためにどのような行動指針が必要なのかを議論する中で商品やサービス、事業の大まかなコンセプトが決まっていきます。そして、大まかなコンセプトをブラッシュアップする上で重要な問いが「独自性があるか」です。
多くのモノやサービスが存在する現代で「受け手が理想としている価値」とはつまり、この世に存在していない新規性のある企画であると言えるからです。企業や商品・サービスの存在意義を定義し直すきっかけにもなるでしょう。
コンセプトを定めることで既存の価値観を打ち破り、独自性のある施策や商品開発がしやすくなるため、機能やデザインが類似したモノやサービスが流通(コモディティ化)している業界でビジネスを成功させる突破口にもなるでしょう。商品やサービスを企画・設計する機会がある方はぜひ、コンセプトデザインについてじっくり学んでみてくださいね。