2023年2月14日 11:11 更新
ブレスト(ブレインストーミング)はクリエイティブ職種はもちろん、商品企画や新規事業の立ち上げ、チームビルディングなど斬新なアイデアが必要なシーンに役立つ手法です。
一方、やり方を誤ってしまえばただの雑談で終わってしまったり、結局何が決まったのか不明瞭なまま次のアクションに繋がらない場合もあります。ここではブレストを成功させるために役立つ、基本ルールとやり方を解説します。
ブレスト(ブレインストーミング:brainstorming)とは1950年頃にアメリカの実業家アレックス・F・オズボーンが考案したアイデア発想法です。
オズボーンは著書『創造力を生かす』(1969)にてブレインストーミングを以下のように定義しています。
「ブレインストームとは少人数の人々が1時間ほどクリエイティブな想像力を働かせるためにのみ行う会議の一種(特定の問題についてアイデアを出し合うもの)である」
つまりブレストは、1人の知識や発想だけでは思いつかない、多様なアイデアや改善策を見つけるために行われる「アイデアを生み出す集団発想手法」だと言えるでしょう。
またオズボーンは、ブレストと同じアイデアを発散する際に役立つ「オズボーンのチェックリスト」も後世に残しています。アイデア発想に役立つフレームワークをさらに知りたい方は『フレームワークとは?シーン別25選と使い方のポイントを解説』も参考にしてくださいね。
前述した「オズボーンのチェックリスト」のようにアイデア発想法はブレスト以外にも存在します。その中でもブレストは「複数人」で「創造的なアイデア発想」をすることを目的に作られた会議手法です。
そのため他のアイデア発想法と比較して、既存概念や先入観に囚われない創造的思考(問題に対して斬新で有意義な発想をする考え方)がしやすい特徴があります。
またブレストの効果は、創造的なアイデアを発想しやすくなる点だけではありません。後段の「ブレストの4原則」で解説するように、ブレストには創造的思考がしやすくなるようなルールが存在します。このルールを守って会議を進行することで、心理的安全性・チームワークの向上や組織内の情報共有が円滑になる効果も期待できるのです。
ブレストとは「アイデアを生み出す集団発想手法」、つまりアイデアを生み出すための会議であることを解説してきました。そしてアイデア(idea)とは「思いつき」や「新規な工夫・着想」を意味する言葉です。
言葉の意味から「アイデア=まだこの世には存在しない面白い考え」とイメージする方も少なくないでしょう。しかしアイデアは最初から面白くある必要はありません。
アイデア創出に関する名著『アイデアの作り方(1988)』の中で、著者のアメリカ人実業家ジェームス・ウェブ・ヤングは「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」と書いています。つまり「既存のものと既存のものの組み合わせ」がすでにアイデアなのです。たくさんのアイデアを出した結果として「面白いアイデア」が生まれることを覚えておきましょう。
ここまでブレストの特徴について説明しましたが、次ではブレストを利用するメリットを「沢山のアイデアの組み合わせが作れる」「チームの活性化につながる」の2つの側面から解説します。
前述のように、アイデアとは既存のものと既存のものの組み合わせによって生み出されます。そのため、参加者(発案者)から積極的に発言してもらえる場であるブレストは、構造的にアイデアが生まれやすいと言えるでしょう。
また新たに生まれたアイデアをその場で組み合わせて、さらに新規性のあるアイデアに変化させられるメリットもあります。
また「ブレストの目的・効果」でも触れたように、ブレストはアイデア発想に優れているだけではありません。ブレストの効果的な進め方と、ルールの順守が叶えばチームの活性化にもつながります。
前の項で記載の通り、ブレストは複数人で発想を組み合わせて新しいアイデアを構築していくことが特徴です。
そのため、ブレストの効果を最大限発揮するためには参加者がいかに自由にかつ沢山の発信を行えるかがポイントになります。つまりブレストの目的を達成するには、発言しやすい雰囲気が欠かせないのです。
このような雰囲気の中で会議が行われると、若手社員も先輩や上司とコミュニケーションが取りやすくなり、ブレストが終わった後もチームメンバーとの情報交換やコミュニケーションも円滑になる傾向があるのです。
ブレストは問題や課題解決を目的としたアイデア発想手法であり、斬新なアイデアを創造しやすいメリットがあることが分かりました。また斬新なアイデアには発言・発案の量が欠かせないこともお分かりいただけたでしょう。
これらの特徴を踏まえて、ここではブレストが失敗するパターンを解説します。
既存のアイデアを組み合わせることで斬新なアイデアを生み出せます。そのため、活発にアイデアが出てこない場合は斬新なアイデアが生み出しにくくなり、ブレストによる問題や課題の解決も達成が遠のいてしまうと言えるでしょう。
活発にアイデアが出てこない原因には、アイデア発信が安心してできない雰囲気になっている場合やブレストの目的が伝わっていない場合、集まったメンバーが初対面または交流の回数が少ないにも関わらず、アイスブレイクが用意されていない場合などが考えられます。
ビジネスシーンでブレストに参加した経験がある方の中に「ブレストに参加したけれど、結局あの時間は何のためにあったのだろう」と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
このような方は残念ながら、アイデア出しだけで終わったブレストに参加していたと言えるでしょう。
ブレストの目的はあくまで問題や課題の解決であり、大抵の場合は問題や課題を解決するための企画立案です。そのため、雑談のような穏やかで活発な雰囲気のブレストが実現したとしても、アイデア出しの後の企画化まで完了しなければ、ブレストは失敗に終わってしまうのです。
前段で解説したように、ブレストには主な失敗パターンがあります。これらの失敗を回避するために、ここからはブレストを成功させるための4原則を見ていきましょう。
「ブレストの場で出てきた意見を否定したり、批判しない」ルールは発言量の多さを実現するために必要な項目です。
ブレストでは複数人が1つのテーマや目的にに沿って、アイデアを自由奔放に発言することで、斬新なアイデア(アイデアの組み合わせパターン)を創出することが1つのゴールだと言えます。
そのため、否定や批判がない状況を作り出せれば、参加している全員が自分の意見に自信を持って発言できる雰囲気が実現し、発言量の多いブレストになると言えるでしょう。
また「アイデアの質よりも量を重視するルール」は、アイデアの組み合わせパターンを最大化させ、斬新なアイデア発想を実現するために欠かせない項目です。
ブレストの目的やテーマに沿って発言する必要はありますが、最初から質の高いアイデアや誰も考えつかないような新規性のあるアイデアについて発言する必要はありません。
大量のアイデアを出した後に質を高めて問題や課題の解決のための企画化に繋げる意識で、ブレストに出席するようにしましょう。
また後段の「ブレストの進め方とポイント」でも解説しますが、ブレストの進行役(ファシリテーター)が事前に発言量に関する目標を決めておくのも一案です。
「ブレストがアイデア出しの場であると言っても、企画に落とし込めるのか不安」と考える方もいるでしょう。しかし、アイデアが活発に出ている段階では自由に考え、発言する心構えの方が好ましいと言えます。
なぜなら、ブレストは理路整然と進行する通常の会議とは異なり、「既存の概念に囚われない創造的なアイデア」を生み出す場として設けられているからです。
また通常のブレストでは、参加者が自由にアイデアについて発言する「思考の発散」フェーズと参加者が出したアイデアをグルーピングする「思考の収束」フェーズに分けて構成されます。出しきったアイデアは発言が出きった段階で整理されるので安心してアイデアの発散をしましょう。
他の人のアイデアに乗っかる(肯定したり、付け加える)ことも多様な意見やアイデアをメンバーから引き出す雰囲気づくりに欠かせないルールです。
前述の通り、アイデアとは「既存の要素の新しい組み合わせ」で生まれます。そのため、人のアイデアと全く違うものを出そうと意気込む必要はありません。他の人の意見に自分のアイデアを付け加えて発展させていくことでアイデアのブラッシュアップができるのです。
また他の人のアイデアを肯定することで、肯定された人は自分が考えたアイデアをさらに発言しやすくなり、それに感化された他のメンバーの発言も促されるでしょう。これらの効果によって最終的には多くのアイデアが発言され、アイデアの組み合わせパターンがより多様になる可能性が高まります。
ここまで解説したように、ブレストとは既存のアイデアとアイデアを組み合わせて、問題や課題に対する新しいアプローチ方法(アイデア)を生み出すのに向いている会議形態でした。
そして、この特徴を最大化させるために、発言しやすい雰囲気を醸成する「ブレストの4原則」が存在します。
ブレストの特徴やメリットが理解できたところで、ここではより実践的な内容として「ブレストの進め方とポイント」を4つの段階に分けて解説します。
「課題・テーマ設定」ではアイデアが必要な問題・課題を設定します。ブレストでは課題・テーマに沿ってアイデア出しが行われるため、ブレストの主催者や進行役(ファシリテーター)が課題やテーマを決める場合がほとんどです。また「課題・テーマ設定」のポイントは具体性を持たせて、解釈の齟齬を減らすことです。次のように問題解決の対象を明確にし、改善策に関するブレストでは数値を用います。
< 課題・テーマ設定の例 >
▼具体性がない場合
収益増加のためのアイデア
▼具体性がある場合
顧客管理サービス事業で収益を前年対比2割増加させるためのアイデア
課題・テーマに具体性をもたせる理由は、参加者によって課題・テーマの解釈が異なり、企画化に役立つアイデアが集められなかった場合、ブレストに割いた時間が無駄になってしまいかねないからです。
また課題・テーマ設定が的確に行われていれば、参加者は何に関して考えるべきか明確なため、質より量を重視した積極的な発言がしやすくなると言えるでしょう。
「課題・テーマ設定」でブレストの目的やアイデア出しの対象が明確になったら、次に「体制づくり」に移ります。「体制づくり」とは効果的なブレストを進行するために必要な役割と適任者を決める段階です。参加者によって場の雰囲気は大きく左右されるので、目的に適した体制づくりはブレストの成功の要だと言えます。
ブレストに必要な役割は以下の通りです。
■進行役(ファシリテーター)
■書記(セクレタリー)
■参加者
ブレストの準備段階である「課題・テーマ設定」「体制づくり」を手抜かりなく終えたら、いよいよブレストの実施に移ります。多くのアイデアが発言され、企画に採用できるようなアイデアが生まれるブレストを進行するには以下を抑えるようにしましょう。
誰もが発言しやすい雰囲気を醸成するには、事前に「ブレストの4原則」を周知する、またはブレストを実施する会議室に「ブレストの4原則」を掲示すると良いでしょう。
また、進行役であるファシリテーターが参加者へ話題を振ったり、テーマに対して当たり前の発言をするなどして、発言に対する敷居を下げるのも効果的です。
またある程度のアイデア量が出たと進行役が判断した場合や、発言量が減ってきた場合は休憩を設けてその際に出てきたアイデアをグルーピング(収束)すると新たなアイデアが生まれやすくなります。
この際に役立つのがアイデアを書いたカードやポストイット、ホワイトボード内の領域をアイデアの系統ごとに分類する「KJ法」です。
KJ法を用いたグルーピング(収束)では、関連性のあるアイデアが書かれているカード・ポストイットを重ねて各グループを簡潔に示す見出しを付けてアイデアを整理していきましょう。
ブレストは準備・実施だけで終わりではありません。ブレストの時間内でメンバーから出てきた多様なアイデアを企画に落とし込むことで「ブレストが成功した」と言えます。
なぜなら、ブレストはあくまで問題・課題解決を目的とした会議手法に過ぎないからです。ブレストが終わったら可能な限り早いタイミングで企画化を行いましょう。
手抜かりなく準備を行い、参加者が発言しやすい雰囲気が醸成されており、目的やテーマに沿ったブレストの進行がされていれば、きっと企画に採用しやすいアイデアが見つかるでしょう。
アイデアの企画化はブレストの主催者が担当することが多いですが、ブレストの中で採用されたアイデアの発案者が担当することもあります。
最後にブレストの4つの原則や、効果的なブレストの進め方について楽しく学べるShooオリジナル授業をご紹介します。アイデアの出し方を学びたい方やブレストを成功させたい方は気軽に受講してくださいね。
< 授業概要 >
この授業では、ブレストの基本的なルールや重要なポイントを改めて確認し、「成果の出るブレスト」の方法を学びます。ブレストの基本を知りたい方や効果的なブレストのやり方を理解したい方におすすめの授業です。
先生プロフィール
大澤 孝(おおさわ・たかし)
トイアイデア総研代表/クリエイター。アイデア商品のセレクトショップ「王様のアイディア」店長兼、アイデア共創コミュニティ「アイデアステーション」代表。大手玩具メーカー勤務時代に「ベイブレード」「夢見工房」「人生銀行」など数々のヒット商品・話題商品の企画開発に携わる。2021年にはクラウドファンディングにて2,000万円以上を集めた話題商品「ミャウエバー」を企画開発。
ブレストの起源は創造的な思考が求められていた世界大恐慌後の1950年です。一方、技術革新のスピードが速まり、社会情勢の変化から未来が予測しにくい時代(VUCA時代)にある現代のビジネスシーンにも創造的思考が求められていると言えるでしょう。
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