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2022年12月02日 10:22 更新
価値観の多様化によって「いいものは作れば売れる」時代は終わり、商品やサービス、または企業自体の独自の魅力や価値を伝えることの重要性が増しています。特に商品作りやサービス企画、その他人事・広報など社外コミュニケーションの多い領域で活躍したいと考えている方にとってブランディングの意味や実践的な知識を理解するのは急務だと言えるでしょう。
ここではブランディングに関するSchooオリジナル授業の内容を参考に、ブランディングの意味からブランディングのフロー、実例まで幅広く解説します。
ブランディングとは、「ある商品、サービスもしくは企業全体としてのイメージに、ある一定の方向性を作り出すことで、他者と差異化すること」です(Schoo授業「できる!ブランディング塾」より)。
この定義からも、ブランディングは製品の外観だけではなく、サービスや企業全体のイメージに関わる全てのことに関連する内容であると分かります。ここでは、「ブランディング」という言葉をより深く理解するため、言葉の意味や種類について解説していきます。
「ブランド」の語源は古代ノルド語の「Brandr(焼き印をつける)」にあると言われています。かつて、自身の家畜を他者の家畜と見分けることを目的に、放牧している仔牛に焼きゴテで牧場の印を付けたことに由来します。つまり「ブランディング」には語源より「区別する」「差異化する」の意味が含まれているのです。
上記のとおり、ブランディングの本質は他者との差異化です。そのため、ブランディングを行う上では商品やサービス、企業情報を目にした消費者や顧客、求職者などに「他者との違い」を正しく伝える技術が求められます。他者との違いが独自の価値に発展し、消費者が他の消費者にSNSやブログなどのツールを用いて、その価値を伝言ゲームのように伝えてゆく、好循環が生まれます。
「ブランディング」と聞くと、企業が社外の消費者や顧客向けに行う企業ブランディング、求職者向けに行う採用ブランディング、または個人を商品として売り出すためのセルフブランディングが想起されやすいでしょう。
一方、ブランディングには上記のような対外的に行う「アウターブランディング」だけではなく、組織の文化醸成を目的とした対内的な「インナーブランディング」も存在します。次でそれぞれのブランディングの概要を見ていきましょう。
アウターブランディングとは、商品やサービスを提供する企業が社外の顧客や消費者、求職者に向けて実施するブランディングです。
アウターブランディングの目的は、社外の関係者に対して、自社や製品の独自価値を正しく伝えることです。そのため、具体的な手段にはTVCMやラジオ、新聞や雑誌を含むメディア露出、SNS運用やイベント・展示会への出展、ロゴやパッケージデザインなど多岐にわたる企業活動が該当します。
インナーブランディングとは、企業が自社の従業員に向けて実施するブランディングです。営業や商品企画等の企業活動を実際に行うのは従業員であるため、従業員が企業の独自価値をよく理解することを通じ、企業の代表としてブランドを体現していくことが出来るようになります。
また、従業員エンゲージメント強化やモチベーション向上などの効用も得られます。そのためインナーブランディングでは企業理念の浸透と事業を通して成し遂げたいミッション・ビジョンの正しい理解の促進が重視されます。具体的な手段としては、ブランドムービーやブランドブックの制作、社内研修やワークショップの企画・運用等が挙げられます。
ブランドを構成する主な要素は以下のとおりです。
これらの構成要素は、企業側が消費者や顧客に「商品やサービスに対してどのようにイメージしてほしいか(=ブランドアイデンティティ)」を言語やデザインで伝える際に用いられます。
またSchooオリジナル授業『できる!ブランディング塾』の西澤明洋先生によれば、前提としてブランドには以下3つの要素が必要だとされています。
国内市場競争の激化により、「作れば売れる時代は終わった」と言われています。技術が進歩し、物質的に豊かな現代日本においては、自分の価値観に合ったもの・共感できるものを選ぶ傾向が強まっています。そのような市場下で、経営者の熱意や製品・サービスにまつわるストーリーは差異化の1つの要素になるでしょう。
そして使用感の悪い商品は、いくらイメージが良くてもリピートには繋がりません。前提として、消費者に安心感を与え、継続して使われる良い商品・サービスである必要があります。
3点目のコミュニケーションチームとは広報部門をはじめとした、商品やサービス、企業情報の認知拡大を目標とした組織のことです。熱意の込められた良い商品があり、その魅力をチームが十分に理解した上で、適切なプラットフォーム上でユーザーに発信して初めてブランディングが成り立つのです。
ここまでブランディングの概要を理解するための知識として、言葉の意味やブランドの要素を解説してきました。ブランディングに関する知識をさらに学ぶ上で役立つのが、ブランディングと類似、または相関する言葉の意味とブランディングとの違いを知っておくことです。
ここからは「ブランディングとマーケティングの違い」「ブランディングとデザインの関係」について解説していきます。
TVCMやイベント開催など、同様の手法を用いることがあるためブランディングとマーケティングは混同されがちです。しかし両者は目的や求められる行動が異なります。
ブランディングの目的は商品やサービスの価値をブランド要素や広報によって正しく伝え、顧客や消費者にポジティブなイメージを想起してもらうことです。
一方、マーケティングの目的は4P(Product:商品戦略、Price:価格、Place:流通戦略、Promotion:販促戦略)に則って商品やサービスを売ることです。
ブランディングとマーケティングは影響し合うものではありますが、例えば需要期に合わせて広告露出を増やし売上を伸ばすのはマーケティングであり、若者世代に人気のタレントをイメージキャラクターに採用して「若者向け」のイメージを伝えていくのはブランディングとなります。
デザインもブランディングと同時に語られやすい言葉です。デザインは直訳すると「設計・図案・意匠」といった意味があります。またデザインには狭義と広義の意味があります。
狭義の場合は色やフォルムなどを形作るパッケージデザインが、そして広義の場合は形作ったパッケージデザインの前提となっている思想や哲学を含むデザインが当てはまります。いずれの場合も、顧客との一貫性のあるコミュニケーションの実現や優れた体験の創出が目的です。
それに対しブランディングの本質とは前述の通り「差異化」です。そしてブランディングとは経営から施策まで、一気通貫した方向性作りであると言えます。そのためブランディングを実現するためにデザインはとても重要ですが、このように両者はイコールの関係にはないのです。
ブランディングの目的は、自社ならではの価値を正しく顧客に伝えることです。そして、ブランドが約束するものと常に一致する価値を提供することにより、顧客との良好な関係を維持発展させることを目指します。
つまりブランディングの目的を達成するためには、独自価値の創出に加え、ロゴやパッケージを含むブランド要素やサービスの機能や質などあらゆる体験が、顧客からの期待と乖離しないことが重要だと言えるでしょう。
商品やサービスのコピーは可能ですが、企業や商品/サービスが有する意味的価値(ブランド)は簡単に模倣できません。このようなブランディングによる影響が企業に与えるメリット・効果を次で4つ解説します。
ブランディングが成功した商品・サービスは利益率が上がりやすくなります。ブランドに対する信頼感からリピーター率が増えることによって、競合他社との価格競争から距離を取れるからです。
LTV(Life Time Value=1人の顧客が取引を始めてから終わるまでの期間にもたらす利益の総額)も向上するため、企業の経営も安定しやすくなるでしょう。
ここまで解説してきたように、ブランディングとは独自の価値を消費者や顧客に正しく伝え、商品やサービスに対するイメージを想起してもらうことでした。
つまり、ブランドロゴやパッケージデザインを介して伝えたイメージが消費者や顧客の印象に残り、手に取った商品や受けたサービスに対して独自の価値を認めてもらえれば、顧客は長期的に商品を購入したり、サービスを受けてくれるのです。
企業ブランディングの一例に、企業が社会に伝えたい思いを言語化した「ブランドメッセージ」があります。
ブランドメッセージの役割は企業の商品やサービス、経営に対する世界観を端的に伝えることです。そのため、ブランドメッセージは取引先との会話の起点や取引先や顧客、社員への安心感、最終的には企業の社会的価値につながるのです。
企業のブランドメッセージには次のような事例があります。
・ソニーグループ:make.believe
「make」は思いや着想を実際の商品や体験として形にする同社の行動を、「believe」はアイディアや理想像など同社の精神を表し、「.」が精神と行動をつなぎ、想像を現実へと結び付ける同社の役割を象徴している。
・株式会社リクルート:まだ、ここにない、出会い。
ホットペッパーやSUUMOなど生活に関する幅広い領域で事業を展開し、新しい価値の創造を目指すリクルートのベンチャースピリットを表している。
一般的に新たな市場に参入するには、既存企業との競争が避けられず多大なコストがかかります。一方、企業ブランディングが確立されていれば、今まで培ってきた信頼や、顧客に与えてきた安心感から自社商品やサービスのファンや取引先が新しい市場でも武器になります。ネームバリューのない他社と比較すればビジネスで成功しやすいでしょう。
自社をブランド化させ、求職者や学生に自社の魅力を伝えるブランディングを採用ブランディングと言います。
就職サイトやOB・OG訪問を接点とした採用ブランディングが的確に行われていれば、応募や面接の段階で自社の社風や、重要視している行動指標を理解している求職者や学生を獲得できる確率が上がるのです。
自社の商品やサービス、自社の情報(社風やミッションなど)を正しく伝えるためには、自社についての深い理解が欠かせません。
そのため、ブランディングではまず、外部環境や自社が置かれている市場を分析します。具体的には以下のフレームワークを用いて客観的に自社の状況や置かれている環境などを分析・把握すると効果的でしょう。
また以下のような社風や社会貢献の実績を含めた、コーポレートアイデンティティの軸となっている情報も独自の価値を定義する上で参考になります。
フレームワークやコーポレートアイデンティティを活用して自社の状況や独自の価値が把握できたら、ブランディング戦略の決定に移ります。ブランディング戦略の決定では、競合他社との差異化ポイントを定めます。
差異化ポイントを定める際には販売している商品や、提供しているサービスの市場規模や購買層の年齢や性別などのデータを収集・分析します。その後、自社が優位に立てるポジショニングを明らかにするため、競合他社の位置づけを行い、市場や購買層に対して自社が独自に提供できる価値と戦略を決定するのです。
コンセプト(consept)の辞書的な意味は「物事の本質を捉えられるような、構想や概念」です。この意味から「ブランドコンセプト」とは類似商品やサービスとの差に感じている印象やイメージを表すブランドの価値を言語化したものだと言えます。
ブランドコンセプトは商品やサービスを提供する企業が、消費者や顧客に対して還元できる独自の価値やミッションを言語化したものです。ブランドコンセプトに共感してくれる消費者や顧客が増えるほど、企業のブランド認知度が上がり、間接的に長期的な利益獲得につながります。
【コンセプトとは?言葉の意味や必要性、考える際のポイントについて解説】を読む
ブランディングの戦略や方向性が決まったら、ブランドコンセプトをロゴや商品などのデザインに反映し、発信します。プロジェクトに携わるデザイナーはこれまでの工程で定まったコンセプトや方針を軸に、関係者と議論をしつつ制作を行います。そして、設計したコンセプトやブランドのメッセージが正しく顧客に伝わるように様々な発信をしていきます。
ブランディングを実施したら、併せてブランディング施策の効果測定を行います。ブランディングとは消費者や顧客に心理的な変化を与える施策なので、数値化が難しいと言われていますが、以下のように代表的な目標指標(KPI)も存在します。
ブランディングが成功すると、例えば顧客の購入率が上がったり、顧客自身がSNSでよい口コミを発信してくれるなどによってCPAが下がる効果が期待できます。また、競合他社との差異が明確になり、顧客は商品の独自価値に魅力を感じて利用継続してくれやすくなり、LTVも改善します。
ブランディングの意味や効果を理解できたところで、ブランディングの成功事例を見てブランディングに関する知識を深めていきましょう。
星野リゾートは2022年に開業108年目を迎える、老舗の総合リゾート企業です。星野リゾートの特徴は、以下のように複数のサブブランドを展開することで幅広い顧客ニーズに応えている点だと言えます。
サブブランドを作るメリットには各ブランドのコンセプトから自分に合った旅館・ホテルを顧客が簡単に選択できるようになり、満足度が向上する点や、星野リゾートグループ全体でのリピート率やLTVが向上する点が挙げられます。
後でご紹介するSchooオリジナル授業『できる!ブランディング塾』でも事例紹介がされている堀口珈琲は、スペシャリティコーヒーのパイオニアと言われる珈琲店です。
産地や焙煎技術、高品質なブレンドをはじめとしたブランドの強みが伝えきれていない課題を解決するため、「THE NEW COFFEECLASSIC」のコンセプトで、ブランドのこだわりを体現したロゴデザインを制作。コーヒー初心者にも親しみやすいブランドに成長しています。
無印良品は1980年にスーパーマーケット西友のプライベート・ブランドとして出発、1989年に「株式会社良品計画」のブランドとなり、現在は900店舗を超える規模に成長しています。無印良品のブランドコンセプトは「自然と。無名で。シンプルに。地球大」。統一されたシンプルなデザインは、エッジがききすぎていないデザインを好む消費者に愛され続けていると言えるでしょう。
最後にSchooオリジナル授業の中からブランディングの概要や実践方法について学べるコース授業を3つご紹介します。気になる授業や、お仕事に活かせそうな授業はぜひ覗いてみてくださいね。
< コース概要 >
ブランディングデザインの第一人者、エイトブランディングデザイン代表 西澤明洋先生から経営に効くブランディングの実践方法や、ブランドをつくりだすためのデザインを学べる全4回のコース授業です。ブランディングによって企業価値や商品価値を高めたいと考えている経営者やプランナー、ブランドを作り出すデザインに携わるデザイナーにおすすめのコース授業になっています。
先生プロフィール
西澤 明洋(にしざわ あきひろ)
ブランディングデザイナー。株式会社エイトブランディングデザイン代表。 「ブランディングデザインで日本を元気にする」コンセプトのもと、企業のブランド開発など幅広いデザイン活動を行っている。主な仕事にクラフトビール「COEDO」、抹茶カフェ「nana’s green tea」、ヤマサ醤油「鮮度生活」など。グッドデザイン賞をはじめ、国内外100以上の賞を受賞。著書に『ブランディングデザインの教科書』(パイインターナショナル)など。
< コース概要 >
ブランディングの実例を通じて、ブランディングとデザインの制作過程を理解できるコース授業です。『できる!ブランディング塾』でブランディングの意味やブランドデザインの基礎を学んだ後、現場で実践する方法を知りたい方におすすめの授業になっています。
< コース概要 >
このコースでは副業や起業をはじめとした組織から自立した働き方を「パーソナルブランディング=最小単位の経営」と位置づけ、「個人の生き方」をデザインしていく方法を課題図書などを交えて学びます。特別ゲストには実際に企業勤めから自ら起業した実践者も登壇するので、自分のキャリアプランに悩んでいる方にとって、自分のキャリアを考え直しながら、モデルケースを見つけられる授業です。
ブランディングとは新規顧客に企業や商品・サービスが持っている独自の価値をビジュアルや言葉で伝えるだけではなく、市場競争が激化する中でも根強いファンを獲得できる手法です。
自社にマッチした人材を採用したいと考えている人事担当者や、経営企画に携わる方だけではなく、フリーランスとして活躍する方にとっても、獲得できる案件を増やしたい際や、他者との差別化に活用できると言えるでしょう。
Schooではブランディングを含む、クリエイティブデザインに関する授業が月額980円で受け放題です。ぜひ活用してくださいね。