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2023年3月20日 18:13 更新
国際情勢の変化や新技術の登場など、私達を取り巻く環境は日々スピーディに変化しています。そして、そんな先行きが見えにくい現代において、仮説検証を繰り返し新たな道筋を見出す力がビジネスパーソンに求められています。本記事では、日々の仕事に必要不可欠なスキルである「論理的思考」の重要性、具体的な方法を詳しく解説します。
まず初めに論理的思考の言葉の意味と起源を解説します。「論理(的)」とは議論・思考・推論を進める法則や形式を意味します。つまり論理的思考とは、物事の要素を体系的に整理したり、法則に沿って行われる筋道立った思考なのです。
また論理的思考は「ロジカルシンキング(Logical Thinking)」とも呼ばれ、時代や用いられる文脈によって言葉の意味が異なります。例えば、学術的分野における「論理学」では「三段論法(大前提・小前提・結論からなる推論形式)」として発展してきました。
これを踏まえて、現代ではコンサルティング会社が「MECE」や「So What / Why So」をはじめとしたコンサルティングノウハウとして活用する形式でビジネスパーソンにも広まっているのです。
経済産業省がビジネスパーソンとして活躍し続けるために必要なスキルをまとめた『人生100年時代に向けた社会人基礎力』の能力のうち、論理的思考は「考え抜く力(疑問を持ち、考え抜く力)」の土台だと言えます。考え抜く力は「論理的に答えを導き出す以上に、自ら課題提起し、解決のためのシナリオを描く、自律的な思考力」であり、以下のようにまとめられています。
・課題発見力
現状を分析し、目的や課題を明らかにする
・計画力
課題の解決に向けたプロセスを明らかにした上で準備する
・創造力
新しい価値を生み出す
物事を体系的に整理し、推論する力である論理的思考は、社会人基礎力の考え抜く力の中でも特に「課題発見力」と「計画力」に影響を与えます。
また、論理的思考はトリプルシンキングの要素の一つです。トリプルシンキングとはビジネス上重要な3つの思考法の総称であり、具体的には「論理的(ロジカル)思考」「批判的(クリティカル)思考」「水平(ラテラル)思考」の3つの思考フレームワークで成り立ちます。
これら3つの思考は組み合わせて使うことで課題解決やアイデア出しの精度が上がると言われています。次で論理的思考以外の「批判的思考」「水平思考」について論理的思考との関係性から、詳しく解説していきます。
批判的思考とは物事や情報に対して疑問を投げかけ、客観的な視点で思考をする方法です。批判的思考はトリプルシンキングの中で「思考の歪み(バイアス)や先入観を取り除く役割」を担います。そのため、根拠を正しく選択できていない場合、主張・結論が事実と異なる可能性が高まる論理的思考を「根拠の精査」や「視野の拡張」の点で補うのが批判的思考です。
水平思考とは物事や問題に対して前提に捉われない、新しい価値や方法を思考する方法です。水平思考はトリプルシンキングの中で「根拠や発想の幅を広げる役割」を担います。そのため、物事を要素分解し、フレームワークに当てはめて体系的に思考する論理的思考の弱みである独自性の乏しさを補える思考法だと言えるでしょう。
問題を発見し、考え抜く力やチームワークを最大化させるため、相手にわかりやすいように情報を整理した上で発信する力は所属する企業や業界に関わらず、すべての社会人に必要です。
またここまで、これらの力の基礎に論理的思考が存在することを解説してきました。次では論理的思考の重要性・メリットを4つ解説します。
論理的思考は物事を順序立てて根拠と結論に矛盾なく考える方法です。そのため、論理的思考をベースにすることで論理の飛躍の原因となり得る感情や偏見(個人の体験に紐づいた価値観)に捉われない判断が可能になります。
人は往々にして、個人の価値観や経験に左右された主観的な判断をしがちです。実際に行動経済学の分野で1979年に提唱された「プロスペクト理論」にあるように、人の意思決定は必ずしも合理的ではなく、非合理的な価値の感じ方や確率の感じ方によって左右されるとされています。
一方論理的思考を活用すれば、自身の主張や意見に対して証拠や論拠を明確にする必要が生じ、更に結論と論拠の間に矛盾や誤謬がないかを精査することにも繋がります。そのため偏見や感情に左右されず、より正確かつ客観的な判断ができるようになるのです。
論理的思考のフレームワークは経営コンサルティング会社のノウハウとして磨かれ、普及した経緯からも分かる通り、論理的思考はビジネスにおける問題解決に不可欠なスキルの一つです。
問題とは定めた目標(あるべき姿)と現状のギャップであり、目標達成を妨げる要因です。つまり問題解決とはあるべき姿を実現するための対策を決めることだと言えます。そして問題解決には以下のプロセスが存在します。
つまり問題解決をするためには「あるべき姿」と「現状」の差分から問題と課題を定義し、対策の決定まで道筋立てて考える必要があります。
論理的思考とは前述の通り「物事の要素を体系的に整理したり、法則に沿って行われる筋道立った思考」です。そのためこのスキルなしに最終段階の対策の決定までモレや矛盾なく思考を進めるのは非常に困難だと言えるでしょう。
論理的思考は今まで経験したことがない業務に対応する際にも役立ちます。なぜなら、未経験の事に予測を立てながら対応するためには、既存の情報を整理・分析することが必要であり、これらは論理的思考をもとに進めるからです。
特にVUCAの時代(予測不可能な時代)と言われている現代、論理的思考を用いて仮説検証を繰り返すことで、変化に適応しやすくなるでしょう。
論理的思考力があると、物事の法則や仕組みを理解しやすくなるため、業務の全体像理解や体系化がしやすくなります。また未経験の業務では情報収集のために、チームや企業全体の状況を大まかに把握する必要があるでしょう。このように業務の習得だけではなく、自分が所属する組織の状況や他部署との関係を理解・構築するのにも、物事をシンプルに整理できる論理的思考が役立ちます。
論理的思考は根拠から結論に至るまでの主張を整理するために役立ちます。そのため、論理的思考が習慣になっている人の話や文章は主張が明確になっている上、主張に対して矛盾がない根拠が添えられており、相手も理解しやすい傾向があります。その結果、コミュニケーションの齟齬や理解に必要な時間が削減され、効率的なコミュニケーションが実現するのです。
また論理的思考に基づいたコミュニケーションは相手にわかりやすいだけではなく、主観や固定観念を排しているため、相手の主張を尊重できる傾向があります。なぜなら、例え自分の主張と異なる意見を述べられたとしても、その意見の根拠や意見を述べた相手の状況を整理し、考察する姿勢でコミュニケーションが進められているからです。
これらのことから、論理的思考は主張の分かりやすさと相手の意見を踏まえた柔軟な対応によって、コミュニケーションを効率化できると言えるでしょう。
問題やテーマに対して順序立てて考える論理的思考には3つの土台となる考え方(フレームワーク)が存在します。次では、Schooオリジナル授業『推論「入門」』の内容を踏まえて、論理的思考の実践に役立つ考え方を詳しく解説していきます。
演繹法とは一般的なルールや法則に事実を当てはめて結論づける推論法です。例えば「魚類には背骨がある(ルール)」→「タコには背骨がない(事実)」→「タコは魚類ではない(結論)」といった考え方です。
推論法とは目に見える事実を可視化できない概念に抽象化する際に用いられる思考法であり、複数の事実の関係性や原因を見抜くのに用いられます。一般的には「大前提→小前提→結論」の形式で法則や前提を積み重ねることで論理が展開されます。汎用的なルールや法則に則って論理が展開されるため、複雑な問題やテーマについて考える際に向いています。
帰納法とは演繹法と逆の思考法で、複数の事実や情報・根拠から共通点を見出し、法則や結論に帰結させる推論法です。例えば「自社の高額商品の売れ行きが良い(根拠1)」+「デパートの高級ブランド店が客で混みあっていた(根拠2)」→「消費活動が活性化してきている(結論)」などの考え方です。
帰納法を用いた論理的思考では定義した共通点に納得感があることが重要です。また演繹法と異なり、導き出された法則や結論はあくまで収集した複数の事実や事例の中で矛盾がないものであり、絶対的な真実ではない点が特徴です。
アブダクションとは起こった事象に対して、既存の法則を当てはめて仮説を導き出す論理展開の一種で、和訳では仮説形成や仮説推論などと呼ばれます。例えば、「道行く人が皆傘を持っている(事象)」→「雨が降る予定の日は傘を持ち歩く(法則)」→「今日は雨の予報が出ているのではないか(仮説)」などの考え方です。
アブダクションは演繹法・帰納法とは異なり、起こった事象に対してどのようなフレームワークや普遍的な事象を当てはめるかによって導き出せる仮説が異なるため、知識量や体験量によって論理的に展開できる解の幅が変化すると言えるでしょう。
論理的思考を実践する際は、問題に対する解決策や問題の要素(課題)を可視化することで精度が上がります。そして思考を体系的かつ矛盾なく可視化するのに役立つのがフレームワークです。ここでは論理的思考と関わりが深いフレームワークを3つご紹介します。
MECE(Mutually Exclusive and Collective Exhaustive 、ミーシー)とは「モレなく、ダブりなく」物事の要素を洗い出し、全体を把握する際に役立つ概念です。様々な分析や情報整理を行う際に、分類の妥当性を判断するために用います。
MECEを用いることで複雑な状況から考えるべき問題・課題を正しく特定しやすくなります。そのため、法則に則って体系的に物事を考える論理的思考の基本概念だと言われています。またMECEを活用するには「トップダウンアプローチ」と「ボトムアップアプローチ」が存在し、各アプローチの詳細は以下のとおりです。
・トップダウンアプローチ
物事や問題の大枠から詳細に分解して考えを進めるアプローチです。演繹的アプローチと言い換えられます。物事や問題の全体像がつかめている場合に有効なアプローチ方法だと言えるでしょう。
・ボトムアップアプローチ
問題や物事の根拠や詳細から全体像を掴むアプローチです。帰納的アプローチとも言い換えられます。根拠や詳細などの情報が豊富である場合に有効なアプローチ方法だと言えるでしょう。
ロジックツリーとは問題を細分化した課題や、問題の原因を洗い出した上で解決方法を見つける際に役立つフレームワークです。ロジックツリーは目的別に複数の種類が存在します。代表例は以下のとおりです。
・Whyツリー(活用の目的:原因究明)
Whyツリーとは「なぜそうなっているのか?」と問いかけることで、問題を分解して原因を分析するフレームワークです。
・Howツリー(活用の目的:問題解決)
Howツリーとは「どのようにすべきか」と問いかけることで、問題解決のために実践する具体的な方法や解決策を導き出すフレームワークです。
・Whatツリー(活用の目的:要素分解)
Whatツリーとは「なぜ」と問いかけることで、複雑な問題の要素や解決策の選択肢をモレなくダブりなく整理して導き出すフレームワークです。
・KPIツリー(活用の目的:KGI達成に必要なアクションの分解)
KPI(Key Performance Indicator)ツリーとは経営達成目標(KGI)を達成するために必要なアクションとその関係性を整理するために役立つフレームワークです。
ピラミッドストラクチャーとは、主張と根拠をピラミッド状に可視化して情報を整理するのに役立つフレームワークです。前述のロジックツリーと形状が似ていますが、活用目的が異なります。
ロジックツリーが問題解決の手法として用いられるのに対し、ピラミッドストラクチャーは主張と根拠の矛盾を無くし、整理することで話の流れを論理的に組み立てるための手法として用いられます。
ここからはSchooオリジナル授業『ロジカルシンキング入門』の内容を参考に、論理的思考のトレーニング法を3つご紹介します。
何か新しいスキルを身に付ける際には、物事の全体像や本質を掴む必要があります。そのため、論理的思考のトレーニングにも同じことが言えます。そのため、論理的思考は以下の工程に分けられることを把握しておくと良いでしょう。
また問題の定義に役立つ「帰納法」や問題の細分化と解決方法/根拠の整理に役立つ「演繹法」といった基本の思考法のインプットが論理的思考の体得には欠かせません。論理的思考の構造を把握した上で、帰納法と演繹法を理解できれば、論理の飛躍(抜けモレ)や根拠と結論の矛盾を避けられます。
またMECE(モレなくダブりなく)やロジックツリーの概念を応用したフレームワークを使いながら、実際に問題の特定や問題を解決することも論理的思考法のトレーニングになります。具体的には以下のようなフレームワークがトレーニングに役立ちます。
・3C分析
3C分析とは、Customer(市場・顧客)、Company(自社)、Competitor(競合)について分析するフレームワークです。
・SWOT分析
SWOT分析とは、自社の事業や業務などをStrengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Threats(脅威)を整理して分析するフレームワークです。SWOT分析を基に内部環境と外部環境、強みと機会のプラス要因・弱みと脅威のマイナス要因を組み合わせる「クロスSWOT分析」もあります。
・5W1H
5W1Hとは「What(何を)、 Why(なぜ)、 Who(誰が)、 When(いつ)、 Where(どこで)、 How(どのように)」に分解して3C分析やSWOT分析を通してグルーピングした項目を整理した上で深堀する際に役立ちます。
・Whyツリー/Howツリー/Whatツリー
ロジックツリーの形式を基に「なぜ」「どのように」「何が」と問題を深堀りすることで解決策を導き出すフレームワークです。
要素分解とは問題の特定や課題解決の際、さまざまな視点から考えるべき内容を洗い出すことです。要素分解には以下3つの種類があります。
・視野を広げる
情報収集の領域や考える範囲を広げること
・視座を高める
役職がある人や責任が大きい人の立場で状況や問題について考えること
・視点を増やす
状況や問題について自分とは真逆の立場から考えること
上記の方法で考える内容を洗い出したら、これらをグルーピングして、前述のフレームワークで深堀りしていくことで問題の特定や問題・課題解決に繋がります。
最後に論理的思考の向上に役立つSchooの授業をまとめてご紹介します。本記事で解説した内容をさらに詳しく学びたい方や、復習したい方はぜひ受講してみてくださいね。
< コース概要 >
このコース授業では全2回の授業でビジネスパーソンの基礎スキルである論理的思考(ロジカルシンキング)の概要から実践方法までまとめて学べます。身近な事例を使った解説や練習問題を通して、論理的思考の方法を正しく学びたい方におすすめです。
< 授業概要 >
この授業では『ロジカルシンキング入門』で学んだ論理的思考(ロジカルシンキング)の構造やフレームワークを応用する方法を学びます。論理的思考やフレームワークを業務に活用してプレゼンテーションやコミュニケーションの質を上げたい方におすすめの授業です。
先生プロフィール
寺澤伸洋(てらさわ・のぶひろ)
ビジネス本著者。1976年大阪府生まれ。灘高校、東京大学経済学部を卒業後、日系メーカーで17年間勤務。経理、営業、マーケティング、経営企画と多様な部門を経験し、半年間のイギリス留学後に外資系企業に転職。在職中より書籍の執筆を開始。2021年に退職し、44歳でFIRE達成。著作に『40歳でGAFAの部長に転職した僕が20代で学んだ思考法』、『4時間のエクセル仕事は20秒で終わる』、『強みを引き出す4分割ノート術』がある。
< コース概要 >
本コース授業では全2回の授業を通して、問題と課題の違いや課題の本質を見極める方法を学びます。課題を見極め、生産性を向上させたいと考えている方におすすめの授業です。
先生プロフィール
清水久三子(しみず・くみこ)
株式会社アンド・クリエイト代表取締役社長。大手アパレル企業を経て、1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)入社。企業変革戦略コンサルティングチームのリーダーとして、多くの変革プロジェクトをリード。 2013年に独立し執筆・講演活動を開始。講師として、大前研一ビジネス・ブレークスルー、日本能率協会、日経BPセミナー、大手銀行系研修会社などに多数のプログラムを提供し、高い集客と満足度を得ている。 著書は「一流の学び方」など現在18冊を出版。東洋経済オンライン、プレジデントオンラインなど連載多数。
論理的思考は物事や問題を正しく把握した上で、課題を解決する際に役立つ思考法です。また論理的思考はビジネス上のコミュニケーションの効率化や、変化が多く先行きが不透明なVUCA時代と言われる現代、ビジネスパーソンが問題解決をするための基礎力として欠かせないスキルと言えるでしょう。
Schooではロジカルシンキングをはじめとした思考術・自己啓発の授業が月額980円で受け放題です。ぜひ活用してくださいね。